北国で潜む異世界の昏き牙の話④
「嘘ッ?! 無効化された上に、魔力吸収された……!?」
「どういう事ですの!? 抵抗の魔法を展開しているようには見えませんでしたが……!」
予想していなかった事態に賢者妹は思わず動揺し、それを見ていたジェドは咄嗟に思い至った事を口にする。
「ねえ、今のってもしかしたら、君たちが杖と一緒に持ち帰って来た遺物のネックレスじゃないの? アレも確かレプリカ品として量産されてたんでしょ?」
「あっ、そうかもしれません……! えっと、火属性対応なら確か――“炎天煌く頚飾”でしたか。それなら私の魔法を無効化されたのも納得です……!」
ジェドの意見にレフィリアもドライグ王国で接収したアイテムについて思い返す。
そういえば、魔王軍がエステラの保管していた遺物を奪い、模倣したものの中には炎、氷、雷の三属性のうち、対応した一つを完全に無力化する上に、魔力吸収までしてしまう装飾品があった筈だ。
「火属性無効……だったら、それ以外の属性で攻撃すれば済むことじゃん! てことでぇ――裁きの雷霆、ライトニングボルト!」
反撃に失敗した賢者妹に代わり、今度はジェドが翳した魔杖から夥しい稲妻の束を放つ。
しかし、その猛烈な電撃投射さえも人狼たちに接触しようとした瞬間、先ほどと同じように防がれては散っていき、雷属性のマナとなって吸収されてしまった。
「ちょっ、マジで!? まさかアイツら、ネックレスの二重掛けでもしてんの!?」
「どうやらそうみたいですね……雷属性の魔法も無効化吸収されたという事は、きっと“雷光煌めく頚飾”も装備しているのかと……!」
「うっわ、キモッ! なんかこっちの得意分野に前以て対策してきてるみたいで気持ち悪いッ!」
思わず罵るような台詞を吐くジェドであったが、そのすぐ傍でレフィリアが焦ったように仲間達へ声をかける。
「くっ、もう持たせられない……! みんな、すみませんけどブロードシールドが解けますッ!」
レフィリアが苦し紛れにそう言ってから僅か三秒ほどで、四人を覆っていた半球状の障壁が瞬く間に消え去ってしまった。
そしてそのタイミングを見計らったかのように再度、魔杖を持った人狼たちから彼女らに向けてフリーズレイの連射が降り注いでくる。
「ヤバ――」
「大丈夫ですわ!」
その時、咄嗟にコメットが前に進み出ては手に持った十字の魔杖を突き出すように高く掲げた。
すると四人に迫っていた白い光線群は、その全てが見えない壁に阻まれたかのように止められ、しかもより勢いを増したように跳ね返っては魔法攻撃を放った人狼たちの元へ送り返されていった。
要するに、最初よりも威力が上乗せされた状態で反射されたフリーズレイは、それを撃った術者に漏れなく被弾し、瞬間凍結された人狼らは建物の屋根から反動で転げ落ちると、地面に激突した衝撃で凍った部位が粉々に砕けては戦闘不能に陥る。
因みに人狼たちが身に着けていた魔除けのネックレスは術者自身も対応した属性の魔法が使えなくなる効果の為、彼らは氷属性を防ぐ装飾品を持っておらず、故に思いきりダメージを受けてしまったという訳だ。
「今の、魔法が反射された……!? それもより威力が増して……!」
驚きに目を瞠ったレフィリアにジェドも続いて、コメットの方を見る。
「さっきのはもしかして、リフレクトフォース!? だけど、一工程どころか無詠唱で即座に展開したように見えたけど……」
「――なるほど、その杖を“道具として使用した”んですね。コメットさん」
コメットが行った行為の理屈を見抜いた賢者妹に、正解だと十字の杖を降ろした彼女は頷く。
「その通りです。皆さんが下さったこの“魔封じの十字杖”は外敵からの魔法攻撃に対して、遮断、吸収、反射のいずれかを選択して行える機能があるのですわ。それも反射する場合はより強い魔力を添えて」
「そうだったのか……って、それなら最初から使ってくれてもよかったんじゃないの!?」
思わず突っ込んでしまったジェドの言葉に、申し訳なさそうにコメットは返す。
「すみません。レフィリアさんがより上位の防壁を展開されていましたので、更にその外側まで反射障壁を届かせるような芸当は流石に出来なくて……」
「ごめんなさい! 私ももっと適した防御術技があったのに技の選択を間違えてしまって……!」
「ああいえ、レフィリアさんを責めている訳ではないのですわ! 何であれ、不意の攻撃を防いでくれたのですからむしろ感謝しています。それに――」
「新手――ッ!」
途端、四人を狙って別方向から十数発も飛んできた石化効果の矢をレフィリアは咄嗟に武器を振るって瞬時に弾き飛ばした。
そして攻撃が来た方へ目を向けると、その先にはまた離れた位置から建物の高所に陣取り、長弓や石弓で武装した獣人の部隊がこちらを視ている事が確認された。
「狙撃……ッ!?」
「うわっ、また来たか! それに結構数も多い!」
「油断大敵ですわね。……見ての通り、今のように物理的な飛び道具は魔封じの十字杖の機能で防ぐことは出来ません。この杖の効果で阻めるのはあくまで魔力投射のみですから」
「でしたら、あそこにいる人狼たちは私が仕留めにいきます! それまで三人は各自、防御魔法を展開しながら身を守って――」
「いえ、レフィリアさんはあくまで前衛ですのでここから離れすぎないで下さいませ。実はこんな時にうってつけの良い魔法があります。今から発動させますので、どうか詠唱の間だけ御守り頂けますか?」
コメットからの提案に、レフィリアはまた襲って来た矢の雨を全て剣戟で弾き飛ばしては頷く。
「であれば、お願いします!」
「承知しましたわ。……覆い包め、鮮やかな極光照らす虹の天幕――バリアスクリーン!」
レフィリアが飛んでくる矢弾を往なしている間にコメットが杖を掲げながら賺さず呪文を唱えると、まるでオーロラのような七色の輝きを放つカーテン状の魔力障壁が発生しては、レフィリアたち四人を大きく包み込んだ。
その後、更に数を増して放たれた無数の呪い矢はそのどれもが一発の漏れもなく光の防壁によって悉く弾かれ、破片が呆気なく地面へと落ちていく。
「……ッ! この魔法は……!?」
「バリアスクリーン。物理、魔法を問わず外部から一定以上の速度で飛んでくる遠射攻撃を完全に遮断します。勿論、内側からはフォトンシールドなんかと同じように飛び道具での攻撃が可能ですわ」
「へえー、流石は超古代の神子様だけあって、すっごい範囲防御魔法使うじゃん! よーし、だったら攻撃役は僕らに任せて!」
そう言って、ジェドが挽回を望むように威勢よく魔杖を構えながら進み出る。
「連中が魔除けのネックレスを持っていようと関係ない無属性の魔法……マジックアローの雨霰で釣瓶打ちにしてやるからさ!」
「私だって負けませんよ! より気合を込めたフォトンブラストで、纏めて一掃してあげますから!」
賢者妹も負けじとジェドの隣に並んでは、同じように魔杖を手にして燃え盛るように全身から魔力を湧き立たせている。これでは敵の集団どころか、連中のいる建物の一帯ごと吹き飛ばしてしまいそうな勢いだが――
「レフィリア! すまないが、そちらに一体行った!」
その時、急に遠くからルヴィスからの叫び声が聞こえ、咄嗟にレフィリアはその方向を向いた。
益々数を増やしていく人狼たちの軍勢の対処に前衛組の三人が追われている中、新たに現れた倍以上の体躯の巨大な人狼が、レフィリアたちのいる方へと真っ直ぐ突撃してきているのが見えた。
流石にこの大型の個体は人の衣服を纏ってなどいなかったが、ただの大きいだけの人狼という訳ではなく身体の所々が異様に変質しており、特に右腕が倍近くも肥大化してはギロチンを思わせる鋭利な刃が幾つも不揃いに生えていた。
その異質でグロテスクな腕の形状は、まるで如月綾美が過去に見たことのある、右手を謎の生物に寄生された主人公が出て来る漫画の敵を彷彿とさせる。
「わわっ!? なんか超ヤバそうなのが向かってきてるんだけど!」
「二人とも気にせずに狙撃部隊の対処を! あのデカいのは、私が迎え撃ちます!」
そう言って護衛をする必要のなくなったレフィリアは後衛組の傍を離れると、その三人を守るように突進してくる巨大人狼の前へ立ち塞がっては、正面から勢いよく光剣を振るう。
巨大人狼の凶悪な異形の右腕が振るわれるよりも早く、レフィリアは懐に潜り込むとその総体を一息でバラバラに斬り刻み、撒き散らされる血飛沫を一滴も浴びることなく解体し尽くしては敵を沈黙させた。
「ふう……!」
レフィリアが光剣を振り払いながら息を整えて周囲の様子を確認すると、遠くの方から今倒した個体と同じような大型の人狼が十数体ほど、またこちらの方に接近してくる様子が発見される。
「まだ、あんなにいるのですか……」
(このままだと私はともかく、みんなの体力をいたずらに消耗させかねない……場合によっては、包囲網に穴をあけて街から離脱する事も考えないと……!)




