新規装備と異世界で決意抱く話②
「わあ、綺麗……」
「凝った作りの素敵なアクセサリーですね。これはチャーム……? いえ、ブローチの類ですか」
ロザリオのような十字架型の金具を茎に見立ててついた四枚の葉にあたる部分には、一つずつ違う種類の宝石が嵌め込まれ、赤、青、黄、緑の美しい輝きを放っており、小さいながらも精巧に仕上げられた装飾品にレフィリアはつい見入ってしまう。
そんな風に思わず目を奪われている彼女とは対照的に、サフィアは至って冷静に渡されたアイテムの分析をしつつエステラの方を向いた。
「見たところ、魔除けの護符に類するものに思えますが」
「そうそう、これは名付けて《クロスクローバー》。ヴラズニル号があった遺跡――というか、ヴラズニル号の中で見つけた素材を使って作ったアミュレットなんだ」
そう言いながらエステラはサフィアが摘まんでいる、そのブローチを指した。
「このクロスクローバーには、火、水、風、雷の四種類の魔力を弾く効果がある。とはいっても本来の用途は戦闘用じゃないから、完全にレジストできるのは初級魔法くらいだけどね。中級魔法以上だと威力の減衰率は半分以下ってところかな?」
「本来は戦闘用ではない……?」
「なるほど、つまりこれは防具じゃなく旅の道中を楽にするための便利グッズといったところか」
首を傾げるレフィリアに、ルヴィスが何かに気づいたようにして呟く。
「その通り。これは瞬間的に魔法攻撃を逸らすのではなく、恒常的な周囲環境からの負荷や影響から身を守る為のものなんだ」
「もっと分かりやすくいうと、このクロスクローバーを身に着けていれば、気温100度からマイナス100度くらいまでの場所でも平気でいられる。雨や雪だって弾くし、突風に煽られても吹き飛ばされないし、何なら落雷を食らったとしてもどうってことはない」
話に加わってきたソノレの言葉にエステラは頷く。
「いくら機竜には飛行中に操縦者を保護する防護障壁機能がついてるといっても、ロスタリシアの上空なんて常にブリザードが吹き荒れる超悪天候地帯だろうからね。備えあれば嬉しいなってことで」
「それを言うなら憂いなしじゃないのかい?」
「そんなの分かってますよー。いつもヘラヘラしてる割にユーモアが足らないなあ、君は」
「ふむ、要するにこれがあれば空の長旅も安心ってことですね」
二人の言い合いを何も無いかのようにスルーして、サフィアは手に取っていたアクセサリーを一旦、箱に仕舞いなおす。
「それにしても、貴方がたにはいつもお世話になりっぱなしですね。此度も何から何まで準備していただいて……」
「あ、いいのいいの。そもそも今回は王国から直々に仕事として請け負ってるから報酬まで貰ってるんだし。それに私たちは他所からの流れ者だから、こうして役に立っておかないと今の暮らしを維持できないからね」
「そうそう、一応は王国付きの客員魔導師ってことでそれなりに良い暮らしをさせてもらってるからねえ。だからさ、私たちにお礼をしなきゃいけないとか、そんな事は考えたりしないでくれよ?」
「第一、アンタはお礼をされるようなこと自体やってないでしょう。アンタ一人じゃ間違いなく食いっぱぐれるんだから、むしろ私に感謝しなさい」
「グヌヌ……言い返したいところだが、本当の事だから何も言えない……」
困ったように額を小突いて唸るソノレに苦笑いしつつ、レフィリアは再び話しかける。
「いいえ、これだけの支援をしてもらって何もお礼をせずに済ませるなんて、そんな訳にはいきませんよ。それにソノレさんにだって十分お世話になってますし」
「そうだ。貴方たちが素晴らしい装備を用意してくれるお陰で、俺たちの命が繋がっているのだからね。だから何でもいいので礼をさせてほしい」
「うーん、そこまで言うなら……」
エステラは腕を組んで考えこむと、何か良いことを思う浮かんだように人差し指を立てた。
「あっ、じゃあ今夜ちょっと高めなお店で奢ってくれないかな? みんな、もう明日には出発するって話だっだし、せめて全員で楽しく食事会くらいしたいからさ!」
「分かりました、では飛びきり良いお店を予約しますよ」
「しかしエステラさん、連日長時間の作業続きですけど体調の方は大丈夫ですか? 私たちの装備作成を終えたら、またあの船の解析作業に戻るんですよね?」
心配そうに尋ねるレフィリアにエステラは頷く。
「まあね。でも王国からは今回の仕事が済んだら一日、二日は休みを取っていいってことになってるんだ。だから心配してくれなくて大丈夫ですよ。それにこう見えて私、体は結構丈夫ですから」
「ええー、たった一日、二日ぁ!? むしろ一週間くらいは連休を貰いたいところだけどねぇー」
げんなりとした表情でそう答えるソノレをエステラは仮面のような怖い笑みで見つめる。
「あんまり怠けてると、一週間どころか一生の休みを貰う羽目になるけど、それでもいいのかなぁ? そうなったら私は養ってなんかあげないけど」
「うげえ、食い扶持が無くなるのもそれはそれで困る……仕方ない、未来の平和の為に今は身を粉にして働くとしますか……」
「ていうか、最初からずっとそうしろって言ってるのだけど」
レフィリアたちが揃って苦笑したところで、急に賢者妹が何かを思い出したかのような顔で仲間たちを見た。
「あっ、ところでレフィリアさん。それにルヴィスさんとサフィアさんもちょっといいですか?」
「ん? どうしました?」
「まだ夕暮れまでには時間がありますよね? 実は今日のうちに少し付き合ってもらいたい用事があるのですけど、もし良ければご一緒してもらえませんか?」
「ええ、私は全然大丈夫ですよ。因みに二人は?」
レフィリアから聞かれ、兄妹二人も快く頷く。
「俺もオーケーだぞ」
「私もです。ですが、どちらに?」
「ええと、ですね……」
◇
エステラの工房を後にしてから少し時間が経った後、賢者妹、レフィリア、ルヴィス、サフィアの四人は王国にある墓所へとやって来ていた。
その中にある一つの墓――過去にレフィリアたちと共にシャルゴーニュ公国の城郭都市ガルガゾンヌへと赴き、ゲドウィンとの戦いで散った賢者妹の兄、彼の墓石を前に賢者妹らは静かに祈りを捧げる。
「――ありがとう、皆さん。私一人でもよかったのですが、できれば皆にも来てもらえれば兄さんも喜ぶかなと思って……」
祈りを終えたところで、賢者妹は仲間を振り返ってはそう口にした。
「いえ、むしろ声を掛けてもらって良かったですよ。あの方にも本当にお世話になりましたから、こちらこそ感謝するところです」
「レフィリアの言う通りだ。君の兄上の尽力がなければ、俺たちはガルガゾンヌでの戦い――邪導のゲドウィンとの戦闘で全員、命を落としていたかもしれない。全く、感謝してもしきれないな」
「ええ、本当に……聡明ながら気さくなムードメーカーで、それでいて勇敢な方でしたね。今更ですが、実に惜しい人を亡くしてしまいました……」
「そういえばサフィアさんは兄の最期を看取ってくれたんでしたよね……良かった。一人寂しく逝くような事がなくて……ありがとうございます、サフィアさん」
賢者妹の言葉に、サフィアは静かに首を横に振る。
「いいえ、感謝されるような事など私は何もしていません。出来ることなら助けてあげたかったのですが、私なんかでは力及ばず……申し訳ないです」
「いいのですよ。どうしようもなかったって事くらい、分かっていますし。むしろ戦場から兄さんの遺体が戻って来て、こうしてお墓に入れてあげられただけでも私、すごく幸運だと思っていますから」
「……そうだな。俺たちの戦友は皆、何だかんだで遺体を墓所に収めることが叶っている。しかし、もしこれからの戦いで俺たちが戦死してしまった場合、おそらくそんな事は望めないだろう」
空気を重くするようではあるが、ルヴィスはあえて決心を強めるかのようにそういった言葉を口にする。
「遺体を回収する余裕などないか、そもそも遺体なんて一片も残らないか――何にせよ、生きて勝利を得なければ形だけの墓を建てられることになる。……いえ、もはや墓すら建ててもらえませんか」
「そうですね。だとしても大人しくやられるつもりは毛頭ありません。人々の未来の為――というと大袈裟ですけど、まずは何より自分たちの明日の為に魔王軍を討ち倒さなければ」
――そう口にしたものの、本音を言うとレフィリアは内心不安であった。
というのも、魔王軍の幹部であり自分と同じ異世界転移者である集団、六魔将の面々をレフィリアは結果として誰一人倒せていない。
だというのに、あくまで偵察とはいえ此度の任務では敵の本拠地へ最接近する事になるのだ。けして敵側に見つからず無事に事が運ぶ保障などどこにもない。
もし敵側に見つかってしまった場合、下手をすれば複数の六魔将と一度に戦闘せざるを得ない状況も容易に想像できる。
そうなってしまった時、果たして自分は大切な友人から誰一人も脱落者を出さずに切り抜けることが出来るのだろうかと。
そのように考えれば考えるほど、胃の辺りがキリキリと痛むような不快感に苛まれる。今回はこれまで以上に細心の注意が必要だ。敵に捕捉される事、それそのものがレフィリア一行にとってのバッドエンドを意味する。
「――私、これまで以上に頑張りますから。皆に救世主などと期待されているにしては、あまりに至らない身ですけど、それでも……」
「何を言っている、レフィリア。君はずっとよくやってくれているじゃないか」
ルヴィスの励ましにサフィアと賢者妹も同意して頷く。
「そうですよ。それに貴方一人で背負い込むことなどありません。私たちでは頼りないかもしれませんけど、全力でお供しますから」
「その通りです。兄さんにも胸を張って報告できるよう、私も全身全霊でレフィリアさんをサポートしますからね!」
「みんな……」
仲間達からの声を受けて、レフィリアは安心したように微笑んでみせた。
「……はい、分かっていますとも。それに頼りないだなんて、とんでもない。みんなが傍にいてくれるからこそ、私は精一杯戦えるのです」
「そう言ってもらえるのなら、これ以上に嬉しいことはないな」
「ええ、戦いはまだ続いていきますけど、どうか全員生き残って楽しく平和に過ごせる世界の為に――頑張っていきましょうね」
(不安や恐怖がないかといえば嘘にはなるけど……それでも絶対にこれ以上、誰一人として友人を失いたくなんかない。気合を入れろ、私……! この世界に来てできた大切な人たちの為に、戦い抜いてみせるんだ……!)




