新規装備と異世界で決意抱く話①
王都内に設けられた、正式に王城付きの客員魔導師として認められたエステラの専用工房にて。
「お待たせ、みんな! 今回はちょっと時間掛かっちゃってごめんね!」
遂に剣の完成を知らされて集まったレフィリア一行に会ってすぐ、開口一番にエステラはそう述べた。
一同が集っている部屋の中央には作業台としても使える大きなテーブルがあるのだが、その上には何やら様々な大きさをした木箱が幾つも並べられている。
「いやいや、何を言いますか! 俺の剣だけでなく、他にも生じた作業も並行してとなれば仕方ありませんよ」
エステラの謝罪に対し、ルヴィスは慌てて手のひらを振っては彼女の言葉を否定する。
それに彼の隣に並んで立つサフィアもまた、兄の口にした台詞に同意して続けた。
「そうです。むしろ更に仕事を増やしてしまった私たちの方が謝らなければいけません。それどころか、追加の作業も込みでこの日数なら逆に早すぎるくらいですよ」
実はルヴィスの剣の新調作業を進めている途中で、それ以外にもロスタリシア行きの任務において必要と思われる装備が思い浮かんだエステラは、最初請け負った仕事を熟しながらも新たなアイテム製作にさえ取り掛かっていたのだ。
その中には現時点で特に修理は要らない筈のサフィアの双剣も含まれ、解体して作り直した勇者の聖剣から生み出されたパーツをルヴィスの剣だけでなく、彼女の剣にも少し組み込んだようなのである。
であるからこそ、サフィアもこうして感謝とともに頭を下げているのだ。
「そうそう、流石はエステラさん! いつだって素晴らしい仕事ぶりです。よっ、天才魔工技師!」
レフィリアからも労われたことで、エステラは照れるでもなく真正面からその賛辞を受け止めてはニコリと微笑む。
「ふふ、それはどういたしまして。とはいえ、今回もまた優秀な賢者妹ちゃんと――そちらのコメットさんにも手伝ってもらったお陰でだいぶ助かりましたけどね。ホントにありがとう」
「いえ、お役に立てたようで何よりですわ」
今では超古代の神子としての格好から、現代におけるこの世界での一般的な服装に着替えたコメットが、柔らかい笑みを浮かべて返答する。
「それとごめんなさい。私の作業につき合わせたせいで、せっかくの休暇もあまり満喫出来なかったでしょう?」
「いいえ、私の方からまた手伝わせて頂けるよう頼み込んだのですから、気にしないで下さい。それに何だかんだで合間を見てちょこちょこ休んだりしていましたから」
申し訳なさそうに返すエステラの言葉に、賢者妹は首を横に振る。
「あと今回もすっごく勉強になりましたので、寧ろ大満足ですよ。こちらこそありがとうございました!」
「そうですねぇ。工芸に関して私は専門外でありましたが、とても興味深い時間でありましたわ。私からもどうかお礼の言葉を述べさせて下さい。どうもありがとう」
「いやー、お二人がいてくれて本ッ当に良かったよー。でなけりゃ私の作業量がどれだけ増えまくっていた事か……」
すると今度はソノレがカップに入ったコーヒーを啜りながら、いつもの調子のいい喋り方でそう答える。
「何言ってんの、アンタは二人を見習ってもっとバリバリ仕事をしなさい」
「してるじゃあないか! 相変わらず人使いが荒いなあ、君は!」
そんな二人の普段通りなやり取りに、レフィリアたちは笑ってその様子を眺めている。
「――まっ、そんな雑談はほどほどにして早速、完成品を見せましょうか」
しかしソノレへの窘めもそこそこに切り上げ、エステラは本題に入るとばかりに机の上に乗せられた箱の中で、最も目立つものを手に引き寄せた。
「それでは御開帳! これこそがルヴィスさんの新たな剣、かの勇者の聖剣を組み合わせた私の会心作――その名も、《ラスターソード》!!」
自信満々にそう言ったエステラによって木箱が開けられると、その中には一振りの見事な長剣が丁寧に収められていた。
「ラスターソード……ッ!?」
その出来栄えに剣の使い手であるルヴィスだけでなく、箱の中を覗き込んだ一同全員が思わず息を呑む。
箱内の長剣は、王道の西洋ファンタジーとスペオペ的な近未来SF感が上手く折衷したような凝ったデザインをしており、その様相にレフィリアは思わず剣を手武装とした物語の主人公が如何にも使いそうだな、と想像してしまった。
まるでマスターとかバスターといった銘を冠していそうな名剣にも負けず劣らずの素敵でカッコイイ武器であると。そんな素敵な剣をこれからルヴィスが得物として振るっていくのだ。
「これは……すごい……ッ! とにかく、ヤバいとか素晴らしいとか、そういった語彙力に乏しい表現しか思い浮かばない程に……ッ!」
エステラに視線で促されたルヴィスは、箱から剣を取り出すとそれを握り締めて掲げては、手の平から伝わってくるその感触をゆっくりと確かめていく。
「単純な性能だけでも、二倍近くは上がってるんじゃないか……!?」
「残骸ではあっても聖剣に内蔵されていた小型魔力炉がかなり優れていたからね。――そんでもって、こっちはサフィアさんの分! 名付けてラスターツインソード!」
次の箱を持ってきてはエステラがその蓋を開けると、中には少しだけ形状の変わったサフィアの双剣が封入されていた。
「ありがとうございます、エステラさん。まさか私の武器まで改良していただけるなんて……」
感謝を述べた後、サフィアもまた兄と同じように箱から剣を取り出しては武器に込められた力の程を自らの手で感じ取ってみる。
「おお、手に取ってすぐ判るほどの明確な出力向上を感じます。これが、かの聖剣が加わったことによる力の増強……!」
「サフィアさんの双剣は元々、私が一度仕立て直したものだったから追加でパーツを仕込むの自体は早く済んだんだ。だからタイミング的にもちょうど良かったね」
そう言ったエステラは更に別の箱――今度は片手で軽く持てるくらいのかなり小さなものを手に取っては中を開ける。
「あと、全員から一旦預かっておいた機竜にも、今回の作戦用に追加ブースターを取りつけておきました! だからこれまで以上の連続長距離飛行が可能だよ! あと瞬間的な加速機能とそれに伴う防護障壁装置の強化もサービスしてあげちゃった!」
箱の中に入った五個のカプセルを見せながら元気に述べるエステラに、ハンターは感心したように腕を組む。
「随分とまた大盤振る舞いに拵えてくれたなあ、エステラの姉さん。コイツはあまりに頑張りすぎじゃねえか、おい」
「因みにハンターさんとジェドさんにもプレゼントがありますよ。といっても私からですけど」
すると賢者妹が机の箱のうち二つを取り出し、その様子に名前を呼ばれた二人は彼女の方を向いた。
「何だって?」
「えっ、なになにー?」
「こちら、遺物装備用の強化パーツです! こちらをハンターさんの籠手やジェドさんの魔杖に取り付けてもらえれば、ちょっとではありますが出力が向上すると思います」
小箱を受け取ったハンターとジェドが中を確認すると、そこには手のひらに収まるくらいの大きさをした、不思議な形の金属部品のような物が入っていた。
「まあ、あくまで私が作ったものなので、そこまで大した効果がある訳じゃないのですが……」
「いやいや、こんなん嬉しいに決まってんじゃん! ありがとねえ、それじゃ早速取り付けちゃうよー!」
「おうよ、まさか俺ちゃんまで何か貰えるとは思ってなかったぜ! しかも女性からの贈り物ってなれば、尚更嬉しいってもんさ。有難く使わせてもらうぜ、嬢ちゃん」
そう礼を述べてはその場ですぐに二人は自分たちの装備に、彼女から受け取ったパーツを取り付け始める。
「つーか、一人でこんなもの作れるなんて嬢ちゃんもマジで天才だよなあ。将来は大賢者とかにもでもなるんじゃないのかい?」
「ですよねえ、ホントにすごいですよねえー。可愛い上に賢いなんてズルイですよねえーー」
自慢の後輩を可愛がるように、つい頭を撫でたレフィリアに賢者妹は照れてしまってほんのりと顔を赤くする。
「もう、二人ともそんなに褒めないで下さいよー……恥ずかしいじゃないですか」
「あはは、確かにこの娘は才能があって私も色々と教えてあげたくなっちゃうんだよねー。――じゃあ、私からも更にみんなへプレゼントー! というより、これを作る為に少し日にちを貰ったようなものなんだけどね」
そのように言ったエステラに合わせて、彼女の助手である白衣姿のオークがレフィリアたち全員に一人一つずつ、指輪でも入っていそうなくらいの小さな箱を渡していった。
「何ですか、こちらは?」
「開けてみてくださいな」
エステラに促され、一同は一斉に手渡された小箱を開封する。
するとその中には、四葉のクローバーを模したようなデザインの金縁にそれぞれ四色の宝石が嵌め込まれた、小さな装飾品が収められていた。




