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魔王令嬢と異世界転移者の裏話②

「……ッ! 何だ、コレは?」


 ロズェリエに呼び止められ、戻って来たカリストロスは彼女から何やら細長い木箱を手渡される。それを開けて中身を確認した彼は、思わず目を瞠ってそう言葉を漏らした。


 なんとその箱の中には些か変わった形状ではあるものの、明らかに“銃”にしか見えない物品が収められていたからである。


「魔弾射出限定型短杖――その銘を《ガンドルフィン》。スード・ティンクトゥラ生成作業の片手間に思い付きでちょっと拵えてみた携行魔導武器です。魔力を通して引き金を引くと、貴方の手武装である銃とやらと同じように先端の筒から収束された魔力弾を発射します」


 その銃器によく似せて作られた金属製の魔道具は全体が真っ黒な銃身に、赤い刻印のような溝が紋章のように彫られている。彼がグリップを握ってその手からほんの少し魔力を流してみると、その赤いラインがぼうっとネオンライトのように禍々しくも鮮やかな光を放ちだした。


「――本当にオモチャだな。なんつーか、如何にも厨二っぽいデザインというか、基本的な構造はハンドガンだが形状はリボルビング・ライフルのコルトM1855っぽいというか……」


 早口でブツブツと呟きながら、カリストロスは玩具だと一蹴しつつも手にした拳銃型魔道具を色んな角度から見つめてまわる。些かファンタジックなデザインではあるものの、見た目だけなら拳銃はオートマチックよりクラシカルなリボルバータイプを好む彼にとってけして興味の湧かない代物ではなかった。


「とりあえず、試し撃ちでもしてみますか?」


 少しニヤリとしながら言ったロズェリエは、部屋の向かい側の方へと腕を伸ばす。


「――サモン・モンスターオブドールズ」


 すると二人から十メートル以上離れた先に、全身をフルプレートの甲冑で包んだ鎧騎士が一人、どこからともなく現れた。


 身長は2メートル近くあり、身体中を金と銀に輝く豪奢で物々しい重装甲で覆っているだけでなく、その腕には身の丈程もある巨大な大盾とハルバードを持っている。


 かといって何者かがその鎧を身に着けているという訳ではなく、どうやら外側の甲冑だけで動く一種の傀儡くぐつ、つまりは自動人形オートマタの類であるようだった。


 その鎧騎士は頭から爪先まで全てをガード出来る程の大盾を前方に構えて防御態勢を取り、カリストロスからの射撃に備える。


「どうぞ?」


「ふッ――!」


 生身の部分が一切見えない全身甲冑のアーマーナイトを目にしたことで、カリストロスの頭に思わずオデュロの姿が一瞬浮かんでは急に不愉快になる。


 せっかく標的ターゲットを用意してくれたのだから遠慮なく使わせてもらうと、カリストロスは渡されたばかりの魔導拳銃を向け、そこから一気に六発分の弾丸をぶっ放した。


 コンマ一秒で分厚い大盾に六つの穴が一度に空き、それだけでなくその奥にいた鎧騎士の頭部、胴体、腕と脚の付け根の計六箇所が正確に撃ち抜かれては破壊され、よく響くうるさい金属音を鳴らしては辺りにバラバラと残骸が散らばっていく。


 とはいっても、この地下室は侵入者対策や防護措置の一つとして抜かりなく防音も完璧に施されており、銃声どころかたとえ爆発が起きたとしても外部へ異常を晒すような事はない。


「――なるほど、さしずめ魔力式のビームライフルといったところか」


 カリストロスはクルリと器用に魔導拳銃を指先で回しては引き下げると、一言そう呟く。


「どうですか? アダマント製の重装甲すら容易に貫通する魔力弾の威力は?」


「まずまずだな。撃ち心地は思ったより悪くなかったし、性能自体もそれなりだ。大抵の魔物はコイツを急所に食らえばまず即死するだろう。――が、それはあくまでこの世界の連中に対して撃った場合の話。こんなものじゃ到底、六魔将の奴らには無防備ノーガードの状態であてても掠り傷すら与えられない。まさしく豆鉄砲以下の玩具だ」


 ほんの少しだが褒めたように見えなくもなかったものはあくまで前置きで、実際には殆ど酷評を述べたカリストロスに対し、ロズェリエは特に憤ることもなく、ただやれやれと肩を竦める。


「それはそうでしょう。この武器は対六魔将を想定なんかしていませんし、そんなものをワタクシが作ることはまず不可能です。これはあくまでそれ以外の敵に対する護身用の装備。いちいち取るに足らない雑兵にまで能力を使って応戦するのは勿体ないでしょう? ただでさえ、貴方は力の消耗から復活するのに時間が掛かるのですから」


「つまりは雑魚共を蹴散らす為の武装ってことか。まあ、確かにあれば余計な力を使わずに済むから今の俺に便利ではあるな……」


 ロズェリエの説明を受け、カリストロスはもう一度手にした魔導拳銃をまじまじと見つめる。


「しかし俺が流した魔力に比べて、随分と高出力の魔力弾が飛ぶ。この銃の中には、何か大量の魔力を溜めている装置でも仕込んであるのか?」


 そう口にしてカリストロスはふと銃のシリンダー部分を外に出しては、その中身を確認する。すると等間隔に六つ空いた穴の中には何やら赤い物体が詰め込まれていた。


「――ッ! まさか、コイツは……!」


 本来なら銃弾を込める丸穴の中に入れられている物を手のひらに取り出してみると、それは電池のような円筒形をした赤色の結晶体――まず間違いなくスード・ティンクトゥラであった。


 確かに弾丸の魔力源としてスード・ティンクトゥラを用いれば、拳銃サイズの武器から対物ライフル級の威力と射程を有する魔力弾を発射することも十分可能ではあるが――


「お前、この街に来て生成したスード・ティンクトゥラは二個って話じゃなかったのか? まさか、こんな決戦で役に立たない玩具を作る為だけにわざわざ素材として使ったんじゃ――」


「勘違いしないように。その魔力源に使われている結晶体は、あくまでスード・ティンクトゥラを錬成する上の抽出工程で生じた、いわゆる残り粕の部分を再利用したまでです。言ったでしょう? その武器は片手間に思い付きで作成したものに過ぎないと」


 淡々と解答するロズェリエに対し、カリストロスはいまだに訝しむように彼女の顔を覗きこむ。


「要するに余り物で拵えたって訳か。無駄のないことで」


「ええ、勿論。使える物は何でも使い切るのがワタクシの主義ですから」


「そうかよ。……それにしてもこの銃――に似せた魔杖、外側だけとはいえやけに精巧に仕上げたもんだな。内部構造的に実弾は飛ばせないから所詮モデルガン程度に過ぎないとはいえこの作り、俺が直接お前に銃を手渡して調べさせたことなんかあったか?」


「いいえ? ですがワタクシ、以前これと似たものを誰かさんから口にくわえさせられたり、しゃぶらされたりした事がありましたので」


 そう答えたロズェリエは、急にとてもにこやかな笑みを浮かべてカリストロスを見た。ただし、その目はけして笑っておらず、その表情と雰囲気にさしもとカリストロスも少しゾワッとした感覚を覚える。


「ええ、ええ。確か拳銃と申しましたか。舌越しにその形状はよく覚えていますとも。それこそ口の中いっぱいに特有の鉄臭さと油臭さが広がって沁みつくくらい。ですのでその時、解析した記憶をフル活用して丹念に思いやりを込めて拵えてあげましたわ」


「お、おう……」


 わざと愛らしいお嬢様のような作った口調でベラベラと早口に喋るロズェリエに、カリストロスといえど押され気味になってしまう。


「お前……まさかこの武器に変な呪いなんか込めたりしてないだろうな……?」


「いいえぇ? けして、陰茎から血尿が噴き出たり、睾丸が爆裂したり、前立腺が腐蝕したりするような呪詛なんか仕込んだりなんてしていませんよぉ?」


「ほ、本当かよ……しかもメチャクチャ、具体的だな……」


「そもそも今の弱り切った貴方でも元は規格外の魔人である以上、ワタクシの施した呪法で冒すことなど出来ませんし。ですからその武器は安心して使ってくださいませ」


(てことは、呪いが効いた場合は仕込むつもりだったのかよ……)


 そんな事は当たり前といえば当たり前で、カリストロスは洗脳状態であったとはいえロズェリエにそれだけの事をしたのであるが、そういった自覚は残念ながら彼には皆無である。


「それに……ワタクシの恨みの対象はあくまであの不届きな老人。あのような行為を自ら喜んで受け入れてしまうように人格を歪めてくれたのは、他ならぬあの者ですから。ですので、彼にはとっておきの呪詛おれいを腹がはち切れるまで注ぎ込んであげますとも」


 そう言って、ロズェリエは怖い笑みを引き下げると小さく一つ息をついた。


「だからその復讐が済むまでは、貴方がワタクシにしてきた数々の粗相は不問にしておいてあげます。貴方はこのワタクシで随分とお楽しみになられたようですが、精神状態が狂っていたとはいえワタクシもまた求めてしまっていましたからねぇ」


「分かった、分かった。とりあえず茶くらいは持ってきてやるから、その気色悪い笑みは止めろ」


 いい加減耐えきれなくなってきたのか、カリストロスは踵を返して今いる部屋から出ていこうとする。


「いいえ、結構です。お茶なんてもう持って来させましたので」


 すると部屋の入口から、一体の自動人形オートマタが紅茶のセットを乗せた盆を手に地下室へと入って来た。おそらくは先ほど、鎧騎士を召喚した時と同時に呼び出しては向かわせていたのだろう。


「――ん? 何で茶のカップが二つあるんだ?」


「そりゃあ一つは貴方の分です。ワタクシもちょうど作業を中断して休憩に入るつもりでしたから。せっかくだから貴方もワタクシの話し相手になっていきなさい」


「話し相手って、今まで散々喋っただろうが」


「これまでのは言わば実務的な話。これからするのは、世間話や無駄話といったところです。そうですねぇ……ワタクシ、貴方が元居た世界について少し興味があるのですが」


「チッ、メンドクサイな。もしかして寂しがりやか、お前は……?」


 そうは言いつつも、カリストロスは退室するのではなく部屋にある椅子の一つにダラリと座り込む。


「まあいい。俺も暇すぎてしょうがないから、話すのに飽きるまでは付き合ってやる」


「あら、珍しい。じゃあこの機会を逃さないよう色々聞き出しませんとね。――ああ、そういえばそのガンドルフィンを作っている最中にふと気になった事があったのですが」


「何だ?」


「貴方が手武装として用いる、銃という武器。それを呼び出しているのは紛れもなく魔人としての特殊能力なのでしょうが、武器自体の構造はどうも魔力や魔導装置を用いない絡繰り仕掛けのように思えます」


「おいおい、そういう話はもうしないんじゃなかったのか?」


「今、思い出したのでとりあえず。とにかく全体の作りは弩弓クロスボウに似ていますが、金属製の弾丸の射出には火薬、または科学的な薬品を使用するような構造に見受けられます」


 横で自動人形オートマタが注いだ紅茶のカップを受け取りながら、ロズェリエは話を続ける。


「そしてこれは明らかに、剣も魔法も使えないような、言うなれば“弱い人間”が扱う為に生まれた道具。それから、その弱い人間が剣や魔法を使える者達をいとも簡単に殺せてしまう武器でもある」


「――それでお前は一体、何が言いたいんだ?」


 カリストロスの問いにロズェリエはクッキーを摘まんで一口齧ると、どこか寂し気というか憐れむような目で彼を見つめた。


「こんなものが開発されるという事は、カリストロス。貴方がいた世界はもしかして魔法技術が著しく衰退――いえ、そもそも魔法という技術が“無い”のではないですか?」

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