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メリソス・プリンセッサ~双子王女の恋愛譚~  作者: ハルカ カズラ
旅する双子王女
12/29

12.歪みの恋心


 レナータお姉様の恋のことを小ばかにしていたけれど、こうも突然自分にそれが訪れることになるなんて、思っても見なかったわ。この胸の高鳴り、話をしているだけで気のせいかいつもより動悸が早い……そんな初めて尽くしが、わたしの身に起こっている。


「アスティン、あなたはこの町に一人で来ているのかしら?」


「い、いえ、俺は見習い騎士なので、もう一人の人と一緒です」


「あなた、いくつ?」


「え? あ、15歳になったばかりですけど、な、何ですか?」


 なんだ、同じじゃない! どうして他人行儀で返事を返して来るのかしら。他人だけど、何だか嫌だわ。


「同い年ね。アスティン、あなたは人見知りなのかしら? だからわたくしに対してよそよそしく話すのね」


「そうじゃないけど、初対面だし……キミは何となくだけど、どこかの姫のような気がするんだ。だから言葉は自然に気を付けてしまうよ」


 まぁ! 何なのかしら……アスティン、どうしてそんな可愛いことを何気なく言えてしまうの? この子、わたしのモノにしたいわね。レナータお姉様にはヒゲ騎士がいるのだから、わたしも騎士がいいわ。この際、見習い騎士でも問題ないわ。


「あなた、わたくしのモノになりなさい!」


「……へ? モ、モノ!? そんなこと急に言われても困るよ。俺、今は試練の最中だし」


「そんなのは放って置いて、わたくしと一緒に行きましょ。あなたの試練と言うのは、見習い騎士から騎士になるためのものなのでしょう? それをする必要は無いわ! あなたはわたくしが守ってあげますわ」


「そ、それもあるけど、俺はダメだよ。婚約者がいるんだ。大事な婚約者が……」


 婚約者ですって!? 15歳でもう決められているだなんて、不憫なのね。それがアスティンの片思いだとしたら、救ってあげなければいけないわね。


「それがどうしたと言うのかしら? 婚約していても恋愛は出来るの。だから、あなたとわたくしは好き合うことが出来るのだわ。さぁ、愛しのアスティン、わたくしとアグワに行きましょ。わたくしのお姉様にも紹介をしてあげるわ!」


「ま、待って! こ、困るよ~俺は、彼女を裏切りたくないし大好きなんだ。彼女とはずっと、想い合っているんだよ。だから、ラルディとは一緒に行けないよ」


 一途なのね。ますます手放したくないわ。こういう時に魔法を使えるって便利ね。痛い目になんか遭わせないけど、驚かしてあげれば付いて来てくれるわね、きっと。


「……分かったわ。でも、アスティン。果たしてそう上手く行くかしら? あなたはわたくしの前から動くことが出来なくってよ」


「ええっ!? わっ! あ、足が凍るくらいに冷たくなってる!? な、何で……う、動けない」


 あぁ……アスティン。このままあなたを連れて帰りたいわ。あなたはわたくしのモノ……ずっと傍にいていいの。婚約者だってどうせ、その辺の町娘か何かに決まっているわ。


「ひっ! た、助けて……」


「アスティン、わたくしはあなたを傷つけるつもりなんてないの。あなたが好きですもの。一目見てこんなにも胸が熱くなったのは初めてですわ。だから、わたくしと一緒に行きましょ?」


 わたしはレナータお姉様みたく、まどろっこしい恋なんて出来ないわ。好きになったら自分の力で何とかすればいいんですもの。ただ遠くで眺めていたって変わりっこないわ。


「……そこで何をしている?」


「あっ! シャンタル!! い、いい所に」


 あら? 誰かしら……どう見ても女にしか見えないのだけれど、まさかこの人が婚約者かしら。


「そこの者、我が徒弟に何をしているのか聞いてもいいか?」


「何って、氷で動けなくしているだけですわ。それが何か?」


「なるほど。では、貴様は我の敵ということに相違ないな。魔法で動きを封じるなど、卑怯者のすることぞ!」


 決めつけも良くないと思うのだけれど、どうやら間違いなくアスティンの婚約者なのね。それなら、わたしも少しはこの女に力を見せつけてやるしかなさそうね。アスティンは、わたくしが頂くわ。

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