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5 ワイヤートラップ

 イリルは考えていた、本当にあれは人魚だったのか、一言でも私達と同じ言葉をしゃべった、人魚が種族として存在しているなら、自分達と同じ言葉をあんなに流ちょうに喋るとは思えない、同じ人間でさえ国が違えば言葉が違い、同じ国でも距離が有れば方言が出来る。


 あれは人魚であって人魚ではない、この街の人間、マジックライブラリーの入館者に違いない。


 そうこの街のほとんどの人間はマジックライブラリーを信じている、それらしい物が沢山目撃され語り継がれている。


 しかし入館者本人と会ったと言う話はほとんどない、数少ない本人の話は既に遠い過去になり、既に確証の取れるような話は無かった。


 一番最近の話は数年前に天使がこの島の上空を飛び回った時の話だ、その時はイリルも何度か目撃して心躍らせたが、いつも空の彼方で飛んでいる姿以外、目撃者はいなかった。


 そのうち天使は現れなくなったが、あれはマジックライブラリーの入館者だったのではなかろうかとイリルは思っていた。


 そう、今回の人魚も入館者だとすればすべてしっくりくる。


(父さんじゃないけれどそうしても会ってみたい)


 ライブラリーの入館者なら普段はこの島で普通に暮らしているはずだ。


 絶対に絶対に会ってみたい。


 イリルは手紙を書いた。


◇◆◇◆◇◆◇


 もしかしてあなたはマジックライブラリーの入館者ではありませんか。

 私はイリル・レニーと言います、子供の頃からマジックライブラリーに入館する事を夢見てきました。

 夢を叶えた貴方にどうしても会ってみたくて夜も眠れません、何とか私に会っていただくことはできないでしょうか、どうか私の夢を叶えて下さい、私は今、父さんの船ノーチラス号で父さんと一緒に漁に出ています、潜水艦のような名前ですが、普通の船です。

 あなたも多分マジックライブラリーの入館者なら、島のどこかに住んでいるものと思いますぜひ会ってお話しできればと思います、船はブルーマリンの隣の入り江に繋留しています、いつでも大丈夫なのでぜひ会いに来てください、心よりお待ちしています。


イリル・レニー


◇◆◇◆◇◆◇


 手紙の主は判ったけれど、ターチは悩んでいた。


 会うべきかどうか、今までマジックライブラリーの入館者の素性が明らかになったと言う話は聞いたことがない、果たしてそれは大丈夫なのか、ターチはすべて知っているが、家族であり、かつての入館者でもある。


 マジックライブラリーの入館者だと知れ渡った場合、サーヤの魔法が解けたりはしないだろうか。


 途中で魔法が解けた入館者の話は聞いたことはないが、素性が明らかになった話もないのだ。


 サーヤが二通目の手紙を拾ってきたのはそんな時だった。


 その日もサーヤが珊瑚のプールに行くとその真ん中に手紙が浮いていた。


 ただ今回はあたりを見回しても船はいなかった。


 サーヤの瞳には、三百六十度エメラルド色の水平線が映るばかりだった。


 手紙を受け取ったターチはさらに悩むこととなった。


 その手紙を読んだサーヤは、会いに行く気満々で、目を輝かせていた、ターチもその手紙を読む限り会いたくなってしまう様な手紙なのだが、なんとなくそれは魔法の終わりを告げるワードの様な気がしてならなかった。


会いに行くのはターチの意見で当分保留になっていたが、サーヤは毎日海には繰り出していた。


 最近はリーフの外のジャイアントケルプの森がお気に入りらしく、海底から水面まで10m以上も茂るジャイアントケルプの間をイルカ達と泳ぎ回っているらしい。


 そしてターチの心配をよそに、密漁船を見つけると、追い払っているらしい。


 その日もサーヤとイルカ達は、海面から木漏れ日の射すジャイアントケルプの森を泳ぎ回っていた。


 ふと水面に顔を出すと水平線に見慣れない船が浮いていた。


 少しするとその後ろから、すごい勢いで地元の船が近づいている。


 マーメイドフラッグを掲げたその船が近づくと、見慣れぬ船は瞬く間に波飛沫を上げながら沖に消えていった。


 マーメイドフラッグを掲げた船はも、そのまま追跡していったが、見慣れぬ船の方がわずかに早いらしく、じわじわとその差は開き、ついに追跡を諦めたのか、一度停止すると、引き返してきた。


 サーヤが水中深くからその船底を見上げていると、船は速度を落とし、島の入り江に向かっていた。


 サーヤがそのまま船を追っていくと、船はブルーマリンの先の入り江に止まった。


 サーヤは船底に沿って浮上すると、船の陰に顔を出し、船首を見上げた。


そこにはオウムガイのレリーフがありノーチラスと書かれていた。


 (イリルのいる船・・・)


 やがて中から話し声が聞こえ、船から人が下りて行った、イリルとその父親だろう。


「父さん深追いしすぎ!居直って反撃されたらどうするの、相手が逃げたら追うのはやめて、と言うか、最初からちょっかい出さないで」


「そうは言ってもな、絶対密漁だぞあれ」


「もう~本当に反撃されたらどうするつもり」


「大丈夫だ、奴らだってそんなことしないさ、もしもの時は、・・・・・そうだなー船ぶつけるかノーチラス号だし」


「やめて、父さん」


「すまん」


 そんな会話をする二人が、ノーチラス号であの密猟船らしい船を追い散払った事実は、サーヤにとても好印象を与えていた。


 それからサーヤは、時々ノーチラス号を追いかけて行くようになった。


 そこは、サーヤがいつもイルカ達と戯れているリーフや、ジャイアントケルプの森とは違っていた、水深も深く下を見れば幾層にも重なり蒼く塗りつぶされた水が見えるだけだった。


 船を見失うと方角さえ分からなくなりそうな海。


 下を見ると不安になるサーヤは、水面に顔を出すたびにあたりを見回す。


 するとその周囲にはノーチラス号だけでなく、島の漁船がちらほらと見え隠れしている、島の漁場なのだろう。


サーヤがプカプカと浮かびながら周囲の漁船を見回していると、ノーチラス号から声をかけられてしまう。


「人魚さーん、人魚さーん」


 サーヤは急いで潜ると島に向かって引き返していった。


 それからもサーヤは度々ノーチラス号を追いかけていった。


 ノーチラス号をが珊瑚のプールに手紙を落とせば拾ってきたし、漁に出ればその周りを泳ぎ回っていた。


 手紙はどんどん熱烈になって行き、少しでもサーヤが見えれば手を振りながら大声で声を書掛けてきた。



 その日、ノーチラス号はサーヤのお気に入りのジャイアントケルプの森にほど近い漁場で漁をしていた。


 其処が、今一番マーメイドガールと遭遇する確率が高い漁場なので、ジョンは最近、この漁場でばかり漁をするようになっていたのだが、その日はその漁場に、何度か追い払った覚えのある船が停泊していた。


 ジョンはまた船を追い払うと、真っすぐジャイアントケルプの森の方に近づいてゆく。


「父さん!」


「いや、ちょっと見てから」


「駄目よ」


 娘に叱られしぶしぶ船を止めるジョンだった。



 そこから少し離れたジャイアントケルプが漂う水面の隙間からサーヤが顔を出すと、こちらに向かってきたにーちらす号が、停止するところだった。


 サーヤが見ていると、サーヤを見つけたらしく、双眼鏡を手にしたジョンがブンブンと手を振っている。


 サーヤは急いで首を引っ込めると、ゆっくりとケルプの森に入って行く。


 サーヤは海面から射す木漏れ日を浴びながら、ケルプの間をたゆたう。


 ゆらゆらと水面から射す陽光をサーヤの背中に映しながらケルプの森を見渡すサーヤにイルカ達が纏わりサーヤを誘う。


 サーヤはいつもの様にイルカ達と戯れはじめ、ケルプの森を縦横無尽に泳ぎ回る。


 ケルプの隙間を縫い、岩のトンネルを潜り抜け、ケルプの根元を尾ひれで叩き、イルカ達を捕まえる。


 今度は、飛沫を上げ水面に飛び出すと、ケルプの迷路を抜け、水底の砂を巻き上げ、イルカ達を振り切る。


 すると又イルカ達を追いかける。


 水面の模様を背中に移すイルカ達が、サーヤを振り切ろうと、ケルプの間をすり抜ける。


 サーヤが捕まえようと、イルカ達に迫ると、先頭のイルカが、いきなりケルプに巻き取られ、暴れだす。


 後続のイルカは寸前でそれをよけ、四方に散って行く。

 

 サーヤはイルカに近づくと、巻き付いたケルプをほどきイルカを逃がそうとするがイルカの尾びれは、テグスの様に細いワイヤーに巻き取られていた。

 

 そのワイヤーは凶悪で、一度締まると緩まないようにできていた。その極細のワイヤーは海底の岩からジャイアントケルプを伝ってイルカの尾まで伸びていた。


 サーヤがほどこうとしても、ワイヤーはびくともしない、力を入れれば細いワイヤーがサーヤの手のひらに食い込み、血が流れ出す。

 

 サーヤはイルカを落着かせ、ゆっくりと水面まで上げてやる、ワイヤーはまっすぐ伸ばせば何とか水面までととき、イルカの鼻が水面に届く。

 

 サーヤはイルカをなだめると、見えにくいワイヤーをたどり、海底まで降りて行く、ワイヤーは岩に鉄の杭で打ち込まれサーヤの力ではびくともしない。


 サーヤは水面に上がり心を決める、今ならまだノーチラス号が見える、訳を話して助けを求めるしか無い。


 サーヤはイルカを撫でながら落ち着かせると、ノーチラス号に向かって泳ぎだす。


ケルプの間を抜けて加速しようとしたサーヤの尾びれに、痛みが走りジャイアントケルプが巻き付く。


 自分の身に何が起きたかは直ぐに分かったが、サーヤの頭の中は真っ白になっていた、思わず引き千切ろうとばたつかせた尾びれには、先程自分で確認した凶悪なワイヤーが巻き付いていた。


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