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4 ジョンとイリル

「父さん、今日はどうだった」


「一枚も撮れなかったよ」


「父さん、そうじゃなくて」


イリルが聞こうとしたのは、漁のことだった。


ジョンは、このところマーメイドガールを撮る為に、カメラを持って漁に出ていたのだった、船上からイルカの群れを見つけては船を寄せていた。


「すまん、少しいつもより少ないかな」


「父さん、少しじゃないわ、このところずっとよ」


少しどころではなかった、これではいつもの三割引だった。


イルカの群れを見つけるたびに寄っていくのだから当然だ、逆に燃料は三割増だった。


あの日からジョンの頭の中には、マーメイドガールが住み着いて離れないのだ、一度会いたい、話してみたいせめて写真だけでも撮ってみたい、漁に出ても、そんな事を思い、そんなことばかり考えて水平線を見ていた。


「解ったわ、父さん、明日から私も船に乗るわ」


「え・・」


「父さんは漁、私は人魚を見張るわ、これでどう」


「なるほど、いいアイデアだ、休みの間父さんと人魚探しをしたいんだな」


「まあ、そう言う事かな」


イリルはカメラを片手にそう言うと、ジョンにレンズを向けてシャッターを切った


 写真には子供の様なジョンの顔と、その後ろにはためく、マーメイドの旗が映っていた。


「父さん、あの旗は何?」


「いいだろ、あれが有れば人魚が近寄って来るんじゃないかと思って、作ってもらったんだ」


「まさか」


「いいや、ちゃんと喋っていたんだ、そのくらいは理解するはずだ」



◇◆◇◆◇◆


 次の日からジョンはイリルと一緒に漁に出かけるようになったが、ジョンは魚を見張ったのは最初の数日だけだった。


 結局いつの間にか、イリルが魚を見張り、ジョンが人魚を見張るようになっていた。


 イルカを見つけては船を寄せていくジョンはついに船の操舵までイリルにとられ、今では双眼鏡片手に水平線を眺めているだけだった。


 そんな日が何日も続く中、二人は時々不審な船を見つけては船を寄せ、相手が立ち去るまで付近を周回し続けたりもした。


 何故そんな事をしているかと言えば、それは密漁船か、人魚を狙っている船ではないかと二人は思っていたからだ。


 実際それはあたっていた、彼らは珊瑚の密漁や、人魚を狙ってこの海まで来た者達だった。


 不審船は日を追うごとに少しづづ増えていき、ジョン達の追い払う数もまた少しづつ増えていった。


 そんな日ジョンは、酒場に着くと、人魚の話といっしょに今日は奴らを何隻追い払ったとか、奴らはどこどこに多く出没するとか、その日の成果を自慢した、何故か今日は大漁ったと言う自慢ではない。


 密漁が多くなっていると言う時に、ジョンが飲みに来る度にそんな話をしているので、話を聞いた他の漁師も、いつの間にかジョンにあやかり、不審船を見つけると人魚の旗を掲げて追い払うようになっていた。


◇◆◇◆◇◆


「父さん、いた」


「おう、魚か」

 

「ちがう、人魚よ」

 

 イリルの瞳には、イルカ達と戯れる人魚が映っていた。


 その場所は、最近サーヤとイルカたちのお気に入りとなった、サンゴ礁のプールだった。


 珊瑚の水中トンネルを潜りそこに出れば、壁面は珊瑚がぎっしりと群生し、カラフルな魚達が群がっている。

  

 遥か足元敷き詰まったた白い砂には、映り込んだ水面の光が波紋のじゅうたんを織りなしている。


 サーヤが潜るとサーヤの背中に光の波紋が流れていく。


 サーヤの後を追うイルカたちの背中にも波紋は流れ、まるでサーヤとイルカ達は光と戯れている様だった。


 ジョンはイリルの視線の先に双眼鏡を向けるとそのまま固まった。


 双眼鏡の中には、イルカ達と戯れ、水面を跳ねる院魚の姿が映っていた。


「いた! イリル船を出すぞ」

 

「無理よ、珊瑚に乗り上げちゃう」


「そうか、よし行け」


 ジョンは双眼鏡から目を離さずに答える。


「父さん!」


「すまん・・・じゃゴムボートだ!」


「・・・・」


 ジョンがゴムボートを出そうと動き出した時にはもう人魚の影はなくなっていた。


 それでもジョンはイリルとゴムボートに乗り込むとその場所に行ってみた、珊瑚が水面近くまで繁殖し、船ではいけない場所、そこには珊瑚に囲まれた丸い広場があった。


「綺麗、これが人魚の遊び場」


「凄いな、こんな場所があったなんて」


 それからジョンはその場所に通うようになったが、いつもジョンがゴムボートに乗り込む前に、人魚はいなくなってしまう。


 その日サーヤが珊瑚のトンネルをくぐると、水底の白い砂の真ん中に、石に括りつけられたビニール袋が浮いていた、中には人魚に宛た短い手紙が入っていた。


 (友達になって下さい、リーフの外の船で待っています)


 手紙にはそう書いてあった。


 サーヤは水面に顔を出すとあたりを見回す。


 リーフの外には、人魚の旗を掲げた、漁船が停泊していた。


 サーヤは顔を引っ込め、水中に潜ると、珊瑚のトンネルを潜ってリーフの外に消えていった。



◇◆◇◆◇◆


「お兄ちゃん、誰かからお手紙もらったわ」


 サーヤは家に帰るとビニールに包まった手紙をターチに渡した。


「誰かって?」


「リーフの外に船を止めて待ってたわ」


「誰か判るか」


「判んないわ・・・でも島の船よ、あの船が漁に出るの何度も見たこと有るような気がするもの、レストランのちょっと先に留ってる奴」


「なんか目印とかない」


「私の旗上げてたわ」


「最近みんな上げてるよ、何でかな。じゃ船の名前は」


「遠くて見えなかった、」


「それじゃ判らないだろ、誰の船だろう・・・でも近付いちゃだめだよ」


「わかってる」


「でも誰の船か判ったらすぐに教えて」


「はーい」


(友達になって下さい、か)


 ターチは考える、これは一体どういう事なのか。


 島の中にも人魚を捕まえようとする者が出始めたのか、それとも本当に、友達になりたいだけ?


 悩んでも回答が出る物でもない、ターチはひとしきり悩むと、手紙を机の上に放り出し、窓から港の方に視線を移した。


 レストランのちょっと先。


 そこは地元の漁港で似たような漁船が沢山留まっていた。


 ターチはため息をついて空を見上げる。


◇◆◇◆◇◆


 夕暮れ時サーヤはシーフードレストラン、ブルーマリンの前の通りを歩いていた。


 入大きなメカジキを模った看板が際立つこのレストランは、夜には酒場となり、海に突き出した大きなバルコニーもこの時間になれば漁帰りの地元の漁師たちで賑わう、地元ご用達のレストランだ。


 サーヤはそんな大きなメカジキの横を抜け、その隣の船着き場に向かって行った。


そこには地元の漁船が整然と並んで停泊していた。


 ほとんどの船に人魚の旗があり、サーヤがリーフで見た船と区別がつかない、サーヤはあの時の船の特徴を思い出そうとしたがそれらしい特徴は一向に思い出せなかった。


 サーヤは入り江を一回りして船を見ると、あたりは薄暗くなり、でていた船が帰りはじめ、入り江の船は光を灯し出港の準備を始めていた。


 サーヤは船探しを諦め、あわただしくなって来た入り江を後に、元来た道を引き返していいった。


 サーヤがまたブルーマリンの前まで来ると、店の中から楽し気な話声が聞こえてきた。


「ジョン、手紙は帰ってきたか」


「まだだ」


「そりゃソーダ、ジョン海の中にペンは無いだろ、そもそもどこ字を習う」


「そーなんだが、俺たちと同じ言葉は喋っていたぞ」


 サーヤは店の窓に張り付くとジョッキ片手に話している男たちを凝視した。


 (あの人が手紙の、(友達になって下さい)の人?)


「一言だけだろ、聞き間違えだよ」


「いいや娘も一緒に聞いている」

  

「でも怒らせたんだろ、許さないって」


「まあ、そうなんだが」


「チキンの骨なんかぶつけるからだ  ハハハハ」


「ハハハハ」


「よーし今日も飲めジョン」


「人魚と友達になれたら必ず紹介しろよ」


「おお、一番最初に紹介してやるからな、その時は驚け」


「よーし楽しみにしてるぞ」


(骨ぶつけちゃったた人・・・ジョンっていうのね・・・あの時一緒にいたお姉さんが娘さん)


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