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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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エンターテイナー

 研究所跡地。火恋の秘密基地のようなその場所で、火恋の舎弟たちはぬいぐるみに囲まれながらスヤスヤと寝息を立てている。

 当の火恋も、もうウトウトし始めていた。


「ったく……あたしらが初日じゃないからって、こき使いやがって……」


 遡れば、土曜日の朝のこと。

 ここに来て、真っ先に目を疑う光景が目の前に広がった。それは、この場所で眠りこける来人の姿だった。

 それだけだったらまだしも、来人の持ちかけて特訓のやり方がさらに衝撃的なものだった。


 その特訓内容とは、「これから俺が何か食おうとするのを全力で妨害しろ」というものだった。

 これだけでは分かりにくいだろう。簡単に説明しよう。


 まず、ここは大きく分けて二つの部屋に分かれている。

 そこで来人を特訓を行っている真っ白い四角の部屋に、そして木刀と食料(主におにぎり)をぬいぐるみの置いてある部屋に配置する。

 来人が食料を手にするためには、四角の部屋からぬいぐるみの部屋に移動する必要がある。それを火恋達が全力で妨害する、ということだ。

 火恋達の妨害を乗り越える手段はただ一つ。能力を進化させ、”木刀のほうへ行く”必要があった。


 最初こそまだ元気だったが、度重なる妨害による疲弊と断食による飢餓で日に日に元気を失っていった。一時は死ぬんじゃないかと心配した。だが、心を鬼にして、時には来人の目の前で見せつけるように食事をしたりというド畜生な行為も働きながら、24時間体制で妨害に当たった。


「アタシにここまでさせたんだ……絶対に……勝て……よ……」


 ばたん。ぬいぐるみの山に倒れ、舎弟たちと同じように寝息を立て始めた。



 ◆



 クリスはすでに学園に辿り着いていた。

 だいたい51秒。一分よりは少し早かった。

 周りを見渡す。来人の姿はどこにも見当たらなかった。


「来人……」


 時間が経過していく。もう一分は経ったはずだ。

 もう一度思い出す。俺を信じろという言葉。

 そうだ。絶対に来る。来人は、絶対に。そう信じて、自分はここで待ち続けるだけだ。

 その時だった。


「えっ?」


 ガシッ。来人から託された木刀を、誰かに捕まれる感覚。

 誰だ?そう思って顔を見上げる。


「――――言ったろ?すぐ追いつくって?」


 ニッと笑い、木刀を受け取る。

 そう、その手は来人のものだった。


「勝ったらご馳走な!たらふく頼むぜ!腹減ってんだ!」

「……うん!絶対に勝ちなさいよ!」

「おうよ!」


 それだけ言い残し、闘技場へと足を踏み入れる。

 聞こえたのは、歓声ではなくどよめき。雰囲気はあまり良ろしくなかった。


『新城選手、まだ姿を現しません!あと少しで30分経ちます!このまま失格か!?それとも姿を現すか!?』


 闘技場のギスギスした雰囲気を何とか紛らわそうと必死な美月。

 しかし依然として、闘技場の雰囲気は悪いままだった。

 いくら来人の試合が早まったとはいえ、ここにいないことは来人に非があった。

 早く終わった時のことも想定して、少なくとも前の試合が始まる頃には控室に入る準備が出来てなければならない。生徒の義務だ。

 それを守らなかった来人が失格になっても、何一つ文句は言えない。


 ちなみに、本来なら15分経っても来なければ即失格というルールである。だがこの場合は前の試合があまりにも早く終わったため、特別に30分まで猶予が与えられている。

 そして今、その30分が経過しようとしていた。


(やれやれ。僕に恐れをなして逃げちゃったか。所詮は運だけで勝ち上がってきた、落ちこぼれのF組ってわけだ)


 心の中で見下す。

 元F組。いや、今でも義輝にとって来人は”F組のクズ”だった。


(尻尾を巻いて逃げるなんて、実にF組のクズらしい末路だね。実力もないのに、運だけでA組なんかになってしまったからこうなるんだ。やっぱりあんな奴よりも、僕の方がA組にふさわしい。ほんらいなら僕こそがA組に昇格されるべきだったんだ)


 もうじき、その時は迫る。

 会場の雰囲気は最悪。時間を割いてまで観戦しに来たというのに、なんで待たされなければならないんだ。さっさと来人を棄権にさせて、次の試合をした方がいい。誰もがそう思っていた。


「……時間だ。新城来人を棄権とみなす!よって勝者、君島――――」

「ちょっと待ったぁぁぁぁッ!!」


 審判が判断を下そうとしたその時。闘技場に一際大きな声が響き渡る。


「俺は!棄権なんて!してな――――あっ!?」


 ドドドと足音を立てながら近づいてくる影。まさに新城来人だった。

 しかし途中で靴紐が緩んでいることに気付かず、思い切り踏んづけて足がもつれてしまう。


「うわあああ!?」


 そのままゴロゴロと転がっていく。

 想像以上に勢いがついたためか、入場ゲートから中央の審判まで転がっていく。


「お……遅れやした……」


 審判の目の前でようやく静止した来人は目を回しながら言う。

 審判は時計を確認する。残り7秒で30分が経過しようとしていた。


『な、なんと新城選手!ギリギリのところで間に合ったーーーッ!!』

「ふっ。ずいぶん遅かったね。てっきり怖くなって逃げたのかと思ったよ」

「ケッ。そのセリフ、どっかの不良女に同じようなこと言われたばっかだぜ。誰がテメーなんざ怖がるってんだ。ちょっと朝飯に時間かけすぎちまっただけだっての」

「朝?何言ってるんだい?もう昼過ぎだよ?」

「ああ知ってるよ。おかげでもう腹がペコペコだ」


 ぐぅぅぅうううう。飢えた腹の虫が吠える。


「はっはは!下品な音だ!」

「言ってろ。俺は絶対に勝つ。勝って心置きなくうまいもんを食って食って食いまくってやる」

「……んんッ!」


 空気を読んで待ってくれていた審判が咳払いをする。


「もういいか?そろそろ始めたいのだが」

「おっといけねー!そうっすね。そろそろ始めねーと。でも最後に一つ、いいっすかね?」


 許可を得るよりも先に、来人は人差し指を突き立て、天を指す。


「凡人共!よく聞け!俺はコイツにぜってーに勝つ!だから応援よろしく頼むぜーーーッ!!」


 ギスギスした雰囲気を放っている観客に向けた言葉。

 だがそれは、観客からすれば煽りにしか聞こえなかった。言ったのが観客をさんざん待たせた来人だったから尚更だ。


「ふざけんなー!誰がお前なんか応援するってんだ!」

「さんざん人を待たせておいて何様だ!」

「凡人はお前の方だろうが!」

「さっさと負けちまえーー!次の試合にしろーー!!」


 巻き起こるブーイングの数々。どんよりした雰囲気の闘技場が、悪い意味で盛り上がった。


「ははは!盛り上がってら!」


 その状況を楽しむように、ケラケラと笑う。

 来人自身、こうなることを分かっていてわざと煽るような発言をしたのだ。


「君に対するブーイングだけどね。要するに君は今回は悪役ってわけさ。ヒーローは僕さ。そして勝つのも、この僕」

「へっ。そいつはどうかな?」

「……何か意見でも?」


 自信有り気な来人の表情を、怪訝そうに見ながら義輝が訊ねる。


「このブーイングを、歓声に変えることが出来たら?そう考えただけで、すっげーワクワクしてくるだろ?」

「そうだね。肯定する。だからこのブーイングを、僕への歓声に変えてみせよう。僕の勝利をもって」

「バーーーカ!勝つのは俺だ!歓声を浴びるのもな!」


 互いに言い合いながらも、2人は定位置につく。


「準備は出来たようだな。では――――」


 とうとうこの時がやってきた。

 不思議と緊張などしていない。空腹さえ気にならない。

 今の来人の心の中にあったもの。それは勝ちたいという欲求。それ以上に、観客を沸かせたいという欲求が来人を燃え上がらせていた。


(負ける気がしねぇ。今の俺なら、なんでも出来る!)


 自然と笑みがこぼれる。不思議だ。こんなにも自信で満ち溢れるなんて。自分でも訳が分からない。訳が分からないくらい心地よくて、笑ってしまう。


「――――戦闘開始ッ!」


 因縁の一戦。男と男の意地とプライドをかけた戦いが今、幕を開ける――――!

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