消えた来人
とうとうやってきた、序列入れ替え戦の初日。
三連敗すれば序列剥奪という、クリスにとって重要な一戦。
同じく剥奪のかかった重要な一戦を控える来人だったが、その姿はどこにも見当たらなかった。
もう午後の部の第一戦が始まるというのに、学園に姿を現していない。
(来人……どこにいるの……!?)
三日前。夕飯の支度をしようとしたその時、連絡があった。
来人は、「俺、しばらく帰らないから!」とだけ言い残し、それから今日まで本当に帰ってこなかった。
最初のうちは特訓をしているんだろうと思ったが、二日目になっても帰ってこなかった時は流石に心配になり、クリスのほうから連絡を入れた。だが連絡は帰ってこず、今に至る。
もしかしたら来人の身に何かがあったのではないか。そんな不安が頭をよぎる。
『さあさあ!始まりました!序列入れ替え戦午後の部!実況は私、放送部のエース(自称)の折原美月でお送りさせていただきますっ!』
いくら心配しても、今はどうすることも出来ない。
もう自分の戦闘の時間が迫っていた。
『それでは――――選手入場です!!』
入場の直前、もう一度連絡をしてみるがやはり出てくれない。
こうなったら、もう――――
『序列17位!文字通り変幻自在の剣で敵を圧倒する!序列17位!天ヶ崎レイラ選手!!』
「おーっほっほっほっほっ!私の華麗な戦術、とくと魅せて差し上げますわ!」
扇子で仰ぎ、高笑いを浮かべる。典型的な高飛車お嬢さまの金髪縦ロール。
制服もどことなくお嬢様スタイルに改造されていた。
『対するは序列四位!二つ名は《雷帝》!雷の如き剣術が今日も唸るか!?我ら覇道学園が誇る最強の電撃姫!クリスティーナ=デ・ロッシ・リンドホルム選手!!』
「ちょっと!なんで私よりも説明が長いんですの!?不平等ですわ!!」
実況に文句を言っているが、歓声によって打ち消される。
「まったく!失礼極まりないない実況ですわねっ!」
そんな声も今のクリスには届かない。
一刻も早く来人を助けねば。その考えで頭がいっぱいになっていた。
「ま、今日だけは許して差し上げますわ。なんせ、今日はこの私があなたに勝って、四位の座を私がいただくことになるのですから!覚悟はよろしくて?現在二連敗中のクリスティーナさん?」
「……」
「ちょ、ちょっと!無視ですの!?聞いてらっしゃるの!?クリスティーナさーん!?」
「え?な、何でしょうか?」
キョトンとするクリス。
来人の安否が気になって、すっかり耳が遠くなっていた。
「どうして無視しますの!?そんなに、そんなに私には興味がないと!?余裕だと言いたいんですの!?」
「ち、違います!ただ、少し考え事をしてて……」
「考え事ッ!?この私を前にして、余計なことを考えていたということですの!?失礼極まりないですわよ!!」
「ごめんなさい……」
傍から見れば、ステラが一方的に言いがかりをつけているようにしか見えない。
せっかく綺麗な顔をしているのに、それを自ら台無しにしている。その見るに堪えない顔の前に、なんだか申し訳なくなって思わず謝っていた。
「ふんッ!余裕なのも今のうち!この私の《変幻自在の剣》で、ぎゃふんと言わせて差し上げますわ!」
「は、はぁ……」
今も来人は苦しんでいるのかもしれない。悪の組織に捕えられ、アヤシイ改造手術をされているかもしれない。と、クリスの頭の中で勝手に来人は生命の危機に立たされていた。
一刻も早く来人を助けなくてはいけない。そのためには――――
「戦闘開始ッ!」
『さあ始まりました!注目の一戦!果たして勝つのはどっちだぁー!?』
「私に決まってますわ!《戦乙女の聖剣》!我が力をもって、新たな姿を――――」
「ごめんなさい」
「へ?」
ESPブレードを鞘から抜き、今にもその能力を使用しようとした矢先、クリスからの突然の謝罪。
その直後――――クリスは雷を身に纏う。
「時間がないんです!!」
《雷人剣》を発動――――したと認識したその時、すでにクリスの姿は見当たらなかった。
「き、消え――――」
「《電光石火》ッ!!」
「んぴゃッ!!??」
電光を纏った一閃が、無情にもステラを切り裂く。
電光石火。その名の通り、視認することすら許されない至高のスピードに乗せた一撃。
「そ、そんにゃ……ばか……にゃ……」
目をグルグルに回した後、ばたんと倒れる。無理もない。クリスの本気の一撃を、無防備な状態でもろに受けてしまったのだから。
『き……決まったぁーーーーッ!勝者、クリスティーナ選手!!』
あまりにあっけなく終わったため、観客もどう反応していいのか分からず、いまいち盛り上がらずにいた。
『開始わずか46秒で決着!早い速い!はやすぎるーーーッ!ってあれ?クリスティーナ選手!?ちょっと、どこに行くんですかーーー!?』
しかもそのクリスが、戦闘終了と同時に雷人剣を解除せぬまま闘技場の外へ飛び出したのだから会場に混乱が走る。
『え、えーっと。と、とりあえず!時間も余っちゃったことだし、次行きましょー!』
何とか混乱を収めようと、実況の美月が勝手に進行していく。
美月としては厚意的だと思ってやったことだった。だが、それが余計にこの場を混乱させるとは、この時は思いもしなかった。
『さあどんどんいきますよー!選手入場、お願いしまーす!!』
◆
「どこにも見当たらない……やっぱり悪の組織に捕らわれて……!?」
能力を学園外で使ってはいけないという掟を破りながらも、堂々と町中を雷人剣で駆けていく。
しかし来人の姿はどこにも見当たらない。やはり、どこかアヤシイ施設に連れ去れらたに違いない。
そして今頃、ヒドイことをされているんだ。
(一かバチか!これに賭ける!!)
《朱雀》のスーパーコンピューターにハッキングし、監視カメラの映像やらなんやら、ありとあらゆるものすべてを使って――――
「うわああ!完全に遅れたあああ!!」
「って来人おおお!?」
最後の手段を使う寸前まで追い込まれたというのに、その男はこうもあっさり姿を現す。
アヤシイ施設とは何だったのか。
「おお!クリス!久しぶり!」
「久しぶりじゃないわよ!今まで何してたのよ!?」
「ああん?だから言ったろ!特訓だよ特訓!」
「だから!今まで(ぐぅぅぅううううぅぅぅ)よ!?」
クリスの言葉をかき消す謎の爆音。これは、どこからどう聞いても――――
「ちょ、ちょっと来人。さっきの音、あなたのお腹からよね?」
「ああ。実は三日前から今朝まで何も食ってなくてな。今朝おにぎり20個くらい食ってきたけど……まだ足りねーか」
「いやいや!ちょっと待って!?何も食べてないって何!?20個って何!?」
情報が整理しきらない。サラッとおかしなことをほざく来人にクリスの混乱が最高潮になる。
「俺流の特訓でちっとばかし頑張りすぎちまってな。っといけねぇ!早くしないと間に合わねぇ!俺の試合が始まっちまう!じゃーなクリス!また!」
「あ!ちょ、ちょっと!!」
止めようとするも、来人の背中はどんどん離れて――――と思った矢先。回れ右をして、物凄い形相をした来人が戻ってきた。
「ちょっと待て!?お前なんでここにいんの!?試合は!?」
「だからそれはこっちの台詞よ!試合ならとっくに終わったわよ!」
「マジかよ!?す、すげぇ――――って、あれ?ってことはその後俺の試合は……?」
「あ……」
そこで思い出す。試合が速く終われば、次の試合は早く始まる。ということは、今頃観客と対戦相手を待たせているに違いない。
急がなければ、棄権と見なされ不戦敗になる可能性もあった。
「どどどどうしよう!?そのことを考えず、ついやっちゃった!?」
「いやいや!ついで瞬殺ってなんだよ!?天然で戦闘をあっさり終わらせちゃうの!?こえーよ!って、こんなとこで漫才してる場合じゃねぇ!さっさと行かないと!そうだ!クリス!お前ならここから学園までだいたい何分で行ける!?」
「全力を出せば、一分で着くわ!でも、さすがに来人を連れて《雷人剣》を使うのは、危険だしスピードもかなり落ち――――」
「いや。連れて行くのは俺じゃなくていい」
「え?」
質問の内容からして、自分が来人を背負ってそのスピードで学園に連れて行くものだと考えていた。
だが、来人の考えは違っていた。来人は木刀をクリスの目の前に差し出す。
「木刀を連れて行ってくれ!学園まで!」
「でも、来人は……」
「大丈夫だ!俺を信じろ!ぜってーにすぐに追いつく!だから一分きっちりで学園にそいつを届けてくれ!」
自信に満ち溢れたその目。
以前、火恋に勝つと言っていた時のあの目と同じ。強い目だ。
「……分かったわ。来人を信じる。だから来人も信じて!私のことを!」
「当たり前だろ!ダチ公!」
友達。その言葉に柔らかい笑みを浮かべ、クリスは《雷人剣》でその場から姿を消す。
クリスは信じて木刀を学園へ届ける。自分を信じてくれる、来人を信じて。




