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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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それぞれの特訓

「次、行くよォ!」

「どんと来い!!」


 火恋が吠えるように叫び、来人がそれに答える。

 来人の返事を聞いた直後、炎が巻き上がる。

 炎の渦は来人を殺しにかかるように、一目散に向かっていく。


「どわあああ!?あ、あぶねッ!」


 必死に駆け抜け、何とかそれを回避する。

 これだけの炎を受けても、壁や床は真っ白なままだった。


「避けんなァ!」

「無茶言うなっての!!避けなきゃ死んじまうだろうが!!」

「ごちゃごちゃ言うな!避けるくらいならこっちにこい!!」


 吠える火恋の足元には来人の木刀が置かれている。

 こっちとは、木刀のことを指していた。要するに、能力を進化させ、木刀へと瞬間移動して来いということ。

 

「それが出来たら苦労しないっての!」

「だったらさっさと出来るようになるんだな!ほら、次!」

「っくー!この鬼コーチめ!!上等だ!やってやら!!」


 もう一度炎が放たれ、今度は避けずにまっすぐ前を見る。

 

(あそこまで移動する!あそこまで移動する!あそこまで移動する!)


 強く念じ、木刀の方へと手を伸ばす。

 ――――が、一向に何も起きない。炎がどんどん近づいてくるばかりである。熱さか焦りか、汗が噴き出してくる。


「無理ぃぃぃ!!」


 寸でのところで頭から転がり、炎を回避する。

 ちょっと靴が焦げた気がするがセーフだ。


「ひーっ!おっかねぇ!」

「ビビってるからダメなんだ!ほら、さっさと立つ!」

「誰でもビビるわ!!」


 文句を言いながらも、火恋の言う通り立ち上がってもう一度炎を要求する。

 絶対に能力を進化させてやる。その決意は固かった。





『ゴーストが発生します。ゴーストが発生します』


 特殊訓練場の”H”コートに鳴り響く機械音。

 それとともに、目の前に黒い人型が発生する。

 設定は”序列ランク三位”。宿敵”火恋”のものだ。


「いきます!」


 宣言と同時、体に雷を体に纏う。

 《雷人剣ライジングブレイド》。最初から全力だ。そうでもしなければ、この相手には勝てない。

 相手が出る前に、真正面から切り込んでいく。


「ッ!!」


 しかしそれを、火恋の炎を忠実に再現した”黒い炎”が壁となってクリスに立ちふさがる。


(なら側面から!!)


 即座の方向転換。雷のようなスピードで、瞬く間に横をとる。

 そのスピードを落とさずに、電撃を纏った一閃。だが渾身の一撃は、黒い爆炎を纏ったゴーストの剣によっていともたやすく受け止められてしまう。


(オリジナルじゃないのに……なんてパワー……ッ!!)

「きゃっ!?」


 力で押し負ける。

 決してクリスにパワーがないというわけではない。むしろクリスのパワーは、上から数えた方が早い。トップ5に入るほどの火力がある。

 ただ、火恋のパワーが強すぎるのだ。火恋は上から数えた方が早いどころか、パワーだけならダントツの一位。他の追随を許さない、学園最強のパワーの持ち主。

 単純な力比べでは100パーセント勝つことは不可能。火恋は剛をもって剛を制する、超パワータイプ。力で勝とうとすること自体おこがましいというものだ。

 だからクリスは速さを磨いた。力で勝てないのなら、速さで勝つ。

 だが火恋はそのスピードでさえ力で押しつぶす。どんな小細工を使おうと、圧倒的なパワーでねじ伏せてくる。


「まだ……まだ行ける!もっと速く!!」


 それでもクリスはスピードを欲する。圧倒的なパワーに対抗するには、圧倒的なスピードが必要だと考えているからだ。だが、まだ圧倒的とは言えない。もっと速く、もっと精密に。数秒の遅れも、数ミリのズレも許されない。僅かな隙を突き、手数で攻めていく。

 だが、それだけではまだダメだ。手数だけでは足りない。何か一つ、強烈なパンチを加えることが出来れば。


(きっと来人だって頑張っている……私も頑張らなくちゃ、来人に顔向けできない!)


 《雷人剣ライジングブレイド》。この技は未完成だ。だからこそ、クリスはこの技に名前をつけなかった。どこかの誰かが勝手に《雷人剣》と名付け、それが浸透していったに過ぎない。ゆえにクリスの中ではまだ無名の技である。

 もしこの技に、クリス自身で名前を付ける時がくるとすれば、それはこの技が完成した時であろう。

 だがそのためには、もっと速く。限界を超えなければならない。

 

(後少し……もう少しでたどり着ける……!速度の地平の、その彼方へ!!)


 クリスは加速し続ける。《雷人剣》の中にあるスピードの世界に身を投じる。

 その先にある、新たな進化を求めて。





「あ、あのさー?ちょっと休憩しない?」


 汗をだくだくに流し、肩で息をする来人が訴える。

 依然として火恋との距離は離れていて、その足元の木刀には手が及んでいない。


「何言ってんだ!こっからが本番だよ!もっと自分を追い込め!あん時みたいに!」


 火恋の言い分。火恋との戦いの終盤の時のように自分を追い込む。

 火恋の言ってることは一理あると思う。しかし、あの戦いの後に二日も寝っぱなしでいたことを思い出すとやりすぎな気もしてしまう。

 と、色んな理由を考えてみたが結局は本気で疲れたので休みたいだけだ。かれこれ二時間くらいぶっ続けで炎と戯れているし。


「で、でもちょっとくれーいいじゃん?お前も疲れてんだろ?」

「アタシはぴんぴんしてるけど。つーかアンタ、この程度でへばってんの?ダッサ。男として情けないとか思わないの?女のアタシに体力で負けて」


 カチン。来人の中のスイッチが入る音。

 お前は炎出してるだけだから当然だろとか言いたいことはあったが、そんなものはもうどうでもよくなった。


「なーに言ってんだ!俺だってぴんぴんしてるよ!!むしろ俺はオメーが疲れてるかもしれねーかなーと思って気を使っただけだっつの!!」


 無論嘘だ。ただの強がり。

 でもムキになったおかげか、一気に疲れが引いた気がする。

 それもこれも全部、火恋の計算通りだった。新城来人という男は本当に扱いやすい。


「余計なお世話だっての。さあ、次行くよ!今度こそ成功させな!」

「ああ上等だ!ぜってーに決めてやんよ!!」


 今度こそ決めてやる。一回だけでもいい。そうすれば火恋に何も言われること無く、心置きなく休憩できるだろう。

 そして火恋の手から放たれる、今日一番の炎。

 だが臆することはない。さっさと終わらせてジュースを飲む。こんなに汗を掻いた後に飲むコーラは最高に美味いだろうな。

 そのためには、あの木刀をさっさと拾ってやればいい。そう思った時、体がふわっと軽くなって浮くような感覚。今なら出来る。木刀の方へと手を伸ばした――――


 ピピピピピピ!!


「!? ぬおおおッ!?」

「え!?う、嘘!?」


 突然の機械音とともに、集中力が途切れる。何とかまた、ぎりぎりのところで回避する。今回は本気でやばかった。髪の毛が燃えていないか確認する。大丈夫だ。ふさふさなままだった。

 火恋のほうを見る。ポケットの中から音の正体が姿を顕す。


「も、もうこんな時間かよ!?」


 アラームを止め、それをもう一度ポケットの中にしまう。

 

「わ、悪ぃ!すぐ戻るから!」

「え?ど、どこ行くんだよ!?」


 そう言って、火恋はその場から急ぎ足で姿を消していく。

 火恋が居なくなり、何もやることがなくなった来人はとりあえず舎弟たちの元へ一旦戻ることにした。

 結局失敗はしたが、なんだかんだで休憩時間をとることが出来たのでまあ良しとしよう。


「来人の旦那!冷蔵庫でキンキンに冷やしときました!最高の状態のうちにどうぞ!」

「おお!サンキューな!」


 この際、冷蔵庫まで置いてあることに関してはスルーしておく。

 ようやくありつける。プシュッと蓋を開け、グビっと喉に流し込んでいく。


「ぷはぁ!くぅ~~~!染みるぜ~~~!」


 まるで居酒屋にいるおっさんのようなセリフ。

 そんなセリフが出てしまうほどこのコーラは美味かった。


「つーか火恋のやつ、あんなに慌ててどこに行ったんだ?」

「姉貴っすか?多分スーパーの特売っすね」

「特売ィ~?なんでアイツが?」


 特売。その単語は貧乏学生と縁が深いものである。来人も幾度となく特売を活用した覚えがあった。クリスが来てからは一気に無縁になってしまったが。なんせ、食事の管理はすべてクリスが

行っているからだ。悪く言えば今の来人はクリスのヒモになっているともいえる。

 ところで、火恋は知っての通り《天上の者オンリーテン》の一人で序列ランク三位である。ゆえに金銭面で補助され、学生とは思えない莫大な資金を持っているはずなのだ。それなのに、何故特売に行く必要なのかが疑問だった。


「ここだけの話っすけど、姉貴は結構ストイックな生活をしてるんすよ」

「この間だって、もやしの凄さを熱く語ってたました」

「これもここだけの話っすけど、実は姉貴――――」





「悪い!アタシの都合につき合わせちまって!」


 戻ってきてからの開口一番。申し訳なさそうに火恋が言った


「いいってことよ。俺なんてわざわざ時間を割いて特訓に付き合ってもらってる身だし。お前の都合に合わせんのはむしろ当然だぜ」


 舎弟たちから聞いた。火恋の実家がとても貧しいことを。

 事故で父を失い、火恋を含めた六人姉妹をたった一人で養っている火恋の母のこと。

 自分をここまで育ててくれた母のため、応援してくれる妹たちのために強くなった火恋のことを。

 強いのも当然だ。大切な人のために戦える奴が、弱いはずがない。


「んじゃ、戻ってきたことだし再開しようぜ!特訓!」

「……なんかやけに元気になったな」

「そりゃそうだ!休憩して元気万端だぜ!」


 単純に体力が回復した以上に、別の理由が来人を突き動かした。

 それは、自分のために時間を割いてまで特訓に付き合ってくれる火恋の期待に応えたいという感情。

 

「やる気出してるとこ悪いけど、アイス買ってきたんだ。安いやつだけど。これ食ってからにしようぜ」

「お!気が利くねぇ!いっただきまーす!」


 絶対に強くなって、義輝あいつに必ず勝つ。自分のためだけではなく、自分にここまでしてくれる火恋のためにも。火恋だけじゃない。自分を強いと言ってくれたクリスや、勝てと言ってくれた神奈のためにも。

 強くなる決意とともに、来人はアイスを強く噛みしめた。


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