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モテ期直前。

男は童貞で30歳を過ぎると魔法使いになれる。誰が言い出したのかこの世迷言を、と思われる諸兄淑女の方々も少なくはないであろう。実際魔法が使えるのかと問われれば、個人差による。それを魔法と認識出来るか出来ないか、と言う違いもさる事ながら、使役の源の魔力にも当然個体差が存在する。つまり魔法は使えるが魔力微弱な者、魔法は極めて弱いが魔力過多な者、そんなミスマッチョがあまた存在すると言う。ちなみに「相手の心を知る魔法」を持つ魔法使い、これは一部界隈で有名な魔法使いの錬成ケースだが、ほとんどの場合「魅了魔法(チャーム)が常時勝手に発動、だがしかし悲しいかな雑魚ゆえに効果微弱」で、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけモテ期が来る程度だそうだ。ただ問題はその「モテ期」誰にモテるのか…それが問題だ。


「ヤベえじゃん、お前明日誕生日だよな」

「何すか先輩」

「おめでとう魔法使い」

「はあ?」

「お前童貞だろ?」

「はあ…」

「ほら、30過ぎたら魔法使いってな」


何を言ってるんだこの先輩、と怪訝な顔で答える秋原。明日は彼の30歳の誕生日だ。重末先輩に誕生日と言われても全く嬉しくはない。


「安心しろ、明日以降お前はちょっとしたモテ期だ」

「モテ期??」

「俺の知り合いも経験したけどな、ホントもてるぞ」


還暦以上にな。


「ちょ、ちょっと先輩!」

「何何」

「還暦ってなんスか」

「あ、何か言った俺」

「言ったでしょ還暦」

「悪ぃ、忘れて」

「無理っスよ!バッチリ聞いてますから」

「頑張れ」

「いやいやいやいや、真面目に頼みますよ先輩!」


電子タバコを咥えたまま姿勢を正す重末。


「いい、人生だったな」

「終わらせないで!!!」

「ピーピーうるせえなぁ…お前ほら、斜め右見てみ」

「何すか」


秋原の耳元近くに身を屈め、一段低いトーンで囁く


「経理のお姉様がちらちら見てるぜぇお前をよぉ」

「…勘弁して下さいよマジで」


立ち上がり様、右手人差し指中指二本を綺麗に伸ばしながら軽く秋原に敬礼する重末。


「グッドラック」


…マジ勘弁して。何?モテ期って。そんな季節?来た事ないから。人生で一度も。しかも還暦?還暦以上限定?いやいや経理の金子さんって人妻も人妻の超ベテラン人妻よ、ウチの母上より年上じゃね?てかモテ期って恋愛初体験が不倫?嫌過ぎるそんな恋愛。もういっそどうせ還暦以上なら知ってる誰か…婆ちゃん?いや違うそうじゃない、お母さん…お母さんじゃん…いやお母さん来る?もう一生童貞覚悟してたらお母さんが「私の子だから私が責任取ります!」って来るパターン?って俺実は超マザコン??あ、お母さんまだ57か。なら大丈夫セーフセーフ。何だよ還暦以上って何の呪いだよそんなコト教えないで先輩!


「秋原、黙って仕事しろ」


外回りから帰って来た神保課長に小突かれる。


「すいません」

「お前心の声がダダ洩れじゃねーか」

「…すいません」

「ほれ、リスト」

「何ですか?これ」

「60歳以上のお姉様社長のリストだよ。明後日以降3ヵ月やるから全部訪問して来い」

「え…」

「お前、信じてないと思うが…」


マジ、モテる。と真顔で言わないで課長怖いから。


「えええ…」

「ハマれば…いいもんだぞ、熟女。いや、ハメるのか」

「うるせーっすよ課長!」

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