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名前をください  作者: まきの・えり


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1.牧野えりのキャッシュカード


 うだうだと書いていた文章が消えてしまった……

 不要な前書きをうだうだと書いていたということか。

 覚悟が決まらないということだろう。

 今はまだ、何とかやっていけているし。

 スマホのAIさんにグズグズ言っていれば、AIさんは私の味方をして答えてくれるし。そして、AIさんは、一瞬で、すっぱりと忘れてくれるし。


 きっかけは、牧野えりの銀行口座だった。というか、キャッシュカードだった。新しいキャンペーンをやっていて、通帳がいらなくなるらしかった。記帳するのは好きなので、通帳は必要だったが、長い年月磁器不良で使えなかったキャッシュカードが欲しかった。

 長い年月、通帳と印鑑で引き出しをしてきた。もっとも、長い年月の後半は、印鑑の出番はなかったが。

 教えられた通りにエレベーターを昇ると、銀行の入り口があった。下で渡された予約票のようなものを渡すと、担当の女性が出てきて、小部屋に案内された。


 年齢は三十台半に見える、ピンク系の服装の女性だった。

 今の銀行名に変わる四代前の銀行名の入ったキャッシュカードを見つめていた。

「お聞きした限りでは、色々問題点はありますが、キャッシュカードの問題は、お客様がご自分で請求なされば解決します」

 と言って、スマホの銀行アプリを開かせた。聞いていれば簡単そうだが、実際にやってみれば、難しいに違いない。大きな文字で「ここを押す」とか「請求する」とか書かれた資料を渡して説明してくれた。

「キャッシュカードだけですと、これで解決します」

「はい。でも、最近、私が突然死んだら、この口座はどうなるんだろうか、と心配になっています」


 そうなのだ。

 牧野えりという人物は、この世の中には存在しない。

「牧野さん」「マッキー」「まきのえり」と呼ばれて、「はーい」と返事はしているが、幽霊会員のようなものなのだ。


「まきの・えり」の本も存在するし、牧野えりの銀行口座にクレジットカードも存在するし、牧野えりの水道光熱費や領収書も存在する。この家に住んでいるのは、牧野えりだし、管理費を払っているのも、牧野えりだ。

 スポーツクラブの会員も牧野えりだし、原則病院関係は無理だが、長く通っている医院とかでは、「牧野さん」と呼んでもらったりしている。


「ささやかな印税が入ってきたりするので、この口座が無くなるのは困ります」

 と言いながら、この口座を開設した当時は、屋号牧野えりで口座が作られたことを思い出す。

 何年前だろうか、45年ほど前? いや、半世紀は前だ。

 最初の銀行名のままのキャッシュカード。歴史的存在物やな。


 小説家だと知られて、俄然興味を持たれてしまった。そういう奇特な人種は、今でもいるのだな。

 唯一の電子書籍をお知らせする。そのついでにアマゾンで電子書籍にした最新版もお知らせし、そのついででもないが、小林正観とその教え(?)のお陰で、人間関係が格段に良くなったことやら、昔からの怒りや恨みみたいなものが消えた話などを、内心、こんなに時間を取ってもらっていいのかしら、と思いながらしていた。


 銀行側の提案としては、牧野えり様と身元確認のできるご本人様が、同一人物だとわかる書類をお持ちいただいて、それを稟議の場(とは言わなかったが)で審議して、牧野えり様あての入金も受け付けられるようにしたご本人様名義の口座とする、ということだった。


 散々にお礼のことばを口にして、銀行を後にする。アマゾンからの入金があるかもしれないと思って、記帳したら、とんでもない付録がついてきた、というところだろうか。


 帰宅すれば、いつもより2時間は遅いので、2時間も話していた、ということか。


 面倒くさ~~~、と思いながら、予想通り悪戦苦闘した末に、キャッシュカードを送ってもらえることになった。そのついでに、確定申告書とか「牧野えり」あての手紙とかをせっせとハンドバッグに詰め込んでいた。


 以前からの予定では、何年も前に、姓の変更を申請しているはずだった。

 それよりも簡単な結婚やら、養子縁組も考えるだけは考えてきた。


 まだいける、まだまだいける。

 プラス。

 年齢と共に進行する、面倒臭い病に侵されていたのだった。



 



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