第二十話 友達の距離
迷彩色ワンピースなどという奇天烈衣装を着て女子が三人並ぶと、どうしてもトワレが一番見劣りする。一人は、爆乳美女。一人は、可愛い子リス。そして、トワレは、三つ編みおさげの背高ノッポ。
「なんか言いなさいよ」
「いや……似合ってると思う。多分」
「多分って、なによ!」
「痛った。いきなり蹴るなよ」
目が泳ぐ夫の脛を思い切り蹴り上げても、彼女の悶々とする気持ちは治まらない。何故なら、迷彩シャツを着こんだクルーガーもシャイネンも、まるでファッション誌から出てきたようにヘンテコ衣装を着こなしているからだ。
――だから、美形揃いの中に入るのは嫌なのよ。
唇を噛んで何も喋らなくなってしまったトワレを、クルーガーは、どう慰めれば良いのか分からない。なにせ、本当に似合っていないのだ。
スリーサイズが分からなかった為、クオーレはワンピースを作ってもらう際ウエストのないストンとした形を選んだ。そして、それに大きなリボンが付いたベルトを付けて腰を絞るのだ。
なんとなく身長は考慮して作られてはいたが、胸が大きなリベルタは、今にもバスト部分がはちきれそうになっており、グラマラスさを強調している。お色気ムンムンで、シャイネンすら目を逸らすほどだ。
一方、逆にかなり細身のトワレはダボダボの寝間着のようになっている。妙に大きなリボンも大人びた彼女には、あまりにも不釣り合い。
「はぁ……しかたないわ」
トワレは自分のマジックバッグから、針と糸等の裁縫道具、そして、茶色の布を出した。膝が見えてしまっている裾に布を足し、そしてウエストベルトも同じ布で作り直す。
「まぁ、これなら、なんとかなるかしら」
七五三から成人式のような劇的ビフォーアフターを経て、迷彩色ワンピースはトワレに似合う形に落ち着いた。
「私も、トワレと同じベルトが良い」
「リベルタは似合ってるんだから、そっちを着てよ。同じのを着たら、また、私が浮くでしょ!」
「でも、一緒が良い」
「はぁ。じゃぁ、茶色の布で髪留めを作ってあげるから、それを付けなさい」
「はぁ~い」
仲の良い親友のやり取りを見て、クオーレは、ちょっと悲しそうな顔をした。お友達と思っていても、二人の距離感は過ごした時間だけクオーレより近い。
「いいな……」
思わず漏れたクオーレの声を拾ったのはシャイネンだ。大人から見れば大したことではなくても、本人にとっては重要なこともある。ただ、慰めるという行為は、なかなかに難しい。なにせ、今目の前でトワレを慰めることに失敗したクルーガーが膝を抱えて落ち込んでいるのだから。
「えっと……トワレさん」
「はい、なんでしょうか、シャイネン先生」
「その髪留め、もう一つ作ってもらえますか?」
シャイネンのお願いに、トワレは一瞬クオーレを見て頷いた。流石、商人として実績を積み上げているだけあり、察する力が強い。
しかし、全く察することが出来ないKYリベルタは、頬を赤らめて口元に手を持っていった。
「まさか、先生が付けるんですか?お揃いですね!」
「いやいやいやいや、そうじゃなく」
シャイネンはリベルタの口を押えたい衝動にかられたが、両手の平を彼女に向けるにとどめた。気持ちは、大声でSTOPと叫んでいる。
「折角ですし、女性は髪飾りもお揃いが良いかと思って」
「え?あぁ、そうですね!先生が頭に飾ったら、私より似合い過ぎて困りますもんね」
一人独自解釈で納得したリベルタは、ウンウンと何度も頷いている。そして、トワレが作ったのは簡単なシュシュ。
「もっとお花とか、リボンとか、レースとかつくのかと思ってた」
「リベルタ、三人で付けるんだから、全員に似合う物じゃないとダメでしょ」
トワレはため息をつきながらそれぞれに手渡した。嬉しそうにふわふわに広がる髪を一つにまとめるクオーレは、とてもうれしそうな顔をしていた。これで一つ、思い出の品が増えた。
■
「では、行きますか!」
トワレが率先して御者台に座ったのは、彼女が一番馬を扱う腕が長けているからだが、それとは別にクオーレと何を話せばよいのか分からないからだ。以前のススロット侯爵家でも別部屋だった上に、殆ど会話もしていない。最後の最後でお友達枠に入れられたが、結局様付けを止められないまま今日まで来てしまった。
「これじゃ、ダメよね」
クオーレが残念そうな顔をする度に、トワレは反省する。もっと気楽な話し方が出来たらどんなに良いだろう。
しかし、元王太子妃候補であり、養子には行った先も侯爵家。男爵家の彼女からすれば、あまりにも身分が上だ。
「俺も、一応侯爵家出身なんだけど」
笑いながら隣に座るクルーガーが突っ込んだ。一人いそいそ御者台に座ってしまった妻を心配して付いてきたが、ずっとブツブツ言っている姿に苦笑が絶えない。
「お前らしくないな」
「なによ」
「リベルタの時は、最初からガンガン突っ込んでただろ」
「それは、あの子が手のかかるお子様だったからで」
「クオーレも、大人じゃないと思うけどな」
頭の後ろで手を組んで、クルーガーは空を見上げた。晴れ渡る雲一つない青色は、見ているだけで心がワクワクしてくる。
「この旅で、少しでも距離が縮まればいいんじゃないか?ほら、様付けがさん付けになるとかさ」
「そうね。そう願うわ」
夫婦二人がいい感じで話を纏めていた頃、女子二人の中に一人残されてしまったシャイネンは、笑みを浮かべながら、楽しそうに話すリベルタとクオーレを見守っていた。
テーブルの上には既にお菓子が大量に載っており、飲み物も紅茶から果実水まで選び放題だ。
「それでクオーレさんは、テリブル侯爵家では、どんな生活をしていたんですか?」
「はい。毎日鍛錬を欠かさず行っていました」
「鍛錬?」
日々怠惰に暮らしたいリベルタには理解できない単語だ。
「鍛錬とは?」
「走り込みをしたり、腕立て伏せをしたり、腹筋を鍛えたり」
「完全に脳筋ですね」
「脳筋とは?」
互いに理解の出来ないワードを聞き合う二人の会話は、同じ言語を話す人間とも思えない程チグハグだ。それでも何とか理解し合おうと頑張るのは、お互いを大切に思っているからだろう。なにせ、突然襲われるという命の危険を、力を合わせて乗り切った仲なのだ。口調はまだまだ他人行儀だが、つい固く握手をしてしまいたくなるような戦友と言えた。
「脳筋とは、脳みそが筋肉で出来ている種族のことです」
「脳みそが、筋肉。リベルタさんは、博識ですのね」
「いえ、それほどでも。脳筋の特徴は、あまり深く考えず全てを腕力で解決するところです」
「単純明快で良いですね。私、脳筋で良かったですわ」
王太子妃候補の時に大人の思惑で翻弄されてしまったクオーレは、画策や陰謀と言ったものに嫌悪感を抱いている。真っ向勝負で戦った方が、どれほど楽だろうと思っていただけに、リベルタの脳筋理論は天啓にも思えた。
彼女がグッと力強く手を握ると、一見細く見える二の腕にきちんと筋肉が育っている。正に、テリブル侯爵家の教育のたまものだ。
「クオーレさんは、確か、火魔法が得意だとか?」
「はい、それに関しては、義父も太鼓判を押してくれています。今回の旅でもお役に立ちますわ」
勢い込んで立ち上がるクオーレだが、そこまでの戦闘があるとも思えない。
ただ、流石のリベルタも相手のやる気を削ぐような馬鹿ではなく、
「それでは、何かあったらクオーレさんにお任せしますね」
と、全てを丸投げするキャンセル界隈女子として正しい返事をした。
しかし、それが現実のものとなるとは。
「クオーレ、やり過ぎ!」
大概やり過ぎなリベルタが、そう叫ぶまでに時間はかからなかった。
8月22日より、アラマーのざまぁ連載版を投稿します。全8話です。楽しんでいただけたら嬉しいです。




