第一話 お前は、当て馬令嬢である
第二章を前に、第一章を大幅に追加修正しております。
我こそ『誤字脱字直し隊』の皆様、AIの使い方の分からない私に、救いの手を差し伸べてくださいませ。
奮って、お直しをよろしくお願いいたします。
『お前は、当て馬令嬢である』
うっとりと新入生代表の挨拶をしている幼馴染を見ていたら、そんな言葉がリベルタの頭に浮かんだ。
神の啓示?
はたまた、予知能力?
リベルタは、パッとしない自分が、完璧令息と言われるフレルト・ポルポ公爵子息の幼馴染になれたことを、ずっと神様に感謝してきた。
幼い頃から、互いの家を行き来できたのは、母親達が親友だったから。
ただの同級生なら、口もきいてもらえなかったかもしれない。
それほどフレルトは、高嶺の花であり、女子生徒の憧れ。
羨ましいと言われることはあっても、可哀想と言われることはなかった。
しかし、脳裏に映し出されたのは、思春期を迎えたフレルトに邪な欲望の捌け口にされ、ズタボロにされた挙句、殺される未来。
『あ……もしかして、これって、乙女ゲームの……』
リベルタは、やっと思い出した。
前世で、重課金してまで推していた『クズヒーロー』の事を。
メガネ男子至上主義だった彼女は、細マッチョで無表情なフレルトが、聖女として覚醒した主人公と出会ったことで、人間らしさを取り戻していく姿が大好きだった。
兄がいる為、公爵家を継ぐことのできない不遇の天才は、黒髪黒縁のドS。
頭脳明晰な上に、一度剣を持てば向かうところ敵なしの彼は、この学園にもトップ入学を果たし、今まさに、壇上で新入生の挨拶をしている。
黒を基調とした学園の制服は、彼を際立たせるために運営がデザインしたのだと思っていた。
それくらい、大人びた衣装がとても似合っており、一見十二歳の少年には見えない。
『この目で推しの姿を見られるとか、なんのご褒美ですか!』
一瞬、自分の置かれている状況を忘れて、心のカメラを連写するリベルタ。
喪女に推しを語らせれば、三日三晩寝ることを許されないだろう。
それほどまでに、フレルト・ポルポは、研究畑に身を置く二十九歳喪女の煩悩を、全て詰め込んだような存在だった。
合コンというリアル世界の出会いを捨て、課金の為に残業を増やし、我武者羅に働いた。
それこそが推しへの愛だと信じ込み、部屋の中は、グッズだらけ。
研究者として一流だと認められても、彼女の一般常識は三歳児以下だった。
自分が積んだ金で装備を増やせば、フレルトの生存率が爆上がりする。
運営に踊らされ、自らの身を大切にすることすら忘れた彼女の最期は、過労と少食による餓死だ。
それでも、後悔はないと思っていた。
魔王討伐へ向かう彼には、数多の苦難がのしかかり、それを乗り越える度にどんどん強くなる。
その姿は、正に英雄。
聖女と結ばれ、結婚式を迎えたエンディングを見たくて、他の攻略対象そっち除けで、フレルトルートのみ周回した。
例え、いろんな意味で利用し尽くした幼馴染のリベルタ・ベリッシモ伯爵令嬢をゴミクズのように捨てようとも、それは、この世を救うヒーローだから許されると思っていた。
しかし、自分が捨てられるゴミに転生したとなれば、話は違う。
『笑って許せるわけ、ないでしょ!』
聖女に無礼を働いたという漠然とした理由で断頭台にまでのぼらされたリベルタ。
実は、それほどの悪事は働いていない。
ただ、身も心も、そして実家の家宝まで捧げた男をポッと出の元平民聖女に奪われて、カッとしただけ。
持っていたカップを投げつけたことは褒められないが、当たってすらいないのだ。
その事を公衆の面前で吊るし上げ、民衆を煽りに煽って死刑までもっていったのは、何を隠そうフレルトだ。
最初は、彼も、伯爵家の一人娘であるリベルタを利用して婿入りを狙っていたはず。
しかし、聖女とお近づきになったことで、別の野望が生まれた。
『聖女の伴侶になれば、公爵位が与えられる』
聖女誕生と共に流れた噂は、スペアとして生まれた全ての令息達の心を激しく揺さぶった。
婿養子の伯爵家と新進気鋭の新たな公爵。
どちらが良いかなど、語ることすら無駄である。
壮絶な聖女争奪戦に一歩リードし、やっとキスまで辿り着いたフレルト。
自分とリベルタの爛れた関係を知られたくない一心で、この世から消すことにしたのだろう。
『あんな男の、何処がそんなに良かったのよ……』
重課金廃人だったお前が言うなと言われそうだが、今となっては前世など綺麗さっぱり無かったことにしたかった。
しかし、悔しいかな、壇上でそつのない挨拶を繰り広げているフレルトは、やはり彼女の好みのど真ん中を撃ち抜くバチクソイケメン。
メガネ越しの切れ長な冷たい瞳。
ブラックホールのような求心力。
薄い唇が微かに上がるだけで、心臓が痛くなるほど脈打つ。
『あんなの、ゲームの中の話だし。私が変われば、彼も変わるかも……』
そんな淡い期待を抱きそうになったが、何十回と攻略したからこそ、彼の好みがリベルタでないことを知っている。
『ヒロインの顔を思い出しなさい!太刀打ちできるわけないでしょ!』
世の中の可愛いと美しいを全て集めたような彼女の名は、ボニート。
パン屋を営む仲良し夫婦のもとに生まれた少女は、愛くるしい性格も相まって、街の人気者。
ピンクがかったミルクティー色の髪は、何処にいても目を引く。
『それに引き換え、リベルタは…………』
見た目では、彼女に勝てるところが何一つない自分に、胸がギューッと締め付けられる。
『しっかりしなきゃ。折角転生した意味がないじゃない』
未練がましい自分を叱咤し、涙で視界を滲ませながら、リベルタは、そーっとお腹に手を置いた。
シクシクと痛む臍の下。
この痛み、覚えがある。
そう、今まさに、彼女は、初潮を迎えようとしていた。
これを機に、子供っぽかった体が変化し、ストーリーが始まる4年後までに、見事なメロンカップの爆乳お色気担当に変身するのだ。
しかし、現在のリベルタは、髪も瞳も赤茶色で、痩せすぎた体以外に特段目立つ特徴はない。
小さな顔にややタレ目の瞳が官能的な位置に配置されているが、本領を発揮するのは、まだまだ先。
そんなリベルタが女性的な体つきになった途端、フレルトは、リベルタを性的な意味で利用するようになるのだ。
彼の過去が語られる中、影絵のような手法で描かれたリベルタとのベッドシーンに鼻血を出したのは悲しい思い出。
転生喪女も、転生前は、それをゲーム内の盛り上げイベントとしか思っていなかった。
しかし、我が身と置き換えてみれば、リベルタは、初恋の人に好かれたい一心で、都合の良い女になってしまった可哀想な少女。
そして、フレルトは、ただのクズ。
まだ手を出されていない内に、どうにか救わねばと思ってしまう。
ムッツリスケベな幼馴染が、下心満載で触れてくることを、単純に好意だと受け取り純粋に喜んでしまう彼女に罪はないのだ。
『私が守ってあげるからね』
リベルタは、キュッと唇を噛んで、自分自身を両腕で抱きしめた。




