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妖刀迅譚  作者: 梯広 興
邂逅編
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13/13

妖刀迅譚

 詰所を発ち、凄まじくやる気を出さない脚に鞭打って歩くこと少し。


 やけに大振りな扉を眼の前にして、青年の把手を握る指が妙に強張る。


 (戻るか、入るか・・・)


 出来ることならば、回れ右をして家に帰りたい。だが、先輩燧士の指示である以上、ここで逃げ出すことなどもっての外であろう。


 「はぁ・・・」


 永鶴山の中心部、泰松舘を囲う水堀に面したところに聳えているのは、この街でも極めて珍しい、二層の唐風の楼閣にして、惣一郎の目的地。


 その名は『磯名酒堂薬房(いそなきどうやくぼう)』、通称『薬師楼(くすしろう)』。全国各地から指折りの医師・薬師が集まり、研究に励んでいる。


 また、彼らの集積地であるがゆえに、「日の本一」の称号を欲しいままにする程の知識・技術を誇る薬房である。


 また、町医者の他にも霊迅衆に薬を卸し、医術の一切を差配している。文字通り、刀士達の生命線の一端を担う施設でもあるのだ。


 だが、惣一郎は、そんな立派な施設があまり得意ではない。理由は主に二つ。


 まずは、ここに関する記憶は大抵苦痛が伴うものであること。 


 これまでに熾士に叩きのめされること数知れず。そして、当たり所が悪ければ、この薬房で治療を受ける羽目になる。


 そのため、いかなる用件であろうと、ここに来るたびに、その記憶が嫌でも蘇ってくるのだ。


 短く息を吐き、把手を引く。一見重厚そうな深紅の扉は、思っていたよりも簡単にその先の景色をこちらに曝け出す。


 「お疲れ様です」


 幾つかの薬の匂いが薫る。


 これまた何処か唐風を思わせるような大広間では、何人もの薬師が各々の作業に勤しんでいる。


この空間に一歩踏み入れただけでも、薬研で薬草を磨り潰す音が至る所から聞こえてくる。


 薬草が入っているであろう引き出しと睨めっこしていた一人の薬師が、奇しくも数ヶ月で顔見知りとなってしまった来訪者に気付く。


 「お疲れ様、今日はどうしたの?」


 ここにいる薬師・医師は、ほぼ毎週のように訪ねて来る燧士に嫌な顔一つ見せない。皆、人格よし、腕よしの敬意を払うべき御仁達だ。


 「牟田殿に薬をいただきに来ました」


 「ああ、牟田ならいつも通り奥で何かやってると思うよ」


 しかし、どの組織にも変わり者はいる。問題は今しがた薬師が指し示した先に鎮座する()()だ。


 それこそが、惣一郎の脚を遠のかせる理由の二つ目にして、最たる理由である。


 廊下を進む道中、左右に配置されている部屋が目に付く。


 小さめの屋敷程の広さを持つこの薬房では、腕の立つ医師・薬師には個人の研究室を与えられる。そこで日々、各々の使命・探求心に従って様々な研究を行っているのだ。


 それらを通り過ぎ、一歩、また一歩、歩みを進めるたびに、「引き返したい」というように脚が駄々をこね始める。


 嫌がる気持ちと脚に鞭打って歩くこと数十秒。廊下の最奥へと辿りつく。ここが目的地にして脚を遠のかせようとした元凶である。


 「ふう…」


 「牟田さん、惣一郎ですー」


 意を決して戸の向こうに声を投げるが、応答がない。


 「・・・」


 「牟田さーん!」


 先程よりも一回り大きな声で自らの存在を示す。


 しかし、またしても戸の向こうから彼を迎える声は無かった。


 (ったく…)


 「入りますよー」


 このままでは埒が明かない。心の中で軽く毒付きながら腹をくくり、把手に手を掛ける。


 戸を開き、眼前の状況に顔をしかめる。


 「うっ…!!」


 (臭っ…!)


 部屋は、相も変わらず微妙に散らかっている。そして、机に一心不乱に向き合う影と、部屋中に立ち込めている煙が視界に入る。


 煙を除けば、いつもと何も変わらぬ光景である。しかし、今日は特に異様だ。


 それは間違いなく部屋に充満している臭い。中の状況から察するに、幾つもの香が焚かれていたのだろう。


 それらの匂いが幾重にも重なり合うことで醸成されてしまった強烈な香りを交えた空気が、戸を開いたことによって流れ出し、惣一郎の鼻腔にも飛び込んできたのだ。


 (―――――!!!!!)


 あまりもの臭いに悶絶する惣一郎の様子など知らずに、漸く来訪者に気が付いた部屋の主がおもむろに顔を上げる。


 「おお、燧士の少年!今日は何の用かね?」


 脳髄まで突き刺すような得体のしれない臭気の根源に何もないように座っている漢が一人。


 総髪に眼鏡をかけた、いかにもという感じの風体をしているこの男こそ、この薬房の薬師が一人、牟田則彦(むたのりひこ)


 探求心の赴くままに薬学の知識を求め、西国から都へと昇り、かつては都の薬房で辣腕を振るっていたという、紛れもない名医だ。


 しかし、京という果てない器を持ってしても、彼の無限にも等しい探求心という水を受け止めることはできなかったようである。


 未知の知識がある――。


 そう聞いた牟田は、都で「京に牟田の医術あり」とまで言われたほどの名声と地位をかなぐり捨ててまで永鶴山に乗り込んだ。そして、この薬房で研究を行うようになったというとんでもない経歴を持つ。


 この男、先の肩書きは伊達ではなく、医学、薬学の腕において、この薬房でも並ぶ者がいない程に圧倒的な技能・知識を持っている。


 数多の刀士をその腕と研究成果をもって救ってきた、彼らにとって文字通りの救世主である。


 しかし、それほどまでの偉業を誇ってもなお、関わる者ほぼ全員から一定の距離を置かれている。


 理由は明解。こいつは「ド」が付くほどの変人なのだ。


 知的好奇心・探求心が並外れているうえ、それを抑える箍というものがない。そのため、研究のためならば、自身すらも実験台にすることすら進んで行うというとんだ変わり者。


 本人曰く、「自分で受けて感覚を知るのがイチバンいいのよ」とのことだが、何の躊躇いもなく周囲の人間も巻き込むため、彼に命を救われたのと同じように、彼の好奇心という暴れ車に撥ね飛ばされた被害者が数多くいる。


 誰が名付けたか『奇人薬師』。


 当の惣一郎が彼を初めて目にした時も、薬房への挨拶回りの折、轟音と煙と共に扉ごと吹っ飛んできた姿であった。


 この男に知的好奇心という要素が絡むと大概、碌な目に遭わない。そのため、皆、極力距離を取っている。


 しかし、何故か憎み切れない性格と、本人の他者を積極的に巻き込んでいく飛び込み気質。そして、彼がいなければ、今頃黄泉送りになっている者も数多いるという、大きすぎる「恩」があるため、皆の頭を悩ませている。


 それにより、周りの者は抜きんでた才覚と奇抜極まる性質を、畏敬と崇敬、警戒の念をもって接しているのだ。


 「おお、燧士の坊ちゃん」


 「こんどは何やってるんですか・・・」


 鼻を摘まみながら、奇人薬師に呆れ気味に問いかける。


 「舶来の香が届いてね、増産して何か薬にできないかなって試してたんだよ」


 「・・・・・」


 「何かね?」


 「また理解の出来ないことを…」


 普段、失礼なことを思ったとしても他者を慮って言うことはしない惣一郎としては珍しく、辛辣な言葉を投げかける。


 「なんだい、人を狂人みたいに言うじゃないか」


 「そうじゃないんですか?」


 さらに毒舌を畳みかける燧士を、薬師はジト目で睨みつける。


 「だれが君たちに薬を作ってやってると思っているんだい?」


 「いや、ほんとソコは頭が下がります・・・」


 これ以上の口撃は、なにかしらの不都合が及びかねない。痛い所を突かれ、いつになくよく回る舌の矛を収め、頭を下げる。


 薬師はそれを睨みながら、甕から生成色の粘体を掬い上げ、薬壺になみなみと注いでいく。


 過酷な修練に晒され、毎日のように治療に来ていた燧士連中に嫌気がさした薬師が作成したのが、惣一郎が今まさに手渡された塗り薬だ。


 この薬が無ければ、彼らはより長い時間、苦痛に苛まれていたであろう。


 「ありがとうございます、それでは…」


 「そうだ、最近の調子はどうかね?」


 鼻を捩じ切るほどの異臭に我慢しながら、退散しよう踵を返した惣一郎の背に向かって、逃げ場を塞ぐように薬師の声がかかる。


 (この人には・・・いいか・・・)


 「まあ、ぼちぼちってところですよ」


 いち早くこの伏魔殿から立ち去るため、無難な応答で誤魔化そうとする燧士に、牟田の指摘が差し込まれる。


 「行き詰っているんじゃないかな?」


 「・・・・」


 「差し詰め、戦うきっかけがわからないってところかな?」


 (なんでわかるんだよ・・・)


 「なんで判るんだよ、って顔だね…。研究者に必要な技術は観察だよ。それに、君のような悩みを持つ者は多くいたからね、そのくらいはお見通しさ」


 背筋から怖気が奔る。この男には何もかも見透かされてしまうのではないか。


 「まだ日暮れには時間があるんだ」


 「少し小話をしようか」


 背を向けて歩いていた薬師は、鋭すぎる洞察力に戦々恐々とする惣一郎の心中など、どこ吹く風といったように、椅子に腰掛けて頬杖を突く。


 「いえ、今日はちょっと…」


 「まあまあ、少しの話くらいいいじゃないか。何故だかみんなつれなくてね」


 (そりゃそうだろうよ・・・)


 この男、今しがた見せたように恐ろしく頭が切れるのだが、自分のことになると途端に察しが悪くなる。


 当然の帰結すら気が付かず、首を傾げている薬師の姿に、恐怖から呆れに感情が推移していく。


 「そこの蒸篭を開けて饅頭を取ってくれよ、そのあいだに私はお茶を用意するから・・・」


 有無を言わさぬ様子で惣一郎に指示した薬師は、椅子から立ち上がり、机に置かれていた急須に茶葉をポイポイと放り込む。だが、振り向く時に一瞬だけ見えた彼の表情に嫌な予感がしてならない。


 「変なモノは入れないでくださいよ」


 蒸篭に歩を進める惣一郎は、互いに背中向けたままでこの部屋の主に釘をさす。


 「ちっ・・・、バレたか・・・」


 「はあ・・・」


 振り向いておもむろに溜息をつく。解っていたとはいえ、余りにも早く実験台として扱おうとした薬師に今度は呆れ全開で対応する。


 「溜息をつくことはないじゃないか、入れるのはこの間調合した漢方だよ」


 残念そうにしている薬師の手には小さな薬入れが握られている。やはりというべきか、この男は油断ならない、改めて警戒感を浮き上がらせる。


 「でもそれ作ったの貴方でしょう?それも碌に試していないやつ」


 「そこまでわかっているのか・・・」


 「当たり前でしょう、同じ手には何度もかかりませんよ」


 永鶴山に来てからそこまで日が経っていない頃、所用でここを訪れた折、薬師に茶を振る舞われたことがある。


 その場では、大陸由来の茶菓子と濃茶に舌鼓を打つ満足な茶席があった。しかし、その時の惣一郎はまだ彼の化けの皮を見抜けてはいなかった。


 家に帰ってからしばらく、原因不明の腹痛に見舞われたり、体温の乱高下といった健康被害に見舞われ、夜中までひどい目に遭ったのだ。


 翌日、怒りのままに乗り込んで抗議に及んだのだが、本人はそれを「失敗は成功のための足掛かり」といって言ってのけた。それ以来、惣一郎は彼の腕以外をあまり信頼しないようにしている。


 それどころか、数か月という短期間のうちに目の当たりにした度重なる奇人ぶりに、同じく被害を受けた矩秀共々、辟易して、先程のような雑な扱いをする始末である。


 そんな背景があっての二人きりでの茶席だ。正直、今のように何をされるか分かったものではない。


 そのうえ、本日三度目の茶席。夕飯前に腹が膨れるのは避けたかったが、ここで逃げると後々、面倒臭いことになるのは必定。


 やはり、この部屋からの早々の離脱を諦め、薬師との茶会に臨むしかないようだ。


 そうと決まれば、一目散に窓に向かい、この激烈な臭いを追い出しにかかる。


 この近辺を通りかかる人たちはしばらくの間、異臭に悩まされることにはなるのだろうが、この臭気の爆心地で話を聞きながらの茶席など、到底耐えられたものではない。死なば諸共というやつだ。


 新鮮な空気に一息つき、蒸篭から饅頭を取り出す。


 湯気を立ち昇らせる白い包みを探るように眺める。ここに何か盛られていたとしたら、それこそ打つ手はないが、茶菓子一つに至るまで警戒していたらきりがない。


 薬師の最後の良心を信じながら、止め処なく溢れる警戒心と諦めの念を携えて、薬師の一挙手一投足に注視しながら茶が出されるのを待つ。


 「それで悩みというのは、戦うきっかけ、これから死地に赴いていくための確固たる意義がまだ見つかっていないといったところかな?」


 薬師に出された湯呑を訝しげに眺める。立ち昇る湯気からは変わった臭いは発していない。


 しかし、今更どれだけ警戒しても詮無きこと。後の事は後で考えればよい、薬師の奇行に一旦折り合いを付け、意識を薬師の話に向ける。


 「はい」


 「私はね、人間に克服できないものはないと信じているんだ」


 「古来より、人間という種族は『不可能』という壁に当たってそれを乗り越えてきたのだよ」


 「我々はその『不可能』から『可能性』という突破口を紐解き、それを実現し、磨き上げることで成長することができるのさ」


 「それは、病や怪我においてもそうさ。人の身に起こる事象なんだ。解き明かせないはずがないだろう?」


 「君たち刀士は、妖力という未知の力を扱ってこれまで数多の困難に打ち克ってきた」


 前のめりで話す薬師は、惣一郎を指さしながら言葉を続ける。


 「私はそれに新たな『可能性』を見たんだ。ここで私は人体という不可思議な結び目を解き明かす糸口を見出すことが出来ると感じた。それが、私が今ここにいる理由さ!!」


 弁節に熱が入ってきたのか、薬師は立ち上がり、手を広げながらくるくると回っている。


 自己陶酔に浸っている研究者(狂人)に、これまでの『可能性』とやらに撥ね飛ばされてきたことへの恨み混じりの視線を向ける。


 「でも、ここにいるのは貴方の知的好奇心故でしょう?」


 薬師はピタリと止まって顔をこちらへ向けながら答える。


 「まあ、それもあるがね」


 (それが大部分でしょうよ)


 「君たち刀士はその身を以て人々の矛となり、盾となる素晴らしい存在だよ。妖力とやらが不足している私じゃ到底出来ないことさ」


 「だから、私は自分が出来ることをやらねばならない。刀士を救い、その役目を全うできるように助力すべく、薬学・医術に磨いていきたい。ここにいる者が皆そう思っているように、私もそう思っているんだよ」


 「なにより、私の求めている『可能性』が、別の果てなき『可能性』の一端に挑まんとしている者を救えるってなればお得じゃないか」


 「お得」といって憚らないこの男にらしいなと思う。


 「・・・」


 「なんだい、人の顔を不思議そうに眺めて・・・。先ほどの漢方を試す気になったのかい?」


 「いや、意外とまともなことも考えてるんすね・・・」


 「ホントに君は失礼なことを言うね」


 「さっき俺で実験しようとしたヒトが何言ってんだか・・・」


 惣一郎の指摘に、クククと笑いながら流した薬師は椅子に深く腰掛け直して、視線を燧士の目に合わせる。


 「少し真面目な話をするとね」


 「人間とが物事を成すために大切なものは何だと思う?」


 唐突に投げかけられた問いに手に顎を付け、数秒思案する。

 「やる気ですか…?」


 「部分的には正解だね。私が思う答えは『大志』だ」


 「『大志』ですか・・・?」


 「そう、大いなる志というものは物事を成すための大きな原動力になる。そして、それを追いかけることで現状に満足することなく、更なる高みに向かって邁進する事ができるんだ」


 「ここにいる者も、君たち刀士を救うためという『大志』を掲げて挑み続けているから成果を出すことが出来ているのだよ」


 薬師はそう言葉を続けながら、指先で棒状の物をくるくると回している。


 これは、どうやら「えんぴつ」なる南蛮からの舶来品らしい。


 墨を擦らずとも書を書けるという不思議道具だが、なぜこの男がそんな貴重品を持っているかは分からない。


 「私の周りでも、何かを大きなことを成し遂げた者は皆一様に大いなる志を胸に秘めていたものだったよ」


 「実際に私がなけなしの成果を出すことが出来たのは『可能性』に挑み続けるという大志を持っているからだと思う」


 これほどの成果を残していてなおも、この薬師はそれらを「なけなし」というのか。


 底知れぬ探求心と共にあった向上心に痛み入りながら、牟田の薫陶を反芻する。


 「『大志』を持って物事に臨むべし。これは君よりも長く人生を送ってきた者として助言かな」


 「・・・・・・・」


 「相も変わらず、君は不思議そうな顔をしているね。そこまで私の言動が珍しいモノかね?」


 これまでの薬師は、腕はともかくとして、理解の及ばない奇人であると思っていた。しかし、こんなにも高尚なことを考えていたとは全くの想定外。伊達に都で「今少彦(いますくな)」と呼ばれていた訳ではないようだ。


 それはそうとして、この薬師の奇人度合いは常軌を逸しているのは確か。彼のボヤキに思わずコクコクと頷きで答える。


 「やれやれ・・・。しかし、何かしらの参考にはなったんじゃないのかい?」


 「それは、まあ・・・」


 「ま、そこからどのような可能性を導き出せるのかは君次第だけどね」


 「まずは、君自身のためでも、誰かのためでも構わない。何か一つ「大志」を心に据えてみるのはいいんじゃないかな?」


 思っていたよりも良い意見を聞けたと感心する、一つ何か大きな糸口を見つけることが出来たような実感を得た一方で、日が暮れるまでには家に戻りたい。そう切に願いながら、ここに来て初めて湯呑に手を伸ばし、謎のお茶を一口喉に通す。


 「・・・これ普通の茶葉じゃないでしょう?」


 「やっぱり気付くか」


 嫌な予感が的中した。これまでの被害の記憶が高速で脳内を駆け抜け、体が素早く警戒体制へと移行する。


 「でも安心したまえ、これはこの薬房で近々売りに出される薬茶さ」


 「じゃあ、いいか」


 「口に出てるよ…」


 「・・・まあ、いいや。それに君の打ち身にも効くはずだよ」


 (だからなんで解るんだよ・・・)


 「選りすぐりの漢方と宇治茶を配合したものでね。効能としては体を温める事での代謝の促進・老廃物排出の促進、それから安眠にも・・・・・」


 薬師による講義、もとい蘊蓄が始まった。


 自らが知らぬ内に引き金を引いてしまっていたことにハッとするが、時すでに遅し。これは長くなる。


 離脱する機を完全に逸してしまった惣一郎は、ペラペラと言葉を送り出し続ける薬師を尻目に、鉄瓶の中身を勝手に注ぐ。


 鉄瓶を置き、今しがた薬師が効能に自信ありと豪語した薬茶を、今度はゆっくりと、火傷しないように慎重に口に運ぶ。


 薬師の蘊蓄の大半は、取るに足らない与太話ではあるものの、たまにタメになる健康知識を授けてくれる。


 だが、やはりと言うべきか、薬師の口からは、惣一郎の教養では到底理解できないような文字が羅列されていく。


 お役立ち情報を逃さぬように。しかし、脳内の情報処理が破綻しないように、なんとなくで耳を傾け続ける。


 未だ残り香漂う魔窟から解放され、ようやく帰路に就けたのは暫くしてからであった。

意外と戦闘が絡まない話とか、人生経験が足りないんで、その人の思考・思想の根幹に関わるポリシーをどうやって文章に起こしていくか難しいですね・・・、これから主義主張が違う人たちを出すためにはどうすべきだろうか・・・

ちなみに、薬房でもらった薬茶は、奇人薬師が暇つぶしと小遣い稼ぎを兼ねて他の薬師を巻き込んで開発したものです。家に帰ってふみたち家族に振る舞った結果、大変好評でした。後日、また貰ってほしいとせびられ、惣一郎君は頭を抱えることになります。

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