8話 感情の思念
やっぱり足りないエネルギーの補給は地下からに限るよなー。
いくら減っても自動的に補充されるんだから尽きる心配しなくていいし。俺は足りない分を補給できて、もう俺とこいつは一蓮托生ってやつだな。
ん? 話が違うじゃないかって?
自然にエネルギーが貯めるのを待つって?
んな面倒くさいこと俺がするわけないじゃん!
時短だよ、時短! こういうのは早く済ませるに決まってんじゃん。
……まあ確かに? 不安はある。
おそらくこの地下の大量のエネルギーは封印を維持するための物なのだろう。
そこにさらに俺がエネルギーを回収したら封印に必要な量が維持できないかもしれない…。
でも、ちょっとぐらいいかな? もうちょっといけるかな? あれ? 全然問題ないぞ? これ普通に吸っちゃっていいんじゃね?
みたいな感じでなんかいけそうだったんだもん。やるしかないでしょ!
俺のエネルギー許容量もかなりのものなのだが、地下にあるのはそれ以上だ。
おそらく、俺が十回エネルギーを満タンにしてもまだ余るだろう。
…それぐらい封印の維持に必要だとすると一体何が封印されているか気になるとこのだが、それはもう考えるのは諦めた。
とにかく、肝心なのは、そんなにエネルギーがあるなら使っても問題ないだろう、ということだ。
まあ、限度はあるだろうから取りあえずは、地下の総エネルギー量の四分の三を切らないようにエネルギーを貰っている。
前回、穴開けたときに一気に放出されたのが四分の一でそれでも封印はびくともしてなかった結果を踏まえての安全策である。
流石に俺もそこまで欲張りではないつもりだ。
それに、四分の一と言ってもかなりの量だし、俺の生命維持と成長分と貯蓄分、全て合わせてもその量よりは少ない。
しばらくは四分の三を切らない程度に吸うつもりだが、貯蓄分が貯まれば、地下に供給されるエネルギー量が俺が吸い出すエネルギー量を上回って次第に通常通りに戻る筈だ。…多分。
唯一怖いのは、俺が開けてしまった穴。
根っこを地下に届かせるために開けた穴なのだが、実は地下に集められたエネルギーがこの穴を伝って未だに放出され続けているのだ。
今は俺がエネルギーを吸っている状態だから外に漏れだしたりはしてないが、これで俺が吸うのを止めたら再び漏れ出すだろう。 そうすると漏れだしたエネルギーが雲に吸収されて再びの嵐が起こる可能性が高い。
…あの嵐をもう一度体験するのは嫌だ。
だから対策として俺は少しずつ成長している。
成長して大きくなれば生命維持に必要なエネルギー量が増える。生命維持に必要な量と穴から漏れ出すエネルギー量が同じにすれば穴から漏れ出すエネルギーはなくなるという寸法だ。
流石に地下のエネルギー総量のの四分の一を吸収し続けるには俺がいくら大きくなっても無料だ。だが常にその量のエネルギーが漏れだしてる訳じゃない。地下に集められたエネルギーの一部が漏れ出しているだけなので俺が多少大きくなれば吸収しきれないという状態にはならない筈。
うん、我ながら完璧な作戦だ。
それから俺は取りあえずエネルギーを貯めることに集中した。
地下のエネルギーは周囲から吸い寄せられて集められてるのだが、そんなに早く大量のエネルギーが集められているわけでもないので、俺もチマチマ四分の三を下回らないように吸っている。
正直、かなり時間がかかっている。
まあ俺は長期戦には慣れているので別に苦ではない。
のんびりエネルギーが貯まるのを待つ。
……待っているのだが…、
うーん、これはあれだ。
苦ではないが暇だ。
刺激が足りないと言ってもいい。
考えてもみれば、俺はただ大きくなって静かに生きているだけだ。
木らしいと言えばそうなのだろうが、刺激が無さすぎる。
だいたい、俺が大きくなろうと思ったのはそれしか出来ないから。嵐に耐えられる体になりたいと思ったのは嵐で傷を負ったから。
…なんてつまらない行動原理なのだろうか。
せっかく不思議なエネルギーがあるのに俺は貯めて成長して生き永らえることにしか使ってない。
まあ、他の使い方を知らないのだが…、
俺がやった唯一の功績と言えば根っこを地下のエネルギーの塊に伸ばしたことだけだ。
それ以外の俺の行動は、どこかインパクトに欠ける。
…本当にこのままでいいのだろうか?
このまま、ただ大きくなってそこに座するだけの木になっていいのだろうか?
ーー俺はそうは思わない。
だから俺は、行動を起こそうと思う!
……………、
………。
まあ、これは建前だ。
ようは暇すぎて何が刺激が欲しいだけなのだ。
…封印に手を出そうと思うほどに。
いや、我慢だ俺!
何が封印されてるか分からないんだぞ!
下手に動かしたりしたら大変なことになったりするかもしれない!
……でも、触るぐらいならいいかな?
いやいやいやいや、抑えろ俺! 俺は我慢できる木だ。
……でもちょっとだけなら…。
これが葛藤…フリというやつなのだろうか?
駄目なものほどやりたくなる。
なるほど、これは手強い!
……俺じゃ抵抗できないな~。
ア~、シカタノナイコトナンダ。コレニアラガウナンテデキルワケナイジャナイカ~。
ーーというわけで、ちょっとだけ触ってみよう!
大丈夫! 根っこの先っぽだけ、ほんのちょっと……、うおっ! さ、触ってしまった!
遂に俺は触ってしまたぞ!!
……………、
………。
何も…起きない?
それならもうちょっとだけ…、もうちょっと…、もう普通に触っても大丈夫なのではないだろうか?
…丸い…のか? 思ってたより小さい。
うーん、なんの封印なのだろうか? そもそもこれ封印なのか? 中に魂を感じるだけだし、もしかしたら眠ってるだけとか?
エネルギーの塊の中心部にある封印?は思ったより普通のものだった。
丸い球体状で大きさは…人一人ギリギリ入れるぐらい?
触っても弾かれたりしないしやっぱり封印ではないのだろうか?
ーーそう思っていた時だった。
《…………、》
ん? 誰か何か言ったか?
《…………、》
まただ。でも周りには誰もいな…
《…………、》
いや、確かに聞こえる。
でもこれは声っていう感じよりは、思念? 思い?
《…………、》
……『出して』って言ってるのか? よく分からんがそれに近い感情だろう。
でも、一体誰が…、
《…………、》
…もしかして、地下の封印から聞こえてきてるのか?
まさかと思いながらも、俺は封印から根っこを離したすると途端に感情のような思念は聞こえなくなる。
そして再び根っこで触れるとそれは俺に伝わってくる。
そこから出たいのか?
正直、色々な感情が同時に伝わってきて何を言っているのかよく分からない。
でも、一番感じるのは『ここから出たい』という感情。他の感情も『寂しい』とか『どうして』とかまるで誰かに助けを求めているかのようだった。
俺はそれを聞いて、『出してやろうかな?』という気持ちになりかけたが途中で踏みとどまった。
…やべぇ、相手の思念に取り込まれそうだった。
封印からの思念が直接俺に伝わるから、俺の思考もそういう方向に流れてしまいそうになる。
これは危険だ。
俺はすぐに根っこを離した。
するとやはり思念はそれ以上俺に伝わってくる気配はなく、同時に俺は安堵した。何が封印されているのかは知らないが、これ以上触らないほうがいいだろう。
触れていると、相手の感情に飲み込まれる。
封印の中身がなんであれ、そんなことが出きるヤツは危険でしかない。俺の勘がそう言っている。
例え相手が善良だったとしても無害とは限らない。
むしろ、怨霊とかそういう類いなのかもしれない。
…やはり、放置がいいだろう。
ーー俺は封印に触るのを止めた。
だが、封印の中から送られてきた思念を、俺は忘れることが出来なかった。
…くそっ、 厄介なものに手を出してしまったか。




