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 コハクに出会うまでの僕は、毎日同じことの繰り返しのなかを生きていた。先生から教えられることばかり覚えて、頭のなかを知識だけで埋め尽くしていた。

 もちろんそれも無駄なことではなかったとは思う。でもそのころ父から言われた言葉の意味を、僕はまだ理解することができていなかった。


「いいか、ヒカリ。友達と思いっきり遊んで、一生の思い出をつくることは子供時代にしかできない経験なんだ。それはどんな難しい資格よりも、大切なことだぞ」


 しかし今なら、父のこの言葉の意味が何となく分かる。

 コハクだけじゃない。レイやミナミ、ミソラさんたちとの繋がりを築けたことは、どんな難しい方程式を解くよりも大切なことだと思う。充実していても、していなくても、一日は必ず終わる。

 今年の冬はコハクの望みどおり、いろいろなことをした。コハクの家で鍋パーティーもしたし、電車に乗ってスノボにも行った。コハクとレイとそれからミナミ。冬休みにどこか出かけるときは、必ず4人一緒だった。

 周りから見れば、それは「友達以上」に見えたかもしれない。特にスノボ旅行はダブルデートみたいだったし、少なくとも僕はずっとそのことを意識していた。冬眠病の呪いが解けた今、コハクは恋をする自由を得たはずだ。

 スキー場からの帰りの電車は、僕とレイで隣り合って座ることになった。まとまった4人分の指定席が空いておらず、コハクとミナミは仕方なく後ろの号車の座席を予約して座った。

僕がトイレに行ったついでに様子を見に行くと、二人はお互いに肩を寄せ合って眠っていた。久しぶりに思いっきり遊んだのだから無理もない。それにミナミはスノボ初挑戦で転んでばかりいたな。

 そんな可愛らしく微笑ましい光景に安堵すると、僕はレイが待つ指定席へと戻った。彼は持ってきていた文庫本を読み終え、窓側の席で夜の街に流れていく光たちを見つめていた。


「コハクとミナミは?」

「ぐっすり眠っていたよ。さすがに疲れたみたい」

「そうか」


 珍しくレイのほうから話しかけてきた。本を読み終えて手持ち無沙汰になったのかもしれない。


「明日は筋肉痛になりそうだね」

「ああ。正直こうした遊びは嫌いだったけど、楽しかった」


 楽しい。その言葉がレイの口から聞けるなんて思いもしていなかったので驚いた。まあレイはミナミと違って、初心者でも完璧に滑れていたからだとは思うが。初めて会った時と違って、随分と丸くなったように感じる。


「また行きたいね」

「ああ、そうだな」

「あのさ、レイ。これからのことなんだけど」

「なんだ?」

「レイが命をかけて僕らの未来を守ろうとしてくれたことは分かっている。でも僕はやっぱりコハクのことが好きだ。冬眠病から解放されたコハクにもう一度想いを伝えたい」

「そうか。そういえば、前にもそんなことを言っていたな。あいつが望むなら、君は『友達』を超えたいって」

「うん。だけどコハクはきっと僕じゃなくてレイのことが好きなんだ」

「どうしてわかる?」

「何となく、そんな気がする」


 レイが嫌いそうな曖昧な返事。しばらく沈黙したあと、レイは車窓に身体をむけてこう言った。


「だったら試してみればいい。俺は何も言わない」


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