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あの日、救急外来から斑鳩先生の研究室に移されたコハクは、重篤な状態がまるで嘘のように静かにベッドのうえで目を瞑っていた。髪には艶があり、頬は白く透き通って膨れている。今すぐにでも目を覚ましたって不思議じゃない。
人間は死が近づくと、逆に生気が強まるという。
僕は先生から呼ばれてミナミとレイと一緒に研究室へ入り、眠っているようなコハクの横に立った。僕が右側に、レイとミナミが左側に立ち、ちょうど3人でコハクを囲んだ形だ。
救急外来でコハクに措置を試みた医師や看護師さんたちも研究室に集まっていた。手術室のような独特の緊張感が漂う。
それでもコハクの隣に立つと、深く安定した彼女の寝息が聞こえてきた。それは彼女が冬眠していたとき、レイと二人で聞いた寝息にとても良く似ていた。
やはりコハクが、このまま何もしなければもうすぐ死んでしまうなんて信じられない。大勢の大人たちに囲まれていても、画面上に映された心電図が次第に弱まっていても、今コハクが命の危機に瀕しているなんて思えなかった。
「コハク!」
気づくと僕は彼女の名前を呼んでいた。もしかしたら目を覚ますかもしれない。そんな期待が知らないうちに言わせたらしい。
しかしレイには、そんな程度でコハクが目を開けることなどないことくらいとっくに分かりきっていたようだった。
「ヒカリ……。ここは病室だ」
僕を諫めるように、レイは首を横に振りながら言った。
「分かっているよ。だけど……」
僕はその先を言えなかった。すると斑鳩先生が、
「あまり時間がありません。始めましょうか」
と気まずい空気を断ち切るように緊迫した口調で言った。
先生は僕とミナミに計測用の電極をつけると、僕ら三人とコハクが一直線になるように研究室に並ばせた。レイのエネルギーがミナミによって宇宙エネルギーに変換され、僕が生命エネルギーにしてコハクへ吹き込む。この一連の流れが並ぶことによって視覚的によく分かるようになった。
「お二人は目を閉じてそれぞれの役割に集中してください。それから邑朋くんはこちらへ」
いよいよか。僕は先生に言われた通り目を閉じ、頭のなかでミナミから送られてくるエネルギーをコハクへと送るイメージを描いた。
大丈夫だ。あれだけ超能力を使ったんだ。必ず成功する。
僕は祈るように自分に言い聞かせ、その時が来るのを待った。
「では邑朋くんはそちらの椅子へ座ってください。あなたも目を閉じて、ゆっくりと椅子に身体を預けるように……」
斑鳩先生がレイを椅子に座らせる音がする。そうして周りの大人たちの動きも慌ただしくなった。
「では、始めます」
しばらく足音や衣擦れが聞こえたあと、斑鳩先生が静かにそう言った。そこから先のことは、よく覚えていない。
誰かが椅子から崩れ落ちる音がして、心電図の音がはっきりと聞こえるようになったところで気がついた。
「あれ……? ここは、どこ?」
寝ぼけたような懐かしい声がした。僕が目を開けると、ベッドのうえでコハクは目を覚ましていた。




