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僕とレイの間には、決定的な違いがある。
僕はコハクに好かれようと振舞っているが、レイはそうではない。彼はありのままの自分で、コハクに接している。
僕のほうがずっとコハクのことを想っているのに、コハクはレイのほうばかり向いている。レイといるときのコハクは、僕には見せない顔をしている。
「レイくんと話していると、知らないことがたくさん出てきて、まだまだ眠れないなって思うんだよね。レイくんが教えてくれた小説や音楽は、どれもそれまで知らなくて、でも面白い作品ばかりだし。考え方だって、それまで私が思いつきもしなかった画期的なものが多い。
そうやって新しい世界に出会うと、この世にはまだ私の知らないことがいっぱいあるなって気づかされるんだ。だからついつい、質問攻めにしちゃって、迷惑がられることもあるんだけどね」
昨日、コハクの部屋でレイについて話していたとき、コハクは僕にこう言った。
僕に生きる意味を教えてくれたコハクと、そのコハクに生きる意味を教えたレイ。
3人の想いは一方通行だ。それゆえに奇跡的なバランスで関係を維持できている。でもレイの気が変われば、コハクの方に向き直るかもしれない。
傷つかないために心を閉ざしているレイが、コハクを受け入れたら。僕はどうなってしまうのだろう。
☆☆☆
曇った心抱えながら学校に行くと、コハクはまだ来ていなかった。「はみ出し席」にはレイが、席に座ってノートに何かを書いていた。
「……」
いつもは僕から挨拶をするのだが、今日は声を出す気にはなれない。するとレイが手を止めて、彼のほうから、
「……おはよう」
と言った。
「あっ、うん。おはよう」
僕はそのまま席に座り、隣の席にコハクが来るのを待った。こうしてレイと二人だけになると、コハクが目覚める前の日々を思いだす。
「コハクは?」
僕がそう尋ねると、レイは、
「電車が遅れているんじゃないか。JRが遅延しているって、駅の運行情報で見たから」
と答えた。
「そうなんだ」
僕はレイがさっきから書いているノートが気になった。テスト期間まではまだ先だし、今日は小テストがある授業もないはずだ。
「ねえレイ。さっきから何を書いているの?」
「ああ、これはコハクのノートだよ。あいつが眠っているときの授業範囲をまとめたやつ。問題を出しておいたから、その答え合わせをしているんだ」
レイはノートを小さく折って、僕に表紙を見せた。それはコハクが目覚めたときに、僕とレイで作ったノートのうちの1冊だった。僕が国語と社会・英語を担当、レイが数学と理科を担当して、コハクに渡した。
僕は渡してそれっきりだったのに、レイとコハクはずっとノートのやりとりを続けていたらしかった。
「どう? コハクの正答率は?」
「完璧だよ。あいつは吸収が早いから、俺としても教え甲斐があるんだ」
「へえ……」
レイがここまで、人のことを褒めるなんて珍しい。僕は内容が気になって、レイの席に近づいてノートを覗き込んだ。
「さすがレイ。丁寧だね」
ノートには濃く固い字で書かれた数式と、柔らかく丸みを帯びた字で書かれた回答で埋め尽くされていた。
レイはコハクの回答をチェックし、赤ペンで丸をつけていく。
「こうやって問題を作ることで、自分の復習にもなるし……」
「なるほど」
僕はレイが答え合わせをしている様子を、しばらく横で眺めていた。すると、ノートの空白に青い文字で何かが書かれているのを見つけた。回答と同じ丸い文字。コハクの字だ。
『レイくん。いつも問題作りと答え合わせ、ありがとう!
P.S. この前教えてもらった映画、すごく面白かった! また感想とか語り合おうね』
さらにその下には濃く固い文字で、こう返信が綴られている。
『その作品が気に入ったのなら、まず続編を観てみるといいよ。同じ監督なんだけど、前作よりメッセージ性が強くて、雰囲気もいいからきっと気に入ると思う』
これはまだインクが渇いていなかった。答え合わせをする前に、レイはまずコハクへの返信を書いたのだ。
(何だよ、これ……)
僕は丸付けを続けるレイの横で、視界がどんどん暗くなっていくのを感じた。
勉強ノートの交換だけかと思ったら、これじゃまるで交換日記だ。グループトークも苦手だったコハクとレイが、お互いにノートを通してこんなやりとりをしていたなんて。
僕の知らないところで、二人がやりとりをしている。その事実が、コハクやレイに対する思いを、黒く塗りつぶして、見えなくしていった。




