二人の未来
対岸、隣国の地へと足が着くや、ペタンとその場に座り込んでしまうカレン。
足が何かを踏む感触は確かにあったが、視界には入らない。実際にフィードバックされる体感と、自分を守ってきた常識。相反する経験は酷くカレンを疲労させたのだった。
「カレン?」
繋いだ手が引き止める感覚で振り向いたユーリ。座り込んだカレンを見て慌てる。
「かかか、カレン大丈夫? えっと救急車は110?」
あたふたするユーリ。混乱しているのか後半は何を言っているのかわからなかった。
しかし、少し時間が経ってユーリの頬が朱くなり、少し顔を背ける。
「ユーリ?」
「……普段できる秘書とかお姉さんっぽいカレンの女の子っぽい仕草のギャップがヤバい」
言葉にされて恥ずかしくなり、さっと立ち上がり姿勢を正すカレン。
「ユーリのせいじゃない。あの程度なら逃げなくてもなんとでもできたんじゃない?」
少しだけふて腐れたような態度は自分らしくないと思いつつも止められなかった。
ユーリといると自分の知らない自分が表れて少し怖い。だけど悪くないとも思うのだ。
「あの国を出るところを見せつけたかったんだよ」
ユーリはもう一度手を差し出して、
「今日はもうここで泊まろうか。」
そう言った。
不法入国したばかりなのだ。さきほどの光景に打ちのめされていたとしても、そろそろ見回りに来てもおかしくはないのだ。今すぐ移動すべきなのだ。
「よっと」
その一言で目の前に地下への階段が現れる。手を引かれて降りていくと、そこはキッチンもリビングもある部屋だった。
幾つか扉があるので、もしかしたらお風呂なんかもあるかもしれない。普通にそこらの宿よりも……いや、王城よりも上等だった。
アールヴァク用に馬小屋まであるのだ、地下に。最早意味がわからない。
逃亡生活中とは思えない豪華な食事のあと、(やはりあった)お風呂に入ってベッドの上にいる二人。
「ねぇ、ユーリ、まずどこに行くつもりなの?」
気怠い心地好さの中で尋ねる。
「うーん、まだ決めてないけど、砂中の秘宝とか天地返しの滝とかギルドで聞いて見てみたいところは幾つかあるかな」
カレンはギョッとして見返す。
「……それってグラン砂漠の伝説っていうか、あるかどうかもわからない噂話でしょ? 髪に砂が絡むし、肌は荒れるしやめない?」
珍しく嫌そうにカレンが言う。
「大丈夫だよ。快適な空間とおいしいご飯は保証するから」
「否定できない。世の中のダンジョンマスターが見たら怒るかしら? 呆れるかしら?」
なんとも言えない表情でカレンが言う。
「あ~、どうせなら他のダンジョンマスターに会いに行ってみるのも悪くないかも」
「どっちにしろ、外の様子が落ち着かないとどうしようもないんだけどね」
ユーリにしかわからないが、地上では捜索隊が見回っているらしい。
「カレンはどこか行きたいところとか、面白そうなところはないの?」
「んー、思いつかないわね。でも面白そうなところならわかるわ」
「え、どこどこ?」
カレンは指を指して、
「ユーリの側がきっと一番面白いわ」
「何それ」
二人は一緒に笑いあう。
取り留めもない話はいくらでもできたが、疲労と、心地好さでどちらからともなく眠りについたのであった。
ご覧いただきありがとうございます。
これにて本編終了、閑話を少々書く予定でございます。
何作か書きまして、どうにも綺麗に終わらせるのが難しいことを知り、短い話でもきっちりと書いてみようと思った次第であります。




