ダンジョン
時は流れ、もうここに来て早一週間が経った。
その間にノルンが実技授業で馬鹿にしてきた男子生徒を玉砕したり、そのせいで何故か俺に決闘を申し込んできて、更に俺がボロ雑巾のようにしてやったりと、何かとイベントはあったのだが、よくある話なので省略させてもらう。
そんな事より。
そんなどうでも良い事よりだ、本日は漸くあの場所――レベル十のダンジョン――へと足を運ぶ事が出来る日なのだ。
現在は放課後、俺とアスカ――――ノルンの三人は、ギールに連れられて以前訪れた廃棟へと足を運んでいた。
「まさか、ここがそんなに危ない場所だったとはニャ……」
「ここはだいぶ前に立ち入り禁止区域に指定してたはずなんだけどなぁ」
「ニャ、ニャハハ……ハ……」
ギールの視線にノルンが渇き笑いを浮かべる。
何故ノルンが着いて来たかというと、俺がギールにお願いしたからだ。
この一週間、毎日一緒に行動するようになり、霧に包まれていたノルンの実力が徐々に明かされていった。
先程も言ったが、男子生徒を玉砕したこと。実はこの男子生徒、高等部二学年でも上位を争う程の実力を保持していたようで、周りに居た先生方達でさえ心底驚いたと称賛の声を上げていた。
他にも魔法の実技で、初級魔法の威力を何十倍にもして放ったり、初めて習うという術式すらも直ぐに覚えてしまったりと。
中々に天才肌である。
そこで、一週間前にも手伝うといった手前、このまま除け者にするのもどうかと考えたのだ。
「ま、今回は大目に見てやるが、今度は承知しないぞ」
「分かったのニャ。ごめんニャさい」
「素直で良しっ」
二人の会話に、今から行く場所を考えるとリラックスのし過ぎでは、と言いたくなるが、そう言えない事情がある。
「アベル、そろそろ手を離すの。幾ら夏が終わったと言っても、あっついの」
「いやいや、これを離してしまっては俺の心が凍結してしまう。恥ずかしがることないのだぞ」
「あああああ!! 何でいつもこうなのおおおお!!!」
久しぶりに叫び出すアスカに少々驚きつつも、お互いの手はしっかり握ったままだ。
本当に嫌ならスッと離せばいいものを……可愛い奴め。
「よし、着いたぞ。この先だ」
俺達一行が立ち止まったのは、とある扉の前。
それはとても大きく、他の扉同様木材で出来ているようだ。
しかし、その他にある扉とは違い妙に凝った絵柄が彫られている。
「この部屋はな、二十年前まで図書室として使われていたんだ。ネレウス内でも最も蔵書数を誇る場所で、建築したのは人の手の筈が、未だに全部で何冊保管しているのかが分かってない。」
「え? そんなのってあり得なくないの?」
「確かにニャ。運んできたのはここの人達の筈ニャ?」
「そうなんだよ。その筈なんだけど、何処の聞いても、納品履歴を見返しても、何の情報もないんだ」
不可解だな。そんな場所、存在するのか? まるでダンジョンの様な――――まさかっ!
俺の表情を見て、ギールがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「流石に気が付いたか。そうなんだよ、この部屋自体が、この扉から先が地獄の入り口。レベル十のダンジョン――――地獄の図書室」
重苦しく、金具の錆び付いた嫌な音が響き渡る。
この扉は物凄い重量があるそうなのだが、軽量化の永久魔方陣が刻まれているとのこと。
「ぬわっ!! 埃っぽいの!」
開いた時の勢いで埃が舞い、それにアスカが咽る。
俺はアスカの背を透かさず擦ってやり、落ち着きを取り戻すまで傍にいてやる。
「あぁ、すまんすまん。ここは広すぎるから掃除が行き届いてないんだよ」
「よくこんな得体の知れニャい場所を、清掃員なんかに掃除させるニャ」
「確かにな、第一発見者が学生とも言っていたが、よく入室許可を出したものだ」
俺達の質問にあたふたとし出すジーク。
「あ、あれだよ! サーニャのせいなんだよ!」
「うわぁ、人のせいにしたの」
「屑ニャ。人でなしニャ」
「大丈夫だジーク、俺は理解した。サーニャ女史に報告しておくぞ」
「全然してねーじゃねぇかよっ!!」
やはり緊張感に欠けるな。ま、今更なんだが。
俺はジークを一通り弄り満足し、室内を見渡す。
「おぉ……!!」
思わず感嘆の声が漏れてしまう。それ程に美しく、魅力的な空間だ。
この部屋だけでも何処まで続いてるのかが分からず、ずっと先は暗く何も見えない。室内所狭しと並んだ巨大な本棚にはぎっちりと本が詰め込まれており、そのどれもが貴重な書物であるのが一目で分かる。
所々に設置された窓ガラスから漏れる光は暖かく、室内を更に幻想的に書物達を照らし当てている。
「これはっ! 何だ、ヴォイドの冒険記か」
俺は興味を惹かれた一冊に指を掛け、作者名を見て元に戻す。
あいつの書いた本など、読むだけ無駄だ。基本幼女の事しか書いていない。
あれは重度の幼女愛好家なのだ。自分では紳士であるとのたまっているが、ただの変態だろ。
そんな俺を見てノルンが近づいてきて、
「何見てるのニャ? あっ、ヴォイドさんのやつなのニャ! アタシ、この人の大ファンニャのニャ~!」
「はっ?!」
思わず声が漏れる。
ま、まさかこんなところであいつの同志に出会ってしまうとは…………。
ノルンの将来が心配だ、早めに手を打っておかねば。
どうしたの、と聞いてくるノルンを適当にあしらいつつ、今後彼女との付き合い方について思考を巡らせる。
「おーい、お前ら何やってんだ。行くぞ」
「アベルとノルンはのろまだから仕方ないの。放置していくの。くたばってしまえばいいの」
「ちょちょちょっ! 引っ張るなよアスカ! お前ら、この先真っ直ぐだぞ!」
そう言って二人は本棚の影へと消えていく。
――――――これが本当の嫉妬かっ!!
俺は熱くなる心を右手に鷲掴み、悶える。
「な、何してるのニャ……」
今の俺にノルンの蔑んだ視線など気にならんっ!!!
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