皇宮へ(3-4)
立襟のボタンを外し、上着を脱がせる。その下には男の物のシャツにウエストコート。
専属皇宮騎士の隊服を着ているレディの服を脱がすのは……。
(まるで男の服を脱がしているみたいで全く気分が盛り上がらない。まさに興が冷める)
「おい、誰か! メイドはいないか?」
大声で呼ぶ。
「ベネディクト第二皇子殿下、いかがなさいましたでしょうか!?」
当直のメイドが慌ててやって来たので、バスタブに横たわらせたマリナの着替えを命じる。
「髪もちゃんと乾かすんだ。完全に乾かすと時間がかかる。ある程度で構わないから」
「かしこまりました。……その、ドレスはいかがなさいましょうか?」
そこでシェリーにプレゼントするために用意していた赤いドレスがあることを思い出す。あれは胸元も背中も大きく開いている。
バストはシェリーよりマリナの方がかなり大きい。よってきついかもしれないが……。身長や体重は同じようなもの。年齢だって同じだ。
「ドレスはこれを着せろ。パンプスも入っている。下着はお前でなんとかしろ。あとこの件は口外不要だ」
「……賜りました、ベネディクト第二皇子殿下」
メイドはドレスの入った箱を受け取ると、すぐに忙しそうに動き出した。何度か浴室のある寝室を出入りし、別のメイド二人を連れて来て、どうやら下着も手に入れたようだ。
「おい、気絶しているなら無理に起こすな。そのままにしておけ」
「承知いたしました」
僕は前室のソファに座り、あのドレスを着たマリナの姿を想像し、頬が緩む。
それにしても死んだかと思ったが、生きていたのか。襲撃され、攫われ、手籠めにされて。最終的に殺されたのかと思っていた。だがマリナは頭がいい。上手いことやって、逃げ出したのだろう。
しかも見た感じ、包帯を巻いていたようには思えない。ほぼ無傷。だが純潔は散らすことになっただろう。襲撃され、あの体で手を出されないはずがない。
彼女の初めては僕が奪いたかったが、仕方なかった。だが初めては痛がる女が多い。シェリーも初めての時、「痛い! やめて!」とわめき、爪を立て、大変だった。
マリナなら、貴族令嬢としてのプライドがあるから、シェリーのようにはならないだろう。それでも耐えるような表情では萎える。あの美貌の顔が恍惚とするのを見たい。
そう考えると襲撃をされたのは憐れだが、既に経験済みで僕が抱きやすくなったのなら、それに越したことはない。
(しかしなぜマリナは、専属皇宮騎士の隊服なんて着ていたんだ? 隊服はそう簡単に手に入るものではない。しかもその隊服を着て、水路に浮いていたとは……)
そこでもしや、と思う。
変態侯爵リオンヌに嫁ぐとなり、そこでマリナは目が覚めたのではないか。僕の再三の誘いを断ったこと、それが間違いだったと気が付いた。素直に受け入れ、結婚していれば、リオンヌ侯爵に嫁がないで済んだ。襲撃もされず、純潔をならず者に奪われなかったとようやく自覚した。
(僕に謝罪するために、専属皇宮騎士の隊服を手に入れ、皇宮まで忍んできたのか?)
そうだ、きっとそうだろう。リオンヌ侯爵との婚姻を反故にできるのは皇家ぐらいだ。
(僕にすがり、リオンヌ侯爵に嫁がないで済むようにしたいのでは? なんなら元鞘に戻りたいと思っている?)
あのプライドの高いマリナが、あられもない姿で、僕にすがる様子を想像する。
(ああ、マリナ。君は気が付くのが遅かった。君は既に穢れている。それに僕はもうシェリーと婚約してしまった。彼女の父親は金庫だ。無限に金を吐き出す金庫。それを失うことはできない。だが君は若く美しく、たとえ乙女でなくなったとしても、その体には価値がある。僕が所有する別荘の一つに匿い、愛人にならできるだろう。もはや公爵令嬢という身分も失い、僕の正妻になることなんてできないんだ。下手をしたら娼婦にまで落ちぶれてもおかしくない。第二皇子である僕の愛人になれるだけでも奇跡だと思ってもらわないと)
そこまで考え、別の可能性も考える。
(婚約破棄されたことを逆恨みし、僕にひどいことをしようと忍び込んだ……?)
もしそうなら、冗談ではない。悪いのはマリナなのだ。僕の言う通りにしていれば、こんなことにはならなかった。シェリーのように従順であれば、こんなことにはならなかったのに。
だが大丈夫。短剣を所持していたが、それはさっき回収した。自身の身を守るために、所持していたと思った。だがもし、あの短剣で僕を刺そうしていたのだとしても。それはもうできなくなった。
(……念には念を入れよう。手首はロープで縛った方がいいな。あとは口に布をかませる。艶っぽい声を聞けなくなるが、それは仕方ない)
従者を呼び、ロープと布を用意させ、準備が整うのを待つ。
(しかしこんな真夜中に来なくても)
欠伸をしたところで、メイドから声がかかる。
「大変お待たせいたしました。ご用意が整いました」
「分かった。全員下がれ」
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