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洒落で用意した○×クイズにも見事に引っ掛かってくれた間抜け達の姿にワタクシはこの後の催しの成功を確信しました。けれど油断は禁物。キレて帰られてしまっては元も子もありません。
困り笑顔を浮かべたワタクシは泥まみれの二人を温泉へとお連れしました。
反発する気力も無く無言で追従する二人。ダメダメ、肩が震えてしまうわ(笑)堪えるのよワタクシ!
「簡素ではありますが着衣所は男女分かれてございます。中に入浴用の薄着もございますので、後はこちらの使用人たちにお任せ下さいませ。当家自慢のスペシャルエステと合わせてご堪能頂きますわ♪」
幽鬼のようだった二人も為すが儘温泉へと叩きこまれほっこりしてくると、漸く平静を取り戻した様で口々に文句を言い始めました。ワタクシは笑顔でそれを聞き流し待機している使用人たちに合図を送ります。優秀な使用人たちはサッと準備を整えてくれました。
「ささ、お二人とも。長湯も身体に毒ですわ。温泉の効能を更に高めるエステをいたしましょう」
温泉の縁に設えられた簡易ベッドに二人を寝かせるとアロママッサージの開始です。
(これ、普通に気持ち良いヤツじゃん羨ま~)
そうねアタシ。ワタクシたちも就寝前にお願いしましょう。
あっという間に文句も忘れ蕩け始めたボンクラ共。ワタクシのおもてなしはまだ始まったばかりですのよ?
「ねぇ、レベッカ嬢? ワタクシ、自分で言うのもなんですけれど、ワタクシがこのように美貌を保っていられるのもこの温泉と腕のいいエステのおかげですの」
アロマエステに骨抜き中のレベッカ嬢は「何コイツ自慢かよ?」という視線だけを向けてきます。勿論それだけではありませんとも。ワタクシは彼女にもったいぶって耳打ちしました。
「実は更に即効性のある秘術を治めた施術師を呼んでおりますの。高貴な方々が挙って予約待ちしている王家御用達のお方なのですけれど……」
「も、もしかしてあの……遙か東方で修行されたという、陛下ですら多くを語らないという?」
「ご存じでしたか流石ですわ! ええ、あのインヤオ師です」
ワタクシの生きるこの国は俗に言う西洋風な顔立ちの者が多く暮らしておりますが、このインヤオ師は東洋風の顔立ちで違う文化圏から流れ着いた御仁なのです。ユスフェベル領の風土が性に合ったらしくここへ根付いた彼の御仁は、実は我が家の薬師でもあり幼い頃からお世話になっています。
「本日はお二人のこれからを祝福するためにお呼びしたのですもの。たっぷりと味わって頂きたいのです。……施術、受けられますか?」
レベッカ嬢の耳元から離れて綺麗に立ったワタクシを吟味するように眺めてから彼女は決断しました。
「ええそうね。高貴な私に相応しい持て成しをお願いするわ」
うふふ、嬉しそうな顔が隠せていませんよレベッカ嬢?
そして、噂の真相も知らず、了承するなんて些か軽率ですわね。
(ま~教えてやらんわけだがww 後の祭り~~ってね♪)
まぁアタシ、アレは間違いなく美容健康のため。即効性もあるし、身体にも良いでしょう?……本来の施術であれば、ですけれどね。
湯冷め防止に厚手のバスローブで包まれたレベッカ嬢が恭しい態度のイケメン使用人に(至極満足そうに)エスコートされながらすぐ傍のリクライニングチェアへと腰掛けます。
ではたっぷりとお願いしますね、ヤオ爺☆
(地獄の足つぼマッサージへとごあんな~~~~い♪)
そう、アタシが芽生えたからこそ理解できたのです。ヤオ爺は特級の鍼灸師だったのだと。
なんて回想してる間にヤオ爺の説明が終わったみたいですね。少し離れていますので何と言ったかは分かりませんが、きっといつものように煙に巻く胡散臭い話でもしたのでしょう。レベッカ嬢が神妙な顔をして厳かに頷いていますもの。あんなに騙されやすくて彼女、この先大丈夫なのかしら?なんて老婆心が芽生えそうね。あ、ヤオ爺が消声のツボに鍼さしました、やる気満々ですね(にっこり)
自分の最愛の人がこれからどんな目に合うのかも知らず、このドぐされ野郎は魅惑のエステティシャンたちを口説こうと必死です。
(その超絶お綺麗なお姉さん方、傾国レベルの玄人ですから~w)
ワタクシも是非お相手願いたいと思ってしまうほどのお姉さま達は、最早その名だけ伝説として流れ着く正真正銘の傾国たち。花街の女神と称される三美姫なのですが、彼女たちとワタクシの出会いについては割愛いたしますね。
まぁ、そんなわけで万に一もこのドスケベ野郎に勝ち目は無いわけです。ひと時の甘い夢は如何ですか? 捥げればいいのに。
+ + +
儂の名はインヤオ。
遙か遠くの東方より流れ流れてこの地へ落ち着いた元根無し草じゃ。
儂がこの地を終の棲家と定めたのには老いもあったが、何より風土が生まれ故郷に似ている所にあった。領民たちも穏やかで良く治められている事はこれまでの経験から疑いようもなかったしの。
ひょんなことから領主お抱えの薬師になってしまったが、それも天の采配だったのじゃろう。今では嬢様へと繋がる全てに感謝しておる。
儂は何があってもティーエ嬢様の味方であると自負しておるが、唯一、そこでだらしなく転がる害虫との結婚だけは許せんかった。しかし遂に儂の願いが天に聞き入れられたらしい!
これまでティーエ嬢様が甘受してきた屈辱の数々を報復する機会に恵まれたのだ。
儂は嬉々とする内心を抑え、その一端を担ったこのアバズレの足つぼを刺激する。
途端、身を捩り絶叫が放たれるが音にはならない。只管悶絶するのみ。上体は暴れまわっているが、儂がしっかと足を掴んでいるので逃げられやせん。
そうして儂は粛々と激痛だけでなんの効能も無いツボを押し続けた。
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