幸せな家庭を
心地の良い朝だった。
ベッドから体を起こす。
昨日の出来事が鮮明に思い出された。
「柊さんと、デートしたんだ」
実感が薄い。なんたってクラスのマドンナ的存在だ。
俺なんかが付き合ってもらえて、デートまでしてもらった。
「幸せ者だな~」
ゆるみ切った口角を隠さず、俺は部屋を出た。
リビングに行けば父が先にご飯を食べていた。
「おはよう」
新聞から目を一切逸らさないで言う父。
この人はいつだって冷たかった。
俺が小さいころ事故に合い入院した時も母が病気で亡くなった時も、この人は一切焦りもしないし涙も流さなかった。
それどころか母が亡くなった次の日には、普通に会社に出勤していたし、葬儀の時だって仕事の電話を優先させていた。
そんな父が俺は嫌いで、今でも思う。
あの時病気で亡くなったのが母じゃなくて父だったらって。
そんな自分を最低だとは思うけれど、でもそう思わずにはいられなかった。
母が亡くなったのは小学校。
俺はまだ、親に甘えていたかったんだと思う。
だから、仕事ばかりで俺を全然見てくれなかった父が嫌いで、今もその気持ちが残ってる。
俺は一生この人を好きに離れないような気がする。
「最近、うれしそうだな亮太。いいことでもあったか?」
「別に、普通だよ」
できれば話しかけてほしくもない。
別に思ってもいないことを口にしなくてもいいよ。
そう心の中で父に言いながら俺は自分の分のご飯を用意してさっさと食べた。
部屋に戻ってまた携帯を見る。
連絡はない、か。
柊さん何してるんだろ。
暇だな。
毎日のように会えたらいいのに。
卒業するより前に告白してほしかった。
そんなことを思っても仕方のないことだけれど、やはり思わずには入れなかった。
「いや、待てよ…」
毎日のように会える方法ならあるじゃないか。
いや、この方法だと毎日どころがずっと顔を合わせていられる。
「そうだよ。結婚すればいいんだ。」
柊さんの花嫁姿、きっと美しいんだろうな。
クラス全員を招待して俺が勝ったんだって自慢するんだ。
みんなどんな顔するだろうか。
それから指輪を薬指にはめてあげるんだ。
そうすればきっと柊さんは嬉さのあまり涙を流す。
そんな顔もきっと素敵だ。
楽しみだ。そうと決まればお金を稼がなければ。
俺が彼女を幸せにしてあげるんだ。
彼女も俺にこんな思われてきっと幸せだ。幸せに決まってる。幸せじゃないわけがない。
「待っててね。柊さん。早くお嫁にしてあげるから。」
俺は急いで家を出てハローワークに行った。
今すぐにでも働かせてくれる店を探さなければ。
俺たちの将来のために。