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異変

あっという間に週末になった。

俺はルンルンで準備をした。

俺が持っている服の中で一番かっこいいはずのものだ。

あくまで冷静に。俺は柊さんと釣り合う男なんだ。

こんなデートごときで舞い上がっていては柊さんに恥をかかせてしまう。

「楽しみだな。柊さんはどんな服を着るんだろう。」

俺は待ち合わせ場所へ急いだ。

駅前の広場の時計の下に1時。今は12時30分。余裕を持って家を出た。

これで柊さんを待たせてしまうことはないだろう。

そう思っていた。けれど電車に乗って5分、人身事故があったとアナウンスがあってそれから30分も待たされてしまった。

やっと動き出して駅に着けば、電車が遅れたせいでホームに人が溢れかえっていた。

「くっそ。こっちは急いでるっていうのに」

身動きが取れずもたついてしまった。

外に出て急いて時計の下へ向かった。

そこには周りが霞むくらい一際美しくて、かわいい柊さんが立っていた。

「ごめん、待たせちゃって。」

そう言いながら小走りで柊さんに近づいた時だった。

隣に見知らぬ男がいた。

柊さんは困ったような顔をしている。おそらくナンパだろう。

「おいお前」

柊さんの肩に馴れ馴れしく置かれた手を掴んで引きはがした。

「あ、桜木君」

「大丈夫??」

「え、えぇ。助かったわ。」

目をそらす柊さんを見てドキッとした。

けれどそれと同時に俺の柊さんに触れたこの男が気に食わなかった。

「お前、覚悟できてんだろうな」

そういうと男はビビッて逃げていった。

舌打ちをして男をにらんだ。

「柊さんが無事でよかった。」

「あ…うん。ありがとう」

少し怯えているように感じた。知らない男に声をかけられて怖かったんだろう。当然だ。

「ごめんね。俺がもっと早くに来ていれば…」

「いや、いいの。私も少し、遅くなってしまったから…」

柊さんが遅刻?柊さんが電車に乗らなくていいように柊さんの家の近くにしたのに。

寝坊でもしてしまったのだろうか。

それとも俺のためにオシャレしてくれて遅れたとか?

どっちにしても可愛い。

「そうだったんだね。その服可愛いね。じゃあ早速行こうか。」

手を差し出すとそっと握り返してくれた。

まだ怯えているのか震えている。

大丈夫だよ、という意味を込めて強く握りしめた。



「はぁ」

とうとう来てしまった。デートの約束をした週末。

だるい体を起こして準備をした。

午後からということだが余計にだるい。

「まぁ嫌われるための日だと思えば多少頑張れる…」

そう言い聞かせた。

まずは30分の遅刻。そうすれば少し印象が悪くなるはずだ。

約束した場所まで歩いて5分かかるかのどうかの場所だ。

1時すぎまで家でゴロゴロしていればいっか。

そう思いながらベッドで寝転がっていると本当に眠ってしまって気づけば1時25分だった。

「もう行かないと」

眠い目を擦りながら家を出た。

服装もデートとは思えないくらいラフな格好で。

待ち合わせ場所につくともういるはずの桜木君の姿が見えなかった。

遅刻しそうな感じがしないけどな。

そう思いながら駅の方を見てみると人がごった返していて、電車が遅れているのは一目瞭然だった。

運悪くその電車に乗り合わせたのだろう。

私の遅刻作戦は失敗に終わった。

そう思っていたら声をかけられた。

桜木君かと思えば全くの知らない人。

めんどくさいな。そう思いながら適当にあしらっていたら肩に置かれていた手を誰かが掴んだ。

「おいお前」

あの時と同じ、低くて威圧的な声。まるで別人のような声。

桜木君だった。

「大丈夫??」

私に向けられた声はいつもの声だった。

「え、えぇ助かったわ」

こればかりは本音だった。

困っていた。自分一人じゃきっと対処できなかった。

なんだかこんな奴に助けられた自分が情けなくて目をそらした。

「お前、覚悟できてんだろうな」

低く唸るような声で放ったその言葉にぎょっとした。

あの日、告白を受けなかったときの声と同じ、威圧的な声。

まるで、本当に人を殺めてしまいそうなほどに、恐ろしい声。

案の定桜木君は私の肩に手を置いていた男の胸倉を掴むと、何の戸惑いもなしに思いきり殴った。

「な!?なにしてるの桜木君!?」

数メートル先まで飛ばされた男を見てぎょっとする。

一発でパンパンに腫れた頬、抜け落ちた歯、痛々しくて目も当てられないほどだった。

それでも尚殴りかかろうとする桜木君に恐怖で体が震えた。

けれど、ここで私が止めなくちゃ、いったい誰が止めるっていうの?

きっとこの人は、この男の息が止まっても殴り続けるに違いない。

直感でそう感じた。

「やめて!!もうそれ以上は殴らないで!!」

必死に右腕を握った。

未だ拳が握られたその手は強く、全体重をかけても目の前にいる男を殴ることにしか意識がないようだ。

「やめてって言ってるでしょ!?」

声が聞こえないなら、無理矢理にでも意識を戻すしかない。

そう思い私は、私の中で一番の強さで桜木君の足を蹴った。

すると桜木君はハッとして勢いよく私の方を見た。

「柊さんが無事でよかった!!」

さっきと打って変わって私の知っている彼の顔に戻った。

私はただ、恐怖しか感じなかった。

怖い、早く、一刻も早く彼と距離を置かなければ。

私は一体どうなってしまうのだろう。

この先のことを考えて血の気が引くのを感じた。

それからの記憶は曖昧だった。

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