狂気
あっという間にデートは終わった。
今日一日、柊さんの元気がなかったように感じた。
やっぱりお昼に絡まれたあの男が怖かったのかな。
一緒に遊んでて、その不安を、恐怖を、俺は取り除いてあげられなかった。
彼氏失格じゃないか。
もっと柊さんを楽しませてあげたかったのに。
「今日はごめんね。せっかく来てくれたのに。怖い思いさせちゃったし…」
「いいの。気にしないで。」
あぁ、無理に笑わせている。
俺が、柊さんにこんな表情をさせてしまっている。
「本当にごめん。また今度、デートしてほしい。その時はちゃんと、楽しませる。
柊さんを笑顔にする」
「え、えぇ。楽しみにしてるわ。」
どうしてそんなひきつった顔をするのだろう。
「もう、遅いし帰りましょ」
柊さんが、そう言うなら…
「そうだね。」
暗くなった空を見上げてふと、柊さんを一人で帰すのが不安になった。
「家まで送っていくよ。」
駅のすぐそこだからと言って何がないとも言えない。
安全に家まで帰してあげなくちゃ。
そう思ったけど、なぜか柊さんは「大丈夫、一人で帰れるから。」としか言わなかった。
お昼のこともあって俺は柊さんを一人にしたくない。
それをなんでわかってくれないだろう。
俺、間違ったこと言ってるかな。
「本当に大丈夫だから。それじゃあまた今度ね。」
そういうと柊さんは走って帰っていった。
「あ、待って!!
なんで、なんでそんな…俺から逃げるように…なんでっ!!!」
柊さんはなんで俺なんかと付き合ったんだ?
なんで俺なんかに告白したんだ??
「そんなの、愛してるからに決まってるじゃないか!!」
高々と笑う声が、赤い空に響き渡った。
やっと、やっと終わった。今日一日が。
長かった。彼を怒らせまいと、気を使い続けていた。
どっと疲労が襲ってくる。
これでやっと私は解放されるのだ。
こんなにも一日が長く感じた日はない。
家に帰って、それから明日くらいにもう別れ話をしよう。
申し訳ないとか、そういうのはもう全くなかった。
そんなことより早く、この状況を打破することしか考えられなかった。
「家まで送っていくよ」
その言葉でさえゾッとした。家がばれる。
それだけ何としても避けたいのだ。
「大丈夫。一人で帰れるから」
「でも、もう暗いしまたお昼みたいなことになってしまうかもしれないだろ?」
「本当に大丈夫だから。それじゃあまた今度ね」
私の頭の中は桜木君と別れることしかないのに、しつこく家に送ると言って聞かない彼の次に放つ言葉を無視して私はただ走った。
なるべく遠回りして、後をつけられないように。
後ろから、狂ったように笑う声が聞こえたような気がした。
それと同時に、ずっと見られているような、桜木君に監視されているような感覚さえ覚える。
まるで、逃がさない、もう逃げられない、とでも言っているような…




