あとがき
【序章】
「人は笑われたり、馬鹿にされたりすると腹が立つんだ。知らなかったなら、教訓にしてくれると幸いだ」
⑶理性 蜂谷湊
米国最大の金融機関の頭取が自殺した。事件性は無いものとして捜査は打ち切られた筈だったが、死者と交信出来る霊能者である少女の証言により、二人のヒーローを巻き込んで事件は奇妙な方向へ転がって行く。
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湊と航、ソフィアの邂逅編。
湊と航は双子だが、苛烈な印象を与える航が常識的な価値観を持ち合わせ、温厚そうな湊が暴挙を厭わないエゴイストという対比を書きたかった。
【1.幽霊屋敷】
「俺がやるんだ」
⑷泣き声 蜂谷航
航は友人から幽霊屋敷の噂を聞き、興味を持った湊と二人で調査に行く。しかし、遭遇した怪奇現象に自分達では手に負えないと判断し、霊能者ソフィアへ助けを求めるが……。
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ホラー小説の定番。
ソフィアをヒロインにしたかったが、湊の行動力が上回ってしまった。
航が湊を信頼する理由。航はプライドが高いので、誰かに助けられたり励まされたりすることが嫌い。誰かを助けることを当然とする湊の価値観を認められるのは、それが兄のエゴだと知っているから。
【2.因果応報の理】
「俺達に神はいねぇよ。ーーそれは、全部自分の力で乗り越えて来たからだ」
⑷神様 蜂谷航
双子の兄、湊が血塗れで帰宅した。驚いた航が心配するが、湊は傷一つ負っておらず、浴びせられたのは家畜の血だと判明する。湊は悪戯だろうと楽観的に考えていたが、その夜から不気味な現象に襲われ始める。
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リュウの登場回。心霊現象に理解があり、対抗する術を持つ人。湊はトラブルメーカーというよりも、不幸の避雷針。
きっと誰の心の中にも希望の光があって、時にはそれは神様と呼ばれる。自分の力で成し遂げたいと願う二人に神様は必要無かった。
溺れる者は藁にも縋る。そして、溺れる者が間違ったものを掴んだとして、誰にそれを責められるだろうか?
【3.祈りの欠片】
「ちゃんと向き合え! お前のたった一人の家族だろ!」
⑹リリー 蜂谷航
NCAAの地区予選、航は劇的な逆転負けをした。
その試合で航は兄によく似た選手、リーアムと出会う。彼から身の回りで起こる超常現象について相談され、湊と共に調査を始めた。
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リーアムとリリーの登場回。
心の強弱は誰にでもあり、他人がそれを完全に理解することは難しい。性格的にリーアムは湊、リリーは航に似ている。
【4.殺人人形】
「おやすみ。ーー良い夢を」
⑻人形遊び 蜂谷湊
航は帰り道でビスクドールを見掛ける。拾った訳でもないのに人形は自宅に現れ、航は不気味に感じる。その夜、航は就寝中の兄の首を絞めてしまう。人形が原因だと悟った湊は調査を開始し、二十五年前に起きた連続殺人事件との奇妙な繋がりに気付く。
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人形が怖いと思うのは私だけでしょうか?
覗き込んだ鏡に他人が映っていたかのように、二人は恐怖を覚える。航の恐怖は未知の心霊現象そのものに対する生命の危機、湊は自分の力では守れないかも知れないという喪失感に対する恐怖である。
悪意の無い殺意というものを二人は初めて体感する。
【5.小さい山羊のがらがらどん】
「誰かを大切に思う心は尊いものよ。でも、貴方が本当に大切に思うのなら、残される人の気持ちまで考えなければ」
⑸紡ぐ リリー・クラーク
湊の急な思い付きで、航は二人でドライブに出掛ける。偶々通り掛かった橋の下で二人は妙な老婆に出会う。
そんな頃、湊がトラブルに巻き込まれる。再会した老婆の過去を知り、二人は奇妙な因果を感じる。
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閑話休題。
ソフィアの降霊術と、リーアムが本質的には責任感が強く誠実な人間であることを書きたかった。
【6.執着】
「私は信じるわ。今は駄目でも、いつか届くと信じているから」
⑹執着の果て ソフィア・ハリス
共通の友人、リーアムが来訪する。嫌な予感を覚えた航は一度は追い返すものの、見るに見かねて訳を問う。彼が持って来たのは一枚の心霊写真だった。
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この話を書く為に心霊写真を探さなければならなかったのが一番大変だった。
頭の無い幽霊は、困難の中にある人が必ずしも助けを求めているとは限らないことや、助けられるのはその覚悟がある人間だけだという示唆を湊に与えた。
【7.神隠し】
「航が笑っていられるなら、それで良いと思った」
(7.神隠し ⑸切望 蜂谷湊)
クラブチームの練習後、電車に乗った航は無人の車内で目を覚ました。其処は亡者と異形の化物の徘徊する幽霊電車だった。一方、航が待ち合わせ場所に来ないことを不安に思った湊は、捜索を始め、とある都市伝説を知る。
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航が一人で窮地を脱する。湊は航を盲目的に信じているので、航の友達も信じる。粗暴な言動の航だが、仲間や友達がいて、居場所がある。幼い頃には作れなかった対等な人間関係は、航の人間としての成長の証でもある。
【8.愉快な仲間達】
「……子供って、親が思うよりも、願うよりもずっと早く大きくなるのよね」
(8.愉快な仲間達 ⑷作戦会議 蜂谷奈々)
近隣で起こる若い男の失踪事件に超能力が関与していると考えた湊は、大学の仲間と共に調査に乗り出す。航は湊の口から出たゲイ専門のクラブという言葉を不穏に思い付いて行く。そして、自分の知らない兄の姿やその秘密について手掛かりを得る。
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前回は航の友達が登場したので、今度は湊。
狂人の友達は狂人という類は友を呼ぶ関係。そして、どんなに親しくても秘密はあって、相手のことを完全に理解することは難しいということ。
湊よりも航の方が行動的という珍しい回。
【9.生贄】
『狂っている人間は狂っていると解らないし、そうしなければ生きられない人もいる』
⑹理性の糸 蜂谷和輝
ロイヤル・バンクの事件を調査していた湊と航は、手掛かりを求めてルーカス氏の亡くなった妻の過去を探っていた。その中で湊は最低の可能性に行き当たる。真相を確かめる為にルーカス氏の自宅を訪れた湊と航は、或る少女と邂逅する。
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ロイヤル・バンクの事件が置き去りだったので、本編に戻って調査開始。
エマは屋敷の中という箱庭で育てられたので、常識が異なる。生の実感が無いように、死ぬということが解らない。湊がエゴを貫けない相手という意味では、天敵でもある。
【10.断罪】
「傷跡がいつか癒えるように、君の憎しみも消える日が来る。だから、生きていこう。それだけが、俺達に出来る死者への唯一の救いなんだ」
⑺人の善性 蜂谷湊
山奥の道に金髪の夫婦の霊が出る。それが交通事故で亡くなった自分の両親なのではないかと考えたリーアムから依頼を受け、湊と航は調査に乗り出す。その最中、二人はリーアムの両親を死なせた加害者達に遭遇する。
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ホラー回。残酷な描写が多数あるが、勧善懲悪が明確になったので個人的には好きな話。
【11.天国に告ぐ】
「何でも救えるとは思わない。ならせめて、俺は俺に出来ることを精一杯やる」
⑷生者の告発 蜂谷湊
余命一ヶ月の少女、リリーの為に出来ることを探す湊は、自分の無力さに打ちひしがれていた。そんな頃、航は昨年の夏に起きた事件の根幹にある論文の存在を知る。
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湊が自分から初めて過去を吐露する。
湊が行動で航を救ったように、航は言葉で湊を変える。
【12.テンペスト】
「良いんじゃね。忘れなくても、後悔してても。大切だったんだろ? じゃあ、覚えててやれば」
⑹勧酒 蜂谷航
湊の特殊な能力に価値を見出したSLCは、湊を拉致し、不当な取引を持ち掛ける。インターネットによって世界中に中継される中、湊は一つの決断をする。
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湊がSLCの教主に演説するシーンは早い段階で決まっていたのだが、其処に至るまでが回り道が多く、長かった印象。そして、やはり湊を救うのは航である。
航が湊を正義と信じているように、湊にとっても航はヒーローだった。
【13.延長戦】
「俺は目の前で死にそうな人がいたら助けるし、殺されそうな人がいるなら守る。俺の行為に理由が必要なら、君が勝手に考えてくれ」
⑺仮面劇 蜂谷湊
湊は悪意なき殺意を立証する為にルーカス氏の娘、エマと対峙する。一方、その頃、航は関係者に会う為にとある場所を訪れ、本当の黒幕と遭遇するのだった。
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この辺りから話のオチが行方不明になっていて、迷いながら書いていた。マーティンという男との因果を前半で消化し切れなかった為である。
【14.観測者】
「裏切られても、信じて良かったと思える仲間が欲しかった」
⑺ラプラスの悪魔 蜂谷湊
「これは誰かの予定調和だ」と気付いた湊は、弟の手に入れたキーワードから或る男の元に向かう。
一方、航はルーカス氏殺害の全貌を明らかにする為、屋敷の執事に会うことを決める。
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全ての嘘が悪い訳じゃない。湊を形作る価値観の一つだったが、それ故に信じたい相手を信じようとしてしまう。湊の味方に裏切り者、或いは内通者がいることは決めていたのだが、誰かは決まっていなかった。
ライリーが選ばれたのは、その境遇や機械に精通しているところが便利だった為。
【15.宴の始末】
「俺達は、親父を超えるからな」
⑹踏み出す一歩 蜂谷航
蜘蛛の巣状に張り巡らされた糸の元に辿り着き、事件は終結した。湊はケジメを付ける為に、航は清算の為に歩き出す。
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好き勝手して来た湊と航はケジメを付けなければいけないし、もっと広い世界を知る為には離れなければならない。
行き先が両親の母国で殺し屋の元というのは、因果が巡ることを示す為でもある。
ー登場人物についてー
1.湊
「全ての人が幸せになれたら良いと思う。犯罪なんて無くなれば良い。だけど、その理想を実現する為に目の前の一人を取り零すなら、俺にとっては無意味なんだよ」
湊は他人の嘘を見抜く能力を持っているが故に、他人を信じることが根本的に難しく、生き難さを抱えていた。その能力で他者を助けることで価値を生み出せると考え、医療への導入を目的に研究を始める。
作中、目の前で困っている人がいれば助けるし、其処に理由は無いと湊は語る。しかし、本当に助けて欲しかったのは湊自身だった。エゴイストを自称するのはその為である。
努力して得たものにこそ価値があると考えているので、優れた身体能力も整った容姿も本人にとっては無価値だった。決めたら迷わず、走り始めたら止まれないのは、努力し続ける自分にしか価値を見出せない為である。
ありのままの自分を受け入れてくれる誰かを求めた為に、ありのままの他者を肯定しようとする。結果、暴走する他者のブレーキとなることが出来ず、最悪の事態を想定しながらも後手に回り続けてしまった。
2.航
「大衆は馬鹿で間抜けで愚図で無知で残酷だ。だから、いつも勝手なことを言う。そして、自分は大衆を見下して、時々酷い自己嫌悪に駆られる」
湊の弟。抜群の運動神経からバスケットボールに熱中し、仲間からも慕われている。
性格こそ苛烈で言葉遣いも粗雑だが、裏表が無い。
兄の正義の貫き方を認めており、憧憬と劣等感を綯交ぜにした複雑な感情を向けている。
クラブチームにトラウマがあり、挫折を経験していることから人間関係の構築に慎重で、傷付き易く繊細。
将来有望な才能ある選手だが、身長は伸び悩み、プロは難しいだろうと冷静に判断している。
学力は高く、常にトップ争い。人を導くタイプではないが、意図せず後ろから励ますことが多い。基本的に慎重な性格なので、暴走しがちな湊のブレーキ、或いは安全装置の役割を果たす。
3.李瀏亮
「僕は貴方の仲間で、友達です。貴方が信じたように、僕も貴方を信じます。だから、どうか僕にその荷物を背負わせて下さい」
幼少期より、祖父から日本への恨み言を聞いて育ったので日本人が嫌い。関わりを持つ前から湊のことを知っており、接する内に良い意味で期待を裏切られ、親しくなる。
母国に残して来た年下の兄弟と湊を重ね見ることがあり、放って置けない。また、無条件に自分を信じて受け入れてくれる湊の存在は、留学して孤独だったリュウの心を癒していた。
陰陽道に造詣が深く、先祖代々呪いを扱って来た。
湊の研究(超常現象を科学的に解明する)には余り興味が無く、ただ彼を守る為に側にいた。
故に、側で守れなかった自分を許せず、また、その窮地を知ることが出来た筈の航が何も知らずにいる状況にも苛立ちを抱えていた。
対人格闘の技術が優れていたり、銃器の扱いに慣れていたりするのは彼の実家の稼業に由来するが、本編では語られない。
4.ソフィア・ハリス
「科学者は可哀想ね。狭い見識で批評することしか出来ないんだから」
霊と交信出来る十五歳の少女。超常現象研究所のメンバーで、権力者でもある。ステレオタイプの優等生で、曲がった事が許せず、年上の少年を相手にも怯まない。
死者への憐憫を持ち、霊は憐れな存在と考えている。同時に死者への敬意も忘れず、科学的に解明しようとする湊の言動には不快感を覚える。
才能と環境に恵まれており、基本的には世間知らずで、相手の心理的状況や立場を鑑みず正論を口にすることがある。正誤に重きを置いていない湊や航にとっても、彼女の考え方は相容れない為、時に口論となる。
二人との出会いを通して、自分の持つ社会的な尺度が未熟であることを痛感し、彼等の為に力を貸すようになる。
5.リーアム・クラーク
「許すか許さないかなんて、後で考えれば良い。一度離れたら、もう二度と会えないかも知れないんだ。それなら、やれることは全部やろうと思うよ」
視野が広く、感受性豊かな好青年。
裏表の無い性格で周囲から愛され、才能に胡座を掻かず、容赦無くストイック。リリーの思いを受けて精一杯バスケに励む。同時に奇跡を切望していた。
二人と初めて対戦した時、完敗を喫した。湊の作戦と航のセンスの前に手も足も出なかったことからイップスに陥り、一時はトラウマと化していた。
湊への信頼に対し、航に棘のある物言いをするのは、偏に同族嫌悪である。物語を通して航の向上心の高さを認め、切磋琢磨出来るライバルという位置付けになる。
また、湊への好意的な態度は、その雰囲気が何処か姉に似ていたことも関係する。両親の死別や姉の難病を自分のせいだと思い、罪悪感に苛まれていた。傲慢なまでの責任感は、湊に似ている。
5.リリー・クラーク
「誰かを大切に思う心は尊いものよ。でも、貴方が本当に大切に思うのなら、残される人の気持ちまで考えなければ」
高校卒業後、癌により入院。
最終ステージにあり、クリスマスに余命宣告を受ける。リーアムを心から応援しており、残り少ない命を精一杯生きようとする。
湊と出会い、心を惹かれ、生への執着を抱くようになる。先天的な超能力者。
自身の能力を自覚したのは幼少期。聡い彼女はそれをひけらかすことなく、隠していた。過ぎた力は争いを生むことを知っており、行使したことは殆ど無い。
自己憐憫せず、普段通り振る舞うことがリーアムの励みになると信じた心の強い女性。湊の本質がリーアムと似ていることに気付いていた為、時折、行動を諌める。
彼女が湊に向けていたのは恋慕だったのか、擬似的な家族愛だったのかは作中では不明なままである。けれど、特別で大切な存在という位置付けは出会った頃から変わらない。
6.ライリー・ホワイト
「この下らねぇ予定調和の世界を、ぶっ壊すヒーローになりたかったんだよ」
両親は離婚し、母子家庭。幼い頃に陰湿なイジメに遭っていた。分け隔て無く関われる研究室の仲間を大切に思っている。ゲーマー。
身の回りの事象が数式に見える程の数学の天才。
パソコンに精通しており、情報収集は彼の得意分野である。湊にとっては師匠でもある。
自分に見えている世界を母親に打ち明けた時、彼は精神病院へ連れて行かれる。自身が精神病だと思い、自己嫌悪と自己否定、周囲からの無理解という地獄の中で母親は逝去した。彼に残った他者との繋がりがマーティンで、唯一の自己肯定手段が復讐への加担だったのである。
しかし、ライリーは冷静だった。マーティンが復讐者で、自分の選択が間違っていることも知っていた。復讐に加担しながらも、彼の自尊心は満たされず、罪悪感ばかりが募る。そして、彼はいつしかヒーローを切望するようになる。
オリビアが死に、湊の慟哭が響き渡った病室で彼の理性は欠けて行った。ヒーローが存在する為には、助けられる弱者と悪役が必要と考える。そして、ヒーローが自分を助けてくれる舞台を作ろうとしたのである。
現実が想像を超えて来る可能性。
ライリーの待ち望んだヒーローとは、湊だったのか、航だったのか。それは彼自身も解らない。
7.ゾーイ・アンダーソン
「科学者はとても純粋な人達だから、知的好奇心を満たす為に人としての倫理を忘れて成果を求め過ぎてしまう。でもね、科学は人を幸せにする為にある。最大多数の最大幸福。それを忘れてはならないわ」
犯罪心理学を専攻する快活な女性。葵に憧れており、BAUから引き抜きの話がある。灰色掛かった長髪の白人。
両親は公務員で、規律の厳しい家庭で育つ。蜂谷家の緩やかな教育方針に憧憬を抱く。研究に没頭して倫理観を失いがちな仲間の抑止力としてチームを纏める姉御的な存在。
オリビアの一件以来、湊のことを心配している。
8.ホセ・ルイス
「君のことは必ず守るよ。……湊の為に」
遺伝子工学を専攻する青年。
見た目は厳ついが、真面目。バスケットボールクラブに所属しており、湊とはチームメイト。ポジションはSGで、レギュラー。
同性愛者で、家族とは絶縁状態。
カミングアウトしても離れて行かなかった研究室の仲間を大切にしている。
湊に恋愛感情を抱きながら本人にそれを打ち明けなかったのは、湊が一欠片の希望も許さない程、彼を仲間として信頼していたことを知っていたからである。
9.オリビア・スチュアート
「君だけが守れるものが何処かにあるよ」
超心理学を専攻する女性。ブルネット。
悪戯好きで無邪気な性格。
母親がアルコール中毒で、幼少期より虐待を受けて来た。奨学金制度を利用して進学しており、自身の不幸は先天的な体質によるものではないかと考え、アンカー理論という独自の考えに傾倒して行く。
自分と関わっても不幸にならない、不幸とすら感じない湊に対して特別に思うようになる。故に湊の書いた手紙に記された友人という言葉は彼女のぎりぎりの精神を粉々に打ち砕いてしまった。
SLCの会員で、超能力者でもあった為に研究の材料として多量の薬剤を投与され、息を引き取った。彼女が死に際に残した言葉や、目の前で助けられなかった事実は湊の胸に深い傷を残した。
10.ルーク
「お利口さんだねぇ」
刈り上げパーマの白人で、飄々とした痩せ型の青年。湊と航の元級友。航とは今も親交があり、界隈に精通した情報屋としてサポートする。誤解を受け易い航の良き理解者であり、緩衝材として立ち回ることもある。
反骨精神の盛んな湊のことを評価しているが、エリート街道を進む姿に苦手意識がある。
11.ライアン
「あんまり気負いすぎんなよ?」
屈強な肉体を持つ黒人で、ドレッドヘアー。貧困層の生まれで、幼少期に父を亡くし、病弱な母と幼い四人の兄弟を養っている。航とはストリートバスケで出会い、意気投合した。血気盛んながら懐深い。
航の裏表の無いところや向上心を高く評価している。
ハーレーを乗り回している。




