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とあるBL漫画作品の名もなき占い師の主張について  作者: 陽花紫


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1/8

サブキャラの主張

 私は、とあるBL漫画作品の名もなきサブキャラであった。


 それを自覚したのは、いつのことであっただろうか。

 物語の中で目覚めた瞬間から、すでに私はそこに“配置”されていた。

 名前も過去もなく、ただ占い師という役割と、作者が気まぐれに与えたであろう麗しき外見だけを携えて。


 白い指先、伏せがちなまつげ、感情を映さぬ目元だけがくり抜かれたその仮面。

 常にフードを被ったローブ姿や、この水晶玉がこの私の特徴とも言えよう。


 読者にとって私は、神秘的でもあり、いささか便利な存在でもあった。

 私の役目は、迷えるメインカップルたちをこの占いで導き、救うこと。


 恋に悩む者が訪れ、涙を流し、やがて答えを得ては去っていく。

 占いの結果は常に正しく、物語にとって都合がよいものばかりでもあったのだ。


「あなたは彼を選ぶべきだ」


「この先、あなたたちは離れても、必ず再会を果たすであろう」


 そう告げるたびに、運命の糸は正しい方向へと引かれ、物語は前へと進む。


 今日もまた、多くの悩める男たちを救っていく。

 いや、救われたのは物語のほうで、私はただの装置にしかすぎないのだが。


 読者は最後まで私の存在を謎に思い、コアなファンはこう考察することもあると予測される。

「あの占い師は、何者なのか」

「実は、ラスボスなのでは?」

「別作品のキャラと、繋がっているのでは?」


 だが、実際は何もない。

 その設定は空白であり、私に裏側など存在しなかったのだから。


 私以外の登場人物は、皆、名前や際立った設定が存在し、誰かしらと結ばれて幸せそうに笑っていた。


 すれ違い、傷つき、時には涙を流すこともあるものの、それでも最後には手を取り合う。


 だからこそ、言いたい。

 幸せになれないのなら、初めから私など登場させないでくれと。


 私のフラグは、どこにもない。

 運命の糸でさえ、転がってすらいなかった。


 自我も持たず、顔の大半を白い仮面で覆い、しかし占いの結果は迷える男たちの答えしか出ないのだ。


 私自身の未来は、一度も占うことができなかった。

 私自身のことは、何一つとしてわからない。


 そもそもどこで生まれ、どうやって育ったのかさえも、私は知らない。


 ある日、ふと思ったのだ。

「それなら、私が自らの設定を決めれば良いのではないか」

 と。


 だから私は、勝手に決めることにした。

 名前は、ノクス。

 それは夜を意味する言葉であり、光である主人公たちを引き立てるためだけに存在する闇。


 孤児であった私を救ってくれたのが、ある占い師の男であったのだと。

 その男の背中を追って、私もまた占い師になったのだと。

 誰にも語られない過去に、誰にも描かれない時間。


 だが設定を追加しても、何も起こるはずもなく。

 物語は変わらず流れ、私は相変わらず誰かの恋を祝福するだけの存在であったのだ。


 自らのための台詞でさえ、どこにも書き加えられることはない。


 ――私の幸せは、一体どこにあるのだろうか。


 そのようなことを考えていた、ある夜。


 家の前に、不思議な男が倒れていた。

 私は一瞬、物語の新しい展開が始まったのかと思っていた。

 だが、どうやら違うようでもあった。

 彼は、物語の文脈を持たない存在であったのだから。


 男は私の顔を見るなり、目を見開きながらこう言った。


「えっ……、ミリ商の占い師?」


 聞き慣れない言葉であった。

 だがこの私を占い師であると見抜いたことに、私はわずかに驚いた。


「転移したってこと?」

 なおも、男は独り言であるかのように呟いた。

 黒い髪に、黒い瞳。どこか異国の血を思わせるような顔立ちであった。


 やがてその顔色はみるみる青ざめていき、心なしか呼吸も浅くなっていく。


 何か訳があるのだと、私は察した。

 数多の人と顔を合わせる機会が多いせいか、いつしか私は人の顔色に気を配るようになっていたのだ。


 そして、不思議と興味がわいた。

 言いようのない懐かしさのようなものを、この男から感じたからだ。


 私は男を憐れに思い、気づけばこの手を差し伸べていた。

 それは、占い師としての役割ではなかった。

 ただの、ノクスとしての選択であったのだ。


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