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セイヴァーソウル 魔族討伐隊  作者: ペンギンマン
9/15

幽霊少女吉田真奈美


 「遊ぼうよ お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 風のさざめきと共に幽霊の少女がそう嘯く声が聞こえた。さきほどまでいた少女の姿はなく、そこには空にむかって刀を突き刺す呆然とした鬼道魔利の姿があった。 


 「なにやってんだよ! 魔利」


 俺がそう魔利を叱責するが、魔利は泣きそうな声で 「だって……終夜が危ないと思って……」

と漏らすだけだった。


 「俺がそんな簡単にやられるかよ! それよりお前の悪能力を使って、幽霊の居場所を探し出せ!」


 「させないよ〜」


 さきほどの少女の声が聞こえた。その次の瞬間、俺の頬に誰かの手が触れる感触が伝わった。しかもその手が無茶苦茶冷たく、俺は情けない声をあげながら思わずのけ反った。


 「うわあああああ!!」


 冷たい手は魔利にも伝わったらしく、魔利は悲鳴を上げてなにもないところで妖刀を振り回した。


 「当たらない~当たらない~」


 風の男と共に少女の嘲笑う声が聞こえた。


 「クソ!」


 俺は鎌を片手に持ち、戦闘体制に入った。当たりをよく観察して、どこに幽霊がいるのか探索する。


 注意深くあたりを確認すると、遊具のブランコが不自然に揺れるのを俺の目が捉えた。


 「そこだ~!!」


 俺は3メートルほど離れたブランコに向かって走りだした。先ほど動いていたブランコを大鎌で切り裂いた。

 支板を支えている鎖が切断され、その支板も真っ二つになった。


 「ムダだよ~物理の攻撃は()()()には当たらないよ~」


 また少女の嘲笑う声が聞こえた。そして体を冷たい感触が走った。


 (ひいいいいいっ―――! またあいつに触られた!)


 この氷を直接当てられたような感触はなれない。しかし、今の所傷を負わされるような攻撃はしてこない。()()()()()()()()()()()()()()()()


 「摩利、今度こそ悪能力で幽霊の場所を探し出せ!」


 俺は摩利にそう催促する。


 「わかった! ……って痛テ!」 


 摩利が両目を抑えた。


 「どうした!?」


 「力の使いすぎみたい…… しばらく魔眼は使えないっ……終夜ゴメン!」


 「こんなときに副作用か」


 俺達悪能力は、瘴気(ヴァイス)を扱う体質状、瘴気による影響も少なく瘴気に耐性ができている。

 しかしそれでも瘴気を使って悪能力を多様すると、それは副作用となって本人に襲いかかってくる。どうやら摩利は魔眼の使いすぎで目を痛めてしまったらしい。


 「仕方ねえ、てめえはしばらくそこで寝てろ」


 俺は動けない魔利に目を逸らすと、眼の前の公園に向き直った。魔利の目が使えないなら、自力で幽霊を見つけた上で捕まえなければならない。しかし、どうやって?。普通に攻撃するだけでは少女に届かなそうだ。


 幽霊少女を見つけることと、捕まえること成功したことのない難題を今日二つクリアしなければならない。


 俺はゆっくりと目を閉じて昔参考書で読んだ文章を思い出した。


 「悪能力者は能力を使うときに大気中の瘴気(ヴァイス…)を体内に取り込むが、これを敢えて使わずソナーのように当たりに放出することで反響音で周囲の状況を確認することができる。これを瘴気拡散という」 


 ()()()()―――。悪能力者なら誰でも使える便利な技だが、俺は訓練が面倒臭いのであまり使ったことはない。あれを使えば物体の位置は把握できるが、幽霊まで捉えられるかどうかは未知数だ。


 俺は瞳を閉じたまま、瘴気を周囲に拡散した。イメージとしては息を一瞬止めて、力む感覚に近いか。


 放出された瘴気は周囲に拡散され当たりにある物体を形どって俺に伝えた。


 (ターザンロープ、ブランコ、アスレチック………これはさっき見たからわかるな。むむっ、こいつはなんだ?)


 俺のソナーに不可解な反応があった。炎のように揺らめく存在が遊具の一つである滑り台の頂点に確認できる。あれが幽霊少女か!。

 

 どうやら瘴気拡散で実体のないものを感知することは可能らしい。


 さて、今度は幽霊を捕まえる方法だ。当たり前のようだが、俺の鎌による攻撃は幽霊少女には通用しなかった。これは伝承通りだな。


 俺はまた瞳を閉じて、参考書の次のページの文書を思い出した。


 「瘴気には拡散以外にもう一つ使い方がある。それは瘴気をあえて実体化せず、曖昧な形のまま相手にぶつける―――」


 俺は本の一文を思い出しながら、無言のまま幽霊少女のいるブランコまで走り出した。頂上にいる幽体に向かって大鎌で横一文字に切り裂く―――ではなく左手で実態のない少女を掴んだ。


 「……えっ……!?」


 少女の驚く声が聞こえた。俺は構わず頂上から地面に向かって幽霊を押し倒した。最初は鎌で斬ろうかと思ったが寸前でやめた。万が一幽霊を消滅させてしまってはダメだと考えたからだ。


 「……お兄ちゃん……何で真奈美に触れるの?」


 何もないところから少女の声がそう聞かれた。俺の目の前に声の持ち主の姿はなく、空を掴んでいるように見えるが、何かに触れている感触が確かにあった。


 「終夜どうしたんだよ! 急に走り出して」 


 幽霊の存在にビビっていた摩利が俺のほうに駆け寄ってきた。 


 「……あの……お兄ちゃん……?」 


 「なんだ?」


 「もう逃げないから……放してもらっていい?」


 「姿を見せて、逃げないって約束するなら離してやってもいいぞ」


 「……うん……分かった……」

 

 俺がそういい、少女が答えると、俺の手からすう~っとなにかがすり抜けるのを感じた。すると自分の目の前の空間から徐々に人の輪郭が浮かび上がってきて一人の少女が姿を現した。 


 さっきのショートカットで学生服の少女だ。  


 「うわっ! 何もない所から女の子がっ!」


 「さっき見ただろ。いい加減驚くなよ」  

 

 目を丸くする摩利を俺が宥めた。こいつは危険種や猛犬などには臆しもしないのに、幽霊など、自分の力が及ばない存在にはビビりまくるらしい。今日それが分かった。 


 「ねえ、お兄ちゃんさっきどうやって真奈美に触れたの?」


 びびる摩利を余所目に幽霊の少女がそう尋ねてきた。


 「あん? ああ、さっきのはだな。ようするに空気中に漂ってる目に見えない怨念とか邪気とかを集めてそれを利用して触ったんだよ」


 説明これであってるのか分からないが、どうはなしていいか分からないから仕方ない。俺の説明をうけて幽霊の少女は、「へえ~そんなことができるんだぁ」と興味津々だった。 


 「何? 幽霊を掴む方法だと!? 終夜私にも教えてくれよ!!」 


 「ああ、今度な。今はめんどくさい」 

 

 「え―――!? そんなぁ」


 俺から教えられないと伝えられると摩利がその場にへたれこんだ。よほど幽霊の少女が怖くて、復讐でもしたかったのだろうか?  


 「ねえねえ、お兄ちゃんさっきのもっかいやろうよ? お兄ちゃんみたいな人初めてで真奈美ちょっと興奮してるんだ。今度は真奈美消えないから上手く捕まえてみて?」 


 幽霊の少女は無邪気にも遊びに付き合えと要求してくる。おれみたいなのは初めてだと言っていたし、よほどさっきの隠れんぼが楽しかったのだろう。だが―――


 「駄目だ」

 

 「え?」

 

 「俺はここに遊びに来たんじゃない。お前にここを立ち去って貰いにきたんだ」


 「……立ち去る……?」


 幽霊の少女はきょとんとした顔で首を傾げた。


 「お前、ここに通る車を脅かしてるだろう」


 「ああ」


 俺が指摘すると幽霊の少女は思い出したように声を上げ、


 「あれ真奈美が驚かしたんじゃないよ。夜景をみに道のほうにでたら、車が来て勝手に落ちていただけだよ」


 やはり悪気はないのか。俺の見立て通りこの娘は悪い幽霊ではないらしい。


 「そうか……でもな……ええっと君、名前は?」


 「真奈美だよ。吉田真奈美」


 「真奈美。例えそうでも依頼があって俺達が来てるんだ。見つけた以上は立ち去って貰わないと困る。じゃないと仕事にならないからな」


 俺がそう宥めるが、真奈美は首を横に振り、


 「無理だよ。だって真奈美、他に行くところないもん」 と困った顔で訴えた。


 「そんなことないでしょ!!」


 俺と真奈美が話していると横から摩利が割って入り、「あんた幽霊なんだからどこでも好きな所いけるでしょ!!」と興奮気味に尋ねた。


 (まあ、確かにビデオとか映画ならそうだが、地縛霊とかもいるし……)


 「できないよ。だって私そんな早く走れないもん。それにずっと動いてるとなんだが眠くなっちゃうし……」


 「幽霊なのに眠くなるの?」

 

 「なるよ。おなかすくときだってあるし。しばらくしたら治るけど」


 「だから―――」真奈美は続けて、

 

 「ここから出ていくことはできないよ。町まで降りていくの大変だし……」


 と悲しげにいって俯いた。


 「ところでどうして幽霊になったの?」


 摩利が無神経な質問をした。


 (なんちゅう質問してんだ。ほら、みろ! さらに暗い表情になっちゃったじゃないか!)


 「分からない……どうやって死んだのか……確かあの時……みんなとバスに乗って……気がついたらここにいた。」


 (みんな? ってことは死ぬ前は誰かと一緒にいたのか)


 「……うっ……」


 (ほら、みろ! 変な質問したから泣きそうな顔になってるじゃないか!)


 「おい、摩利!! お前真奈美に謝れ!」


 「えっ! なんで私が」


 「お前が余計なことをいったから真奈美が昔のこと思い出して嫌な気持ちになったんじゃないか! だから謝れ!」


 「ご……ごめん。元気出してな? ほらこの終夜お兄ちゃんが遊んでくれるからさ」

 

 「ちょ、お前!」


 「……本当……?」


 その言葉を聞いた瞬間、俯いていた真奈美が急に泣き止んだ。


 「終夜、遊んであげなよ~。摩利も一度幽霊と遊んだみたかったし」 


 「……しかたねえな。ちょっとだけだぞ?」


 「本当? やったー!!」

 

 さっきまで泣いていた真奈美が元気になって飛び上がった。


 「まずは、さっきのかくれんぼの続きね~。その後、ブランコにアスレチックにターザンロープも一緒にやろう~」  


 次々と、自分の要求を口にする真奈美。結局このあと一時間近く、彼女の遊びに付き合わされることになった―――。

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