声の主3
長く続いた林を抜けると乾いた大地に日が暮れ始め浅紫から藤紫へと曖昧に広がる空は何も遮るものの無いこの場所に良く映えていた。
ルアは遠い目をしながら何処か懐かしむように空を見上げたかと思うと今度は下を向き唇を噛み締め何かを振り払うかのように首を横に数回振った。
その姿を後ろから見ていたトゥールは時折見せるルアの孤独な表情に何故か自分と重なるものを感じ他人事のようには思えなかった。
「誰にだって抱えているものはあるさ。」
トゥールの肩の上でミーゴはしみじみそう言いながらルアの様子を見ていた。
「そういえば、ミーゴとルアは友達なんでしょ?どこで知り合ったの?」
トゥールはルアとミーゴの出会いがどんなものだったのか知りたくなりそれまでの沈黙を破り聞いてみる事にした。
それに狼とトカゲの友情に単純に興味があったのだ。
「そうだなぁ、初めて会ったのは雨上がりの朝で俺はちょうど樫の木の下で雨宿りをして夜を明かした所だった。腹を空かせたあいつは酷くずぶ濡れで俺を見つけると食おうと飛びかかって来たんだよ、それで俺様が逆に投げ飛ばしてやったら弟子にしてくれって付いてくるようになったのさ。」
「誰が投げ飛ばされたってぇ?それにいつ私がミーゴの弟子になったんだ!?」
ミーゴが脚を組み得意げに話していると途中から話を聞いていたルアがミーゴの方をジロリと見ながら割り込んできた。
しかしその口ぶりは何だか楽しそうでルアとミーゴの仲の良さがトゥールにも見て取れた。
「いいなぁ、こんなに仲の良い友達がいるのって!二人が羨ましいよ。」
引っ込み思案なトゥールはいつも周りの目を気にして親友はおろか友達でさえ作るのが困難だった事もあり二人を見ていると、何でも気にせず言える相手というものがとても羨ましく思えた。
するとルアとミーゴはきょとんとした表情で顔を見合わせるとミーゴがブッと吹き出し声を出して笑った。
「なんだ、お前。そんな事気にしていたのか?」
笑われた事やミーゴの問いかけに少しムッとしたがこんな時でも感情を抑えトゥールは控えめに言葉を返すのがやっとだった。
「そんな事って…」
「お前はもう俺たちの仲間だろう?なあ、ルア!」
「ああ、力を貸して欲しいと頼んだがそれだけじゃない。私たちはお前の事を仲間だと思っている。」
二人の言葉を聞いたトゥールの胸はキュッと締めつけられ今まで感じた事のない感覚に自分でもどうすれば良いのかわからず、いつの間にか流れ頬を伝う涙の訳も分からなかった。
「あーあ、泣き虫なガキだなぁ。」
肩に座り照れ隠しに悪態をつくミーゴを軽くつまんで自分の顔の前まで持って来るとトゥールは、いよいよ止まらなくなった涙をもう片方の手で拭いながら時折、嗚咽を交えてこう言った。
「ありがとう。」
トゥールはこの時、初めて誰かに自分を受け入れて貰えたような気がした。
それは自分の住む町ではなく遠く離れた夢か現実かもわからない場所であったが自分を必要とし受け入れてくれる、それだけで十分でありこの大地を越えた先にあるルアの縄張りが段々近付いているのがわかると三人の気持ちも落ち着いていくのだった。




