報酬は猫!
依頼者の家へ向かう途中、雨倉はそれとなく依頼者の基礎情報を聞き出した。
鮫田 架純 (31)
職業:通信販売関係 (注:虚偽の可能性有)
職業補足:社員証等は確認できず。念の為、疑うこと。
性格推定:気が弱く、流されやすい。
傾向:どちらかといえば文系で、頭の回転はそこそこ。
捜査対象 (被害者)との関係:親娘。
雨倉を知った方法:新聞。
好きな食べ物:辛いもの (信憑性大)
特記・口癖:焦ると『その』と連呼する。
特記・疑問:今どき新聞なんか見る人いるんだ。
雨倉の頭では大体こんな感じのメモができた。
わざわざ嘘をつく理由がない『好きな食べ物』は割と信憑性がある。
…まぁ、そんなことを知ったとて…だが。
「鮫田様は、被害者の死後どれくらいで『死んだ』という事実を知ったのですか?」
雨倉は先頭を歩く鮫田にそう声をかけた。
「……あぁ…その…最初は母からの連絡でしたね。『お父さんが救急車で運ばれた』と」
架純は振り返り、スマホでそのチャット履歴を見せてきた。
『明日は就職試験の二次試験ね
架純ちゃんはいつもホントに頑張ってるからきっと受かるわ
お父さんもお母さんも応援してるから
自分の熱意を相手に伝えるの
頑張ってね』
『うん』
かなり期間を空け、日付が最近になる。
『架純、あとさんがたとれたの』
『何?』
『架純、おとうさんが救急車に運ばれたの』
『ちょっと待って』
その直後には電話のマークと『1:05:31』という通話時間が表示されている。
「通話内容は覚えていますか?」
雨倉は率直にそう聞いた。
その指は前方に向けられていて、隣に移動した鮫田に対し、『会話しつつ歩きましょう』と示唆している。
鮫田は小さく頷き、先導を再開した。
今回は会話しやすいよう、雨倉は隣を歩いた。
「その…『お父さんが倒れたってどういうこと?』とか…そういう感じで、その…でも、母は明らかに動揺していて…」
「どちらかといえば、そちらを落ち着かせる方を優先したために、何から何まで聞けているわけではない…と?」
その言葉に鮫田は頷いた。
「はい…ですけど…その…母も救急隊員からの連絡で知ったそうで…」
「…なるほど?ご両親は当時一緒にいた訳では無いのですね。可能なら理由をお聞きしたいのですが」
「ええっと…実は母は知事の秘書をやっておりまして…当時、仕事中でしたね」
「…失礼ですが…年齢をお聞きしても?」
その言葉を聞いた鮫田は少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「今年で…61ですね」
「なるほど…?」
雨倉は小首を傾げた。
鮫田家。都市部二階建てで、全体的に白っぽい。
鮫田架純はここで両親と暮らしていて、毎日ここから出勤しているのだそう。
雨倉は鮫田に連れられて、鮫田家に入った。
「ミャァ」
扉を開けて最初に聞こえてきたのは、間の抜けたような猫の鳴き声だった。
玄関に立つのは黒猫で、まるで金のように綺麗な黄色の瞳が特徴的である。
雨倉は目を細めた。
鮫田は猫を見て少し困ったような顔をして、小さく言った。
「あ…コバン…」
コバンと呼ばれた黒猫は鮫田…ではなく雨倉の方へ向かってきた。
雨倉はしゃがみこみ、コバンの方に手を翳す。
するとコバンは雨倉の手に自分の身体をスリスリと擦り付け始めた。
それに合わせて雨倉はコバンの身体を撫で始める。
コバンはゴロゴロと喉を鳴らした。
「…鮫田様、この子を報酬として貰いたいのですが」
あまりに自然な動作に、鮫田は若干引きつつ、コクリと頷いた。
「この子は父が最近飼い始めた子で…その…本当なら気性が荒い…いや…とりあえず、どうぞ」
鮫田の言葉に雨倉は満足したようで、少し口角を上げて、コバンを撫で回し始めた。
…雨倉が捜査を始めたのは3分後だった。




