転移
それは突然のことだった。
「あ、充電器壊れてる...」
スマホが全然充電されない。
困ったことに、後1%だ。アラームも兼ねているそれは、大学3年になり授業も少なくなって、昼夜逆転した私にとって必要不可欠なもの。
「うーん、今からコンビニに買いに行くか」
午前3時のお出かけ。少し怖いけれど、わくわくする。
軽く準備をして、外に出る。さすがに暗すぎるので、1番近いコンビニに走っていこうと、いつもとは違う道に入った。
その時だった。
辺りがいきなり光り始めた。
「え、なに!?」
光はどんどん強くなり、耐えきれずに目を瞑る。
体感10秒くらいした後、急に体が重くなった。恐る恐る目を開ける。最初に飛び込んできたのは、薄暗い中に灯る蝋燭と石畳だった。
「...なにこれ」
暗さに目が慣れたので、辺りを見渡すと、1人の男性が立っていた。
男性はコスプレかと思うほど、私の洋服とはかけ離れた服装をしていた。ローブとかいうものではないだろうか。ファンタジーアニメや漫画で見かけることが多かった、魔法を使う人がよく着ている、あれ。
「あの...」
とりあえず部屋にはその人しかいないので、声を掛ける。どうにも嫌な予感がしてならない。
「...申し訳ございません。私のミスで貴女をこちらの世界に転移させてしまったようです」
心地よい低音が静かな部屋に響く。配信者だったら間違いなく特徴のひとつになり得るほどの良い声だった。
現実逃避は置いておいて、嫌な予感ほどよく当たるものだ。
先程の強烈な光と、一瞬で変わった景色。男性が嘘をついているとは思えなかった。
「そうですか...。ちなみに元の世界には戻れますか?」
「元の世界に私と同じ魔導士がいたなら可能性はありますが...」
そんな人はいない。やはり戻れないらしい。この人も、戻せない事は確信しているみたいだった。
これからどうしよう。元の世界にそこまで未練はないけれど、全く新しい世界で最初から始めるのは不安だ。
「お名前をお伺いしても?」
男性が黙り込んだ私に恐る恐る声を掛ける。そういえば、私も名乗っていなければ、この人の名前も知らない。
「朝霧礼寧です。貴方の名前を聞いてもいいですか?」
「ルーキャスタ・アイルベルと申します」
海外風だな。しかも長い。ニックネームをつけるなら、間を取ってルキタさんかな。
それはそれとして、この世界に来てからひとつ気になることがある。
体が重い。きつい。倦怠感といえばいいのだろうか。最初はちょっとした違和感だったけれど、次第に悪化している気がする。
あれ、でも今日、別に体調悪くなかったよね...?というか、私はほとんど風邪を引かない健康優良児だったはずだ。
体調不良を意識してから、さらに急速に悪化してきた気がする。
あ、まずい。
その場に立っていられなくなり、床に倒れる。体に衝撃が走り、それと一緒に目の前が暗くなった。




