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天才画家 ガヴァルネス・ダン・バッティスと画商の絵画事件簿 〜天才の執着が重すぎる〜  作者: はぴねこ


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03

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

 十歳の誕生日の翌日、俺が工房に行くと、師匠はいつもの笑顔で出迎えてくれた。

 

「今日からここはケイト工房だ! よろしくな! オーナー!」


 他の職人たちも俺が小さい頃からここに通っていたからか、不満を持っているような様子もなく俺のことを受け入れてくれた。


「みんな、よろしくお願いします」

「ケイトは本当に大人だな! うちのなんてケイトよりもふた月も前に十歳になってても、まだまだ子供だってのに」


 職人の一人がそんなことを言った。

 十歳の子供がまだまだ子供なのは当然のことだろう。子供なのだから。

 俺は前世の記憶があるから彼らとは違う。

 それだけの話なのだが、他の大人たちから見ると俺は他の子供達よりもずっと接しやすい存在のようだ。


 そうして壁画などを制作するための職人の工房を手に入れた俺は、親父の仕事を手伝いながらも工房経営を学び、同時に絵も学び、充実した日々を過ごすこととなった。


 俺が描く絵から師匠をはじめとした職人たちは新しい技法を学び、そうした新しい技法を取り入れた壁画は人気を呼び、神殿や貴族からの壁画注文は増え、工房は順調に成長した。


 ちなみに、この世界でも前世の中世同様に、壁画に描かれることが許されたのは歴史画だった。

 いや、前世の中世では肖像画も描いて良いとされていたから、この世界よりも描けるものの題材は多かった。

 

 前世での歴史画の中には、寓意画、宗教画、神話画が含まれていたが、この世界ではもっぱら宗教画で、神の子をモチーフにした作品が一番人気だった。

 だから、この国の職人達は子供のスケッチを多くしたし、子供を描くのが本当に上手い。


 前世の宗教画の中の子供というと……あちらも神の子として有名な存在だったが……母親と共に赤ん坊として描かれることが多かったように思う。

 しかし、この世界で描かれる神の子は五歳から八歳くらいの姿が多い。

 自身の意思で立ち、奇跡を起こす姿が人気だった。


 親父が買い取った師匠の工房が順調に成長する中で、ある時、俺は好機を見つけた。

 貴族や、貴族を客とする豪商の中に、こう呟く者達が現れたのだ。


「我が家にも描いてほしいが、壁画を描いてもらうのは金銭面、場所の問題から迷っていてね……」

 

 俺は直感した。これは、キャンバスに描かれた絵画を売り出すチャンスだと!

 人の背丈ほどもある大きなキャンバスに描いた絵を買ってもらうのだ!

 

 まずは、それを移動可能な壁画だと思ってもらえればいい。

 最初は壁画の代替品だと思ってもらって構わない。

 徐々に、画家が描きたい大きさのキャンバスに描きたいものを描けるようになればいいのだ。

 

 それから数ヶ月後、壁に直接描く壁画ではなく、職人達がキャンバスに描いた絵を発売した。

 当然、価格は抑えているし、しばらく工房の色々な場所に飾ることによって移動可能であることを印象付けた。

 

 工房を訪れた人は興味深げに絵を見ていたが、最初、それが売り物だとは思っていなかった。

 そこで、俺は親父の店にその絵を置いてもらった。

 それでも、俺たちが親子であることを知っている者は多かったし、俺は工房にも親父の店にも顔を出していたから、たまたま工房のものを店に仮置きしていると思った者も多かった。

 

 しかし、親父の友人の商人が気づいたのだ。


「これは、注文して描いてもらうことができるのか?」


 そう聞いてきた男に、俺は営業スマイルを見せた。


「さすが旦那! お目が高い!」


 そうして、俺が一枚目の絵を売ったのは、十四歳の頃だった。

 この世界のこの時代、壁画は売り込んで描かせてもらうものではなかったから、絵も工房側から売り込むことはできなかった。

 けれど、最初の一枚が売れてからは評判が広がり、徐々に豪商や貴族達からキャンバスに描いてほしいという注文が来るようになった。

 

 そうして、さらに工房は成長していった。

 売り上げがいいだけではなく、工房としての名前も広がりここで働きたいという職人も集まるようになった。

 それから、十歳以下の子供達が絵を学びに来る塾としても盛況だった。


 俺は十六歳になり、成人した。

 とはいっても、それまで積極的に父親の商売にも関わり、工房のオーナーとしても仕事をしてきていたので、改めて成人になったところで、特に大きな変化はなかった。


 ただ、その年、俺は一人の少年に出会った。

 彼は塾に通ってきた七歳の少年で、名前をネストといった。

 

 絵を習う前の子供の絵など、前世と変わらない。

 正直、何を描いているのかわからないものも多く、わかっても花か動物かの見分けがつく程度のものであり、そこに芸術性など全く見出せないものだ。

 

 特に、この世界では前世とは違い、紙も筆記用具も非常に高価なものだから、貴族でもない限りそれらが子供達に与えられることはない。

 

 子供達は地面に木の枝で絵を描き、それが楽しいと思った子供達が工房に絵を学びに来るという感じで、絵をちゃんと描くのは工房に来てからという子供が多いために、この世界の子供達の絵は前世の子供達の力量よりも本当にお粗末だった。

 工房に来てからは、彼らは木の板に木炭で絵を描くことから練習を始める。

 

 そんな子供達の中で、ネストの絵は最初から異質だった。

 彼は風景画を描くのが好きだったようで、教師である師匠が提示した果物やカップなどの小物ではなく、常に外の景色を描いていた。

 そして、それは、子供が描いたとは思えないほどの完成度だった。

 

 師匠に声をかけられて彼の絵を見た時、俺は本当に驚き、彼にはすぐに木の板と木炭ではなく、キャンバスと絵の具を与えることにした。

 

 俺はこの世界でも画商になるつもりだったから、値段のつく絵を描ける画家を育てることもまた俺の仕事だと考えていた。

 だから、俺は彼に俺の知る限りのことを教え、彼の成長を間近で見守った。

 

 この世界のこの時代ではまだまだ風景画に需要はなかったけれど、それでも問題はなかった。

 彼が描きたいものを描きたいように描き出すことが重要だった。


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