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天才画家 ガヴァルネス・ダン・バッティスと画商の絵画事件簿 〜天才の執着が重すぎる〜  作者: はぴねこ


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お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。

 そこまで語ったネストは俺にではなく、ケイジに視線を向けた。

 

「僕が、この家の人たちを殺したんです」

 

 その告白に、俺は呼吸も忘れてネストを凝視した。

 

「平民が、貴族を殺したのですから、僕の罰は死刑ですよね?」

 

 ネストの瞳には光がない。

 俺に恨み言を言っていた時のほうがまだ生気があったと言えるだろう。

 

「バッティスさん、あなたは名誉爵をお持ちですから、平民ではありません」

 

 ケイジが言う。

 ケイジの振る舞い方はとても貴族に対してのものとは思えなかったけれど、一応、ネストが名誉爵を与えられていることは知っていたようだ。

 

「皇帝陛下から名誉爵をもらったことは侯爵から聞きましたが、ここに閉じ込められていて皇帝陛下に会ったこともない僕はただの平民と変わりません」

「侯爵からの扱いが貴族どころか、奴隷のようであったとしても、爵位を持つあなたを罰することは憲兵にはできないのです」

 

「そもそも」と、ケイジは部屋を見回す。

 

「この部屋に閉じ込められていたあなたに、どうやってこの家の人たちを殺すことができるのですか?」

 

「確かに」と呟いた俺を見るケイジの目が、呆れたものになっている気がする。


 仕方ないだろう。こちらは前世も合わせて初めて、「人を殺した」と発言する人物を目の当たりにしたのだ。

 その告白自体があまりにも衝撃で、外から鍵を閉じられた部屋からどうやって出たのかということを考えるような余裕は俺にはない。

 

「母はこの屋敷の地下牢に閉じ込められ、食事も与えられずに死んだと聞きました。守るものもないこの世に未練はありません。どうぞ、僕のことを殺してください」

 

 ケイジの質問に答えることなく、ネストは言った。

 もしかすると、ネストは死刑という刑罰を自殺の方法として使おうとしているだけなのかもしれないとも思えた。

 

 それと同時に、もしも、侯爵家の人々の死が他殺ならば、その犯人はやはりネストだろうとも思えた。

 なぜなら、ネストには、はっきりとした動機があり、暗い目の奥に、殺意が隠れていても全く不思議ではないと思えたからだ。


 俺は俺が知らなかった間の彼の人生に同情したし、侯爵家の人々を実際に殺したのが彼だったとしても、擁護したい気持ちになっていた。

 

 もちろん、人を殺すことは許されない行為だが、侯爵だって、彼の母親を殺しているのだ。

 侯爵というれっきとした貴族を殺した名誉爵なんて、この世界の身分制度では決して許されることではないのは理解できるが、ネストがこの侯爵家に来てからの人生はあまりにも悲惨だし、侯爵の罪を白日の元に晒し、その罪とネストの才能を天秤にかければ、ネストの才能を認め、無罪を望んでくれる貴族の方が多いと思えた。

 

 しかし、現実は、そうではないようだ。

 

「彼が侯爵家の人々を殺したという証拠が出れば、処刑は免れないでしょう」

 

 ケイジの言葉に俺は驚いた。

 俺たちはネストの話を聞いた後、ドミキウス侯爵邸から出て、ケイジは俺の家まで送ってくれた。

 客間に通して、俺がケイジにお茶を出すと、彼はそう言った。

 

「し、しかし、彼が殺意を抱いても仕方のない状況ですし、彼は名誉爵ですから、快楽殺人でもない限り、免罪されるのではないですか?」

「皇帝陛下は情に熱い方ですから、もしかすると彼をお許しになるかもしれません。しかし、貴族の中には、今回の事件を単に侯爵家だけの事件と捉えず、平民が貴族を害したことに貴族としての矜持を傷つけられたと怒る者もいるでしょう」

「でも、あなたも名誉爵を持つ彼はもう平民ではないと……」

「平民ではないバッティス氏のことを捕えて罰することは我々憲兵にはできません。でも、貴族の規律を正す騎士にならばできるのです」

「しかし、皇帝陛下がお許しになるのであれば……」

「現皇帝陛下は平民であったあなたの言葉を聞き入れ、絵を描く職人に画家という地位を与え、あなたにも画商と名乗ることを許された方です。独裁的で、自分の考えだけを押し通す方ではないのです」

 

 つまり、周囲の貴族たちに不満があるのならば、自分の考えだけを押し通して、ネストを無罪にするということもないということか……

 

「ただ、侯爵が生きている時にあの部屋から出ることはどう考えても無理なのです」


 そうだ。部屋からは決して出られない。

 

「つまり、侯爵はやはり自害か、もしくは、他に犯人が?」

「いえ、侯爵は人付き合いの苦手な人物だったらしく、それほど親しくしていた友人もおらず、それゆえに恨みを買うようなこともなかったようなのです。ですので、他殺であるなら、犯人はやはり彼なのではないかと……」

 

 侯爵の人間関係はすでに調べているということか。


 ケイジは軽く頭を横に振り、話を打ち切った。

 

「捜査のことを話しすぎてしまいました。忘れてください」

「……努力します」

 

 俺には捜査権限もないし、前世の推理小説の名探偵みたいな能力もないのだから、捜査内容なんて知ったところで意味はない。

 それでも、もしも侯爵が他殺だった場合、もっとも疑われてるのはネストであるという情報をそう簡単に忘れることはできないだろう。

 

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