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美術部の黒一点

「よし。デッサンはこんくらいでいいか。」


曼珠沙華(まんじゅさやか)——もとい、『師匠』は、小一時間鉛筆を走らせると、そう言って筆を置いた。


「す……すごいっす! すごいっすね……!」


師匠の背後で、俺と並んで観ていた煤牛(すすうし)が、驚嘆の声を漏らしていた。


実際、師匠の描写力はかなりのもので、時たま検索サイトなどで目にする、美術大学志望の予備校生のデッサンにも引けを取らない質に見える。


……しかし、改めてみても、モチーフとして描かれた美術部部長の雉隠薫(きじがくれかおる)は、現物は去ることながら、絵の中でも非常に端麗(たんれい)である。そう、非常に。


「お、終わった……? もう終わったんだよね?」


「ん、お疲れっしたー。あざっス。」


「う、うん。」


部長は、前髪の隙間から困った顔を覗かせながら、師匠の謝辞を受け取った。


「佐々田ぁ。ちょっとコッチ来い。」


その直後、師匠は部長から少し距離を取りつつ、俺を呼び出した。



不思議そうにこちらを見つめる部長と煤牛を尻目に、師匠は声量を抑えて話す。


「お前さ、ちょっくら部長と喋っててくんねーか? アタシとかんなは、今からあそこのテーブルで部員同士の話し合いがあんだよ。」


師匠が顎で指す方向へチラリと視線を移すと、3人の女生徒が、四つ一組(ひとくみ)矩形(くけい)に合わせられた机を囲んでいる。


「はあ。別に良いんですけど、もうひと通り見学したし、生物室に戻っても……


と言おうとした時、師匠が「あ?」とひと言で遮断してきたため、俺は彼女に従わざるを得なかった。


続けて、師匠は言う。


「佐々田ぁ。お前にとっちゃ、あながち良い機会だと思うぞ?」


「……どういう意味ですか?」


「アタシはお前の絵を知ってる。去年の夏、県内コンクールで観た。」


……なるほど。彼女が俺を《《ここ》》に連れてきた理由が少しだけ分かった気がする。


「あんなん描くヤツが、完全に美術から足を洗えるワケが()ぇ。」


この人、美術を薬物かなにかだと思ってるのか? ……ただ、これが案外間違いでもない。


美術というか、創作活動において、だが。


人間という生き物は、美術に限らず、常になにかしらを創り出していると言えるだろう。組み立て式の家具を組み立てるのだって、週に1回程度の料理だって、さらにはメモを書くことさえも、広い意味では『創作』なのだ。


その意味で言えば、たしかに美術は薬物で、人は常に『創作中毒』なのだ。


「……俺がまだ美術に興味を持っていたとして、なんですか?」


「薫チャンはアタシより上手(うめ)ぇ。それに、デッサン以外でも、割とおもしれー絵ぇ描くぞ。」


「……なるほど。」


俺とて美術が嫌いになったわけではない。ただ、『美術部』に所属せずとも絵は描ける、というだけだ。


だから普通に、他の人の作品は気になる。まして、師匠の太鼓判が押されたとなれば、一層に部長への関心が高まる。


「分かりましたよ。部長と喋ってれば良いんですね。」


師匠は、俺がようやく了解するのを見ると、珍しいことに、乏しい表情筋を動かして、ニヤリと口角を上げた。

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