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嵐のような女たち 弐

「ちょっと! 邪魔なんですけど!?」


青蓮(せいれん)と会話をしていると、背後の扉から、けたたましい声が木霊(こだま)した。


「す、すみません。」


「ったく! なに扉の前に突っ立ってんのよ……!」


いちおう、紹介しておこう。今来た金髪ギャルは真珠田水仙(しんじゅだすいせん)


常になにかに(いきどお)っていて、イキっている。フィクションでしかありえないレベルのドジっ()属性を持っており、そのドジの尻拭いを他人にもやらせている。


百歩譲って『やらせる』のは良いが、それに対する謝意がない。ゆえに、そのドジを『笑って済ませてあげよう』と思える愛嬌(あいきょう)がない。


近年稀に見る悪女。それが、俺の評する、彼女という人間である。


「あ? なに見てんのよ?」


コッテコテのヤンキーみたいなセリフは、ちょっと面白い。俺の中で、彼女の評価が広辞苑1ページの厚さ分くらい上がった。


「……水仙先輩は、どうですか?」


「……あのねぇ、あたし今来たの。分かる? あんたらの中で出来上がった会話の流れなんざ、知ったこっちゃないんだけど?」


ふむ。良い。


思ったより全然、『ギャル』という型にハマっている。こんなにもギャルギャルしいギャルを観ることができて光栄の至りである。


「すみません、えっと……


夏瑪(なつめ)くん、私から話そう。……というより、水仙も分かっているだろう?」


「入部する人数のこと? ……ふん、あたしたちにどうにかできる問題じゃないっての。」


このギャル。


分かっているのに、俺に噛みつきたいがためにとぼけてやがった。


「そうか。水仙も特に手を打っているわけでは無い……と。ふぅむ……。」


「あんたはどうなのよ、えっと……佐々田(ささた)だっけ? あんた、なにか手はないの?」


「いちおう、俺も探してみたんですが……。」


「チッ。つっかえないわね……。」


『使えない』と、こやつは言った。自分は何もしていないクセに、こやつは言った。


お前が(つか)えろ、俺に。つっかえろ、どこかの隙間に。つっかえて《《使われ》》ろ、薄い本のように。


「あ。そういやあたし、水やり当番か。」


「そうだね。頼んだよ。」


「はいはーい。」


何も問題は解決していないし話の途中だが、けろっとした様子で水仙は、窓際の観葉植物のほうへ歩みを進めた。


「ふんふ~ん♪」


ゴキゲンなものである。彼女は流し台に立ち、手に取った小さなじょうろに水を入れようと、蛇口のハンドルを回した。


「……ん? あれ、出ないわね。」


きゅ……きゅ……とハンドルを回しに回すが、一向に水が出てこない様子。


「……ゴミでも詰まっているんじゃないかい?」


反対側の窓際で『金太郎』たちに餌をやる青蓮が、少し張った声で言った。


「ゴミぃ? どうすれば蛇口にゴミが詰まんのよ……?」


悪態をつきながら顔を蛇口に近づけた彼女は、次の瞬間、唐突に噴き出した水によって全身びしょびしょに濡れた。


「きゃあああああーーーー!!!???」


「おらぁぁぁぁああっっーーーー!!!」


水仙の悲鳴とともに、部屋の入り口から別の叫び声が共鳴した。


「夏瑪ぇええ!! 佐々田夏瑪はいるかぁああ!!!」


入り口からの声の主は、煤牛(すすうし)かんなであった。


鬼の形相とはこのことだろう。彼女の身体(からだ)の周りに闘気のオーラが可視化しているようにも思えるほどの気迫だ。


「煤牛……っ!?」


「おや。ご機嫌よう、お嬢さん。」


「あん!? あっ、こ、こんにちは! って、えええっっ!? ちょっと、あれ、水!?」


「誰かーー!! 助けてぇーー!!」


狼狽(ろうばい)悠然(ゆうぜん)、混乱、哀求(あいきゅう)。生物室はその瞬間、混沌を極めていた。

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