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嵐のような女たち 壱

結論から言おう。ダメだった。


あの担任の言葉、『あとお前だけだぞ』というのは、事実だったのだ。


なにせ、俺はBクラスで、煤牛(すすうし)はAクラス。担任が把握しているのは担任が担っているクラスだけなのだから。


つまり、俺のクラスの生徒で入部届を提出していない者は、もういなかった。


では、他のクラスではどうか。煤牛がそうであるように、未だに提出していない面倒くさがり、もとい優柔不断な(やから)は必ずいるはずだ。


わが校には、ひとクラス約30人……ひと学年に200人弱の生徒がいる。無論、俺に友達と呼べる間柄の人間が何人いるかは、わざわざ明かさずとも分かるだろうから、俺にツテというものがないのも(おの)ずと分かるだろう。


想像できるだろうか。なんのアテも無く、入部届未提出の人間を探す困難を。俺が見ず知らずの人間に話しかけることの苦難を。


俺は、(おのれ)の無力さを痛感しながら、その日の放課後、生物室の扉を開けた。


「……お疲れ様です。」


「ご機嫌よう、夏瑪(なつめ)くん。ふむ……その言葉はそのまま君にお返ししよう。随分(ずいぶん)とお疲れ模様(もよう)だね?」


生物室に入ってすぐ手前、ハムスターのいるケージの前で、『ハムちゃん』に餌をやりながら、青蓮(せいれん)はそう返してきた。


「まぁ……そうですね……。」


「あと1人、入部してくれそうな子は見つかったかい?」


「……え?」


なぜ彼女がそのことを。……いや、彼女ならば何を知っていたとしても不思議ではない。彼女に『私は全知全能だよ』と言われたところで、俺は疑いもしないだろう。


それはそうと、やはり俺以外の入部希望者はいないのか。


「その様子だといなかったようだね。ふぅん……困ったものだね……。」


彼女はため息混じりに嘆いた。


いや、『嘆き』というにはどうにも余裕ありげだ。彼女にはなにか解決策があるのだろう。


俺は彼女を高く評価していながら、まだ信用し切っていなかったようだ。それがどれほど愚かなことなのか。


俺は自分の愚かさを呪うと同時に、自分の行動が徒労だったことに胸を撫で下ろした。


「……なにかあるんですね、解決策が。それならそうと言ってくださいよ、昨日(きのう)の時点で。」


「無いよ? そんなもの。」


「……ん?」


「だからこうして困っているのだよ。まったく、どうしたものかね?」


俺は全力でツッコミたい気持ちを抑えた。彼女はボケていないのだから、(から)ツッコミになってしまう。


またしても俺は、彼女という人物を見誤っていたらしい。


彼女はただ、あまりにオーラがありすぎるだけなのだ。発言すべてに説得力がありすぎるだけなのだ。


ただ、その説得力というものの後ろ盾が、有り余る実績や名声なのだからタチが悪い。


「……どうするんですか? このままじゃ廃部でしょう?」


「……そうだねぇ。なにも手立てが無い、ということも無いのだけれど。例えば、私が『口利き』すれば、他の部活の部員1人を転入させるなど、赤子の手を(つま)むよりも容易(たやす)い。」


「『(ひね)る』どころか『摘む』よりもなんて、めちゃ楽じゃないですか。そうしましょう。」


「うーむ。しかしね、私とて人の子だよ? 転入させられた子の『青春』に、私は無責任になれない。その子はその子が選んだ『青春』を謳歌する権利がある。」


「……『転入する』という選択も、その人の意志のはずです。」


「おや。これは一本取られたね。しかしね、夏瑪くん。」


彼女は『ハムちゃん』に与え終えた餌の袋を仕舞うと、俺のほうに、深く、底の見えない瞳をジロリと向けながら言った。


「私の言う『口利き』というものが、本当に口を利くだけで済むと思うのかい?」


どういう意味か、などと訊いたところで彼女は詳細を教えてくれはしないだろう。


いや、もしかしたら教えてくれるかもしれないが、この時の俺は、それを訊く勇気を覆い尽くす、なにか得体の知れない、(おぞ)ましさに似たものを感じていた。


俺はやはり、彼女という人物を見誤っているのかもしれない。

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