第二十三話 師匠ごっこ②
「……ううむ、モールくん。あなたはまず度胸が足りませんね」
「度胸?そんなものは淑女には必要ないでしょう」
メルロンディアがまず感じた欠点を指摘すると、モールが当然のごとくに反発した。
この論法は間違ってはいない。
普通の貴族令嬢にはそんなものは必要ないし、これから待ち受けるスタンピード相手には度胸があろうが実力が足りなすぎて対して役に立たない。
「はぁ……。あなたはレグモくんをスタンピードごときに殺させたいのですか?」
なので、感情面から攻めることにした。
「……それはっ。……でも、敵うはずがないでしょう!」
「いいえ、倒せますよ。本格的に私の薫陶を受ければスタンピードなんてものはチョチョイのちょいです。なんなら私一人でも殺し尽くせます」
メルロンディア的には当たり前のことを言っているにすぎない。
しかし、モールには到底信じきれない。
常識的に考えて、できるわけがないのだ。そんなことは。
ミメレルやロウのような人類の中でも最強クラスならばともかく、ただのなりたて大勇者にできるとは思えない。
事実として、メルロンディアは彼女らには多少劣っている。
ミメレルはもちろん、ロウにもだ。
「流石に無理だと私でもわかります。あなたはできもしない大言壮語を吐くのが趣味なんですか?」
「大言壮語、ですか。ならば、見てみますか?それを可能とする武の実現を」
「なにを……!?」
メルロンディアはレレンメガルドを取り出し、いつものルーティンを行う。
『星連激冥突』は強くはあるがインパクトは少ない。
近接戦闘を齧っているレグモが見るならともかく、モールが見るなら特に、だ。
そして、モールには魔術戦闘に特化させたいから見せたところであんまり意味はない。
かと言って、魔力が意味をなす山時鳥だとMPの消費が大きすぎて本当にこんなんで大丈夫なの?と思わせかねない。
それにこれは武器固有のスキルだから真似もできない。
故に、ここで見せるはただ一つ……。
「とくと見ておきなさい、これが最強の魔法です。「無貌の羽蟻、ソラが座す神殿。刺せよ刺せよ黒壁を。穿てよ針、凪を呼べ」『流星光破』」
あえて神聖言語での短縮を行わずに詠唱を行う。
それも、歌うように。
これはメルロンディア流の場の雰囲気づくりのためである。
神聖言語を使っても、他人に意や文脈は伝わるが、『間』という点においてはあまり優れているとは言えなかった。
要するに魅せプということだ。
「ひぃっ!?」
「あはっ、あはは……あはははははははははは!!!!」
詠唱から数瞬の後、宇宙より巨大な流星が『何度も何度も』降り注ぐ。
地は深くえぐれ、異様なまでのチカラが注がれているのにも関わらず、落ちてきたその箇所以外には一切の影響がない。
普通にやれば、間違いなくこの星から一部の強者を除く全生命が消滅していた。
しかし、魔法の特性上その効果範囲は異様に狭い。
そしてそれを弄ることは不可能だし、誰もやろうとも思わない。
物理学に真っ向に反しているその凄まじい現象を前に、モールは逆らう気を完全になくしていた。
ちなみにメルロンディアが笑ったのはその場のノリだ。
自分の作った雰囲気に流されたというだけ。
そうしたほうがかっこいいという理由にほかならない。
「ふふ、どうでしたか?なかなかに刺激的でしたでしょう?」
「い、いや、お見逸れしました……」
「ちなみに、あくまでも魔法の中では一番強いというだけでもっと強いスキルを数個は持っていますので決して侮らないように。……まあ、なんですか?私の言うことを聞いていれば半月でスタンピードなんて倒せるようになりますよ」
「……」
そうやって心を折ったところでそこから本格的な修行が始まった。
こうでもしないとモールは言うことを聞かなかっただろうが、やり方が正直苛烈であるという点は否めない。
「ほら、掛かってきなさい。怯えるだけでは倒せませんよ」
「師匠みたいな人を倒せるわけないじゃないですか!……ええい!『火炎撃』!」
ゆらゆらと歩きながら迫るメルロンディアに対して、モールは拳台の大きさの炎の玉を撃つ。
今、彼女らは模擬戦闘を行っている。
これは恐怖を克服するためだ。
魔法の実力も上がりはするが、主目的は恐怖をものともしない精神を『植え付ける』ためのものだ。
師匠ごっこが楽しいから修行をつけてやっていると前述したが、これは後世のためでもあった。
強くなるためのノウハウを子孫に伝えて、次のスタンピードのときにメルロンディアがいなくてもなんとかなるようにさせるためのものでもあるということ。
「ふむ、ヤケクソではありますが、だんだん度胸はついてきましたね。しかし、魔法は小さくコンパクトに、が基本ですよ。ほら、このように。『火炎撃』」
メルロンディアの火炎撃はモールのそれよりだいぶ小さくなっていた。
ピンポン玉程度であろうか。
それがモールの火炎撃を貫通してかき消し、本体へと迫っていった。
「いたぁっ!」
「ほら、こんなふうになります」
メルロンディアがまともに火炎撃を使ったらモールは消し炭になってしまうので、当然手加減はしていた。
なので、痛いという程度で済んでいるのだ。
ちなみに、『遊佐明』と融合する前のメルロンディアもこのような鍛錬をレードガロクから受けていた。
ただし、その危険度は桁違いの高さだったが。
「一点に集中したほうが威力が高くなるということですね。いい勉強になったでしょう?……まあ、この程度は私に言われる前からわかっているでしょうから、具体的なやり方から行きましょうか」
「……はい」
モールはメルロンディアに対してそれなりに信頼を置き始めた。
なぜかというと、単純に指導の質が良いのだ。
元・宮廷魔法師だというモールの魔法の師匠よりも遥かに。
このまま行けば、本当にあの運命も乗り越えられるのではないか。
そんな思いが芽生えていた。
それならば、従っても良いかと思い始めているのだ。
それに、ここまでの超人相手に恋心を抱きつづけられるほどレグモは強くないとわかっているのもある。
ともあれ、ここからが修行の本番のようだ。




