第五話 久しぶりの食事
獣道は、途切れそうで途切れない。一歩進むごとに人影を探しているのだが、一向に見えない。
「兄上・・・・・」
「分かっておる」
「・・・・・腹が減っては戦が出来ませんよ」
「分かっておる」
「・・・・・」
二人は何も口にしていなかった。そろそろ限界だった。
「・・・・・もう、諦めましょうよ。この・・・・・」
「ええい!五月蠅いぞ!」
「何故そこまで嫌がるんです?ただの葉ですよ!?」
「わしの・・・・・」
「誇りは捨てなければ!生きるために!!・・・・・この新芽なら何とか食べれそうですよ?」
風丸はむしゃむしゃと食べ始めた。雷助はそのまま歩き続けようとしたが、その食べる音に負け、新芽を引きちぎって口に入れ、噛んだ。
口の中に青臭さが広がり、雷助は息を止めて飲み込んだ。ようやくのどを通り、ホッと溜息をつくと、弟が口に次々と葉を押し込んでいた。雷助はそれを横目で見ながら、二枚目の葉を手の中で弄んでいた。
「・・・・・ずっと疑問に思っているのだが・・・・・ここまでして生きる意味はあるのか?」
雷助は弟に問う。風丸には、そんな質問は思ってもみない問いかけだった。
「・・・・・生きるのに理由は必要なのですか?」
風丸はおかしな質問をする兄に、逆に問いかけた。
「・・・・・何事にも理由はあるものだろう?」
「・・・・・・兄上、何か飛び道具は・・・・?」
風丸が急に囁き声になった。
「そんなもの・・・・・」
「し!あそこに鹿が・・・・・」
「何!?」
確かに鹿が一頭、木の向こうでひょこひょこ歩いている。二人は息を殺していたが、鹿はそのまま通り過ぎた。
「・・・・・待ち伏せますか」
「木の上でか?また通るとは・・・・・」
「このまま歩いても無駄に体力を消費するだけです。そろそろ日も暮れそうですし、木の上で一晩過ごしましょう」
雷助は少し首を傾け、同意した。風丸は猿のようにスルスルと木に登っていった。雷助がちょっともたつきながら後に続いた。
「・・・・・兄上!」
雷助は囁き声と揺さぶりで目が覚めた。
「む・・・・・?」
「鹿が来ました!!」
「え?」
確かに真下で鹿が木の葉をムシャムシャ食べている。
「・・・・・まぁ、こっちも生きるか死ぬかだ。鹿も許してくれるだろう」
「何の問題もありませんよ。兄上、任せました」
風丸はにっこり笑った。
雷助は刀を振りかざし、木から飛び降りた。
風丸が木をこすり合わせている間に、雷助は鹿を刀で器用に解体してしまった。
「火は熾きたか?」
「今ようやく・・・・・・」
風丸の荒い息が火を煽り、しばらくして木の弾けるパチパチという音が聞こえてきた。そこに鹿肉をかざしながら、二人はじっと黙っていた。
二人とも、同じ事を思い出していた。
「・・・・・ふぅ・・・・・」
二人とも、久しぶりの肉を腹いっぱい食べ、満足げに体を伸ばした。それでもまだ半分ほど残っていた。
「この肉、持って行きますよね?」
「そうしよう」
彼らは炎に新たな燃えだねを投げ込み、勢いよく燃え上がらせ、鹿肉を炙った。
「・・・・・表面だけ炙っておきましょうか?」
「そうだな。火も消したほうがいいかもしれん」
そういったが良いが、雷助には、火を消す手段が思いつけなかった。
「・・・・・そんなに風もないことだし、大丈夫だとは思うが・・・・・」
ふと気付くと、弟が土を炎にかぶせ、消してしまっていた。
「・・・・・・・・」
彼らは眠りについた。