第2章: ベヌ、お堅い坊ちゃん
ロックが学校に到着してから、七日が過ぎた。
その七日の間に、彼の手元には覚えなければならないことが山のように叩き込まれた。校則、礼儀作法、授業の時間割、教えられている科目の一つ一つ……その他にも、数え切れないほどのことがあった。
朝の彼を見た者は、幽霊でも見たのかと思って驚いただろう。寝不足のせいで顔は青白く、目の下には深い隈ができており、まるでガラス瓶越しに世界を見ているようだった。
「くそっ……俺は本当に学校ってやつが嫌いだ……」
それが、彼が四六時中考えていたことだった。
別にロックは、勉強するという行為そのものが嫌いなわけではない。
嫌なのは、決められたことを守り、責任を持って、規則に従い続けなければならないことだった。
しかし、そんな憂鬱な気分から彼を救ってくれるものが一つあった。
ヴィセニアのキャンパスに存在する、あまりにも広大な施設の数々だ。
そこには、他の土地ではまだ見られないような、時代を先取りしたものが数多く存在していた。
店には数え切れないほどの商品が並び、世界各地の料理が揃い、壮大な景色を眺めることもできる。魔法を試すための場所まで用意されている。
そして何より――世界最大の図書館。
「エルムンドの記憶」とまで呼ばれる、エーテルテック。
しかし、世の中のすべてが釣り合うようにできているのなら、残念ながら、これほど彼を楽しませてくれるものが揃っていても、それを満喫することを邪魔する存在もいる。
影からこちらを見張るような視線。
それは、彼が仕事を真面目にこなし、このすべてを楽しむことを許してくれない存在だった。
彼の「一番近しい友人」であり、そして叔父でもある男――ノクス。
この七日間、ロックは学校の規則だけでなく、自分が面倒を見ることになる三人についても、少しばかり資料に目を通していた。
最初に確認したのは、少年「アデュークス」の資料だった。
記録によれば、アデュークスはオーロラ海岸の住人である。
彼とその家族は、ソルディアガの西にある港町「レモトゥス」の近く、その山脈の中で暮らしているらしい。
「まともな神経してる奴が、どうして洞窟なんかに住むんだ? 理性を持った魔物か何かか?」
それが最初の感想だった。
ロックは彼を「最後の標的」にすることにした。
同じオーロラ海岸に住んでいるのなら、入学手続きも早く済むかもしれない。それに、帰りは船で学校へ戻ることもできる。何しろレモトゥスは港町なのだから。
さらに読み進めていくと、実際には「理性を持った魔物」などではないことが分かった。
アデュークスは、いわゆる「エルファリン」と呼ばれる種族だった。
見た目はエルフに似ている。
しかし、同時に大きく異なる種族でもあった。
どうやらエルファリンは総じて、生まれながらにして魔法に適した種族として知られているらしい。まるで、その肉体そのものが魔法のために作られているかのように。
だが、記録にはこうも書かれていた。
かつて一人の人物が、自らの邪悪な行いによって他種族に害を及ぼし、その結果、同族すべてを罰として没落させたのだという。
一体何をしたのか。
そして、その人物が誰だったのか。
それは歴史の中から消え去っていた。
現在では「世界の図書館」とまで呼ばれているエーテルテックにすら、その記録は残されていない。
分かっているのは、そのエルファリンがもたらした行いの結果、種族そのものが悲惨な運命を背負うことになったということだけだった。
かつては魔力によってエルフ以上の長寿を誇っていた彼らは、今では同じ魔力によって少しずつ身体を蝕まれ、八十五歳を超えて生きることができなくなった。
五十歳を過ぎると、エルファリンは歳を重ねるにつれて身長が縮み、身体の一部が徐々に歪んでいく。
そして六十歳になる頃には、体内のマナを扱う能力を失い、様々な肉体的な問題を抱えるようになる。
さらに、エルファリンには「平地のエルファリン」と呼ばれる一派が存在した。
彼らはこの罰に激怒し、その責任を山岳のエルファリンたちに押し付けた。
罰の原因となった者は、山岳側の出身だったのではないか――そう主張したのだ。
没落以前、エルファリン全体の中でも山岳のエルファリンは「上流階級」とされていた。
彼らは山々に住み、自分たちの偉大さを平地の者たちに示していたという。
現在、平地のエルファリンは、彼らの過去を知る森の民からも受け入れられている。
他の者たちから隔離されたり、差別されたりすることもない。
自然の精霊――ドルイドやシャーマンに力を与える存在――が、彼らの心が純粋であり、そこに裏の意図がないことを示しているからだ。
そこまで読んで、ロックはヴァージルがこの少年に興味を持ち、入学させようと考えた理由を理解した。
平地のエルファリンとは違い、理論上、山岳のエルファリンは冷酷で容赦がないはずだった。
まるで、夜エルフがそうだと言われているように。
そうした性格が期待される種族であるにもかかわらず、記録によれば、この少年が学校の目に留まったきっかけは父親だった。
父親は、息子がどれほど優秀なのかを人々に誇らしげに語っていた。
ある意味では、息子思いの父親だったのだろう。
それだけではない。
レモトゥスで彼が働いている酒場での振る舞いも、優しく、常に人のために動き、客たちに奉仕するものだった。
アデュークスについて情報を集めたアウグストゥスは、そのことをヴァージルにかなり率直に伝えていた。
手紙にはこう書かれていた。
> 「親愛なるヴァージルへ。
きっとあなたが気に入るものを見つけました。もしかすると、山岳のエルファリンから生まれた、新たなノクス、あるいはロックになる可能性があります。
すでに父親とも話しました。彼はあなたにレモトゥスの『グローサー・ベッヒャー』亭へ立ち寄ってほしいそうです。息子を入学させ、彼自身が得られなかった未来を息子に与えたいとのことです。
彼は普通のエルフに扮しており、使っている名前はガラドリエル。本当の名は――エアリオンです。
では、私の仕事はここまで。また次の機会に!」
それを読んだロックは、一瞬だけ思考を止めた。
「新たなノクス、あるいはロック……ねぇ」
エルファリンの話を読んでいるうちに、ロックは夜エルフの歴史を思い出していた。
そこにも似たような物語が存在する。
現在では女神として崇められているノクターニア。
彼女は力を求め、高位エルフとその神に対して反乱を起こした。
彼女は自分についてきた者たちを欺き、本来存在しなかった問題を作り出しては、少しずつ人々の不満を募らせていった。
だが、それは彼女が後に起こすことの、ほんの始まりに過ぎなかった。
やがて彼女は、混沌の力の欠片に手を伸ばした。
そして、自らの姿を永遠に変えてしまった。
その変化によって、後に最初の夜エルフの血統が生まれることになる。
髪は白くなった。
月に似せるために。
肌は濃い紫、黒、灰色が入り混じった色へと変化した。
夜というものが持つ複雑さと深さを、その身に宿すために。
彼女に従った者たちも同じ肉体的な変化と、彼女の力の欠片を与えられた。
そして――イヴィラで戦争が始まった。
多くの命が失われた。
やがてノクターニアの敗北が確定する。
彼女を倒したのは、神ライェルフ本人だった。
その後、反乱に加担した者たちはイヴィラを追放され、エルムンドへと流された。
ノクターニア自身の運命は、さらに暗いものだった。
彼女は下位の次元のどこかへ封印された。
しかも、その正確な場所や運命は意図的に記録されなかった。
永遠に、誰にも彼女をそこから救い出せないようにするためだった。
夜エルフたちは、その後いくつもの文明を築いた。
地下に。
あるいは、離れた島々に。
だが、彼らの結束意識は次第に病的なまでに強くなっていった。
彼らと共に生きず、彼らの指導者に従わない者は、裏切り者と見なされるようになったのだ。
そのせいで、ロックの家族も、彼が母親の腹の中にいた頃に大変な目に遭った。
夜エルフの貴族の娘が、人間に恋をしてしまったからだ。
とはいえ――最後には、どうにかすべて上手くいった。
だが、ロックが引っかかったのはそこだった。
夜エルフですら、ここまで重い罰を受けてはいない。
それなのに、エルファリンに下された罰はあまりにも重い。
彼には、どうにも理屈が通っていないように思えた。
「この正体不明のエルファリンは……一体、誰に対して何をやらかしたんだ?」
しかし、いくら考えても答えは出ない。
ロックは考えるのをやめ、次の人物へ意識を向けた。
彼が「最初の標的」に決めていた少年。
「ベヌ・アディーン」
三人の中で、彼が暮らしている場所が最も遠い。
彼はリンナガオース帝国にある、小さな村の住人だった。
その村はドラコーン地方との国境に位置している。
正確には、ドラゴンランス王国との国境だ。
彼の住む村、レヴェンバイドには、ある程度名の知られた魔法学校が存在する。
ドラゴンランスの女王や、その貴族たちとの関係を強化するため、戦略的に作られた学校だった。
村にあるその学校――ドラッケンニンは、ヴィセニアとも良好な関係を築いている。
ローマの学校と同じように、二つの校舎を繋ぐ転移魔法陣も存在していた。
つまり、そこへ向かうのはそれほど難しくない。
そして少年について。
記録によれば、彼は幼くして両親を失っている。
正確には、八歳の時だ。
二人とも、不安定な魔法道具による「事故」で命を落とした。
その後、彼は家庭教師であるマエラ・ヴォスに育てられた。
そして同時に、借金、責任、そしてかつては尊敬されていたものの、今では政治的な価値を失った家名まで受け継いだ。
どうやらアディーン家は、あの地域である程度の影響力を持っていたらしい。
というより、かつては村そのものの指導者だったようだ。
だが、二人の死後、それも変わった。
それだけではない。
アディーン家は、ローマのオルラ・デッラ・スパーダに住む名門、ベンフェニーチェ家とも強い繋がりを持っているらしい。
ただし、その関係については曖昧で、正確な理由までは分かっていない。
しかし、事故の後、ベンフェニーチェ家の兵士たちが家の瓦礫の周辺を歩き回っていたことは、村人たちの間ではよく知られていた。
「政治家が絡んでるこの話、穴だらけすぎるだろ……深く関わったら、最後に穴だらけになるのは俺なんじゃないか?」
ロックはそう考えた。
学校に連絡を取ってきた人物は、「テラ」という名前を使っていた。
そして、村に到着したら、村から少し離れた場所にある葡萄園へ使いを送るように言っていた。
その葡萄園は村の近くにある小さな丘陵地にあり、村のどこからでもその建物を見ることができる。
待ち合わせ場所は、村の中心にある「カフェテリア」と呼ばれる店。
店の名前は――「シール・ナン・スピア」。
しかも彼女は、カフェテリアとは何なのか、他の飲食店や酒場とはどう違うのかまで、一つ一つ細かく説明していた。
あまりにも丁寧に説明されているせいで、まるで相手がとんでもなく鈍いか馬鹿であるかのようだった。
「まるで、カフェテリアが何なのか俺たちが知らないみたいな書き方だな。ヴィセニアって、世界でも一番先を行ってる知識の集まる場所なんだけど……まさか俺たちを馬鹿で無知だと思ってるのか?」
さらに詳しく見ると、カフェテリアについて説明している部分だけ、他の部分と比べてインクが新しいように見えた。
そして、その筆跡にも見覚えがあった。
「……なんで驚かないんだろうな、俺。覚えてろよ、ノクス。絶対に仕返ししてやる」
必要な情報を頭に入れたロックは、ようやく校長アビゲイルのもとへ向かった。
アデュークスとベヌについてしか確認する時間がなかったが、彼にとっては十分だった。
それに、ギルバートから教師として必要だと言われたことも、すべて覚えている自信があった。
部屋に着くと、アビゲイルは笑顔を浮かべていた。
どうやらロックには気づいていないようだった。
彼女は窓の方を向いており、手には女性の写真を持っていた。
写真の女性は、赤い髪をした非常に美しい若い女性だった。
一方、アビゲイルは白髪である。
そのため、それが娘なのか、それとも近しい親族なのかまでは判断できなかった。
妙な空気にならないよう、ロックはいったん静かに外へ戻り、その後で大げさに入ってこようと考えた。
だが、外へ出る前に――
「大丈夫ですよ、ロック。こういうものを見ていても、問題ありません」
つま先立ちになっていたロックの背筋を、冷たい氷が一気に走ったような感覚が襲った。
彼は姿勢を正し、気まずそうに頭の後ろを掻きながら、ぎこちなく部屋へ入る。
「千里眼……ですか?」
「なかなか鋭いですね。でも違います。ただ、私は観察力がいいだけですよ」
「ああ、そうですか。はは……」
彼女は穏やかな笑みを浮かべたまま、ロックを見つめていた。
「立派な髭ですね。でも……校則上、許されているのは口髭だけだということは、もうご存じでしょう?」
ロックは、苦労して伸ばした髭を撫でた。
「ええ、知ってますよ……。学校の開校週間までには剃ります」
「別に、あなたを叱っているわけではありませんよ。ただ、ヴァージルの元教え子だからといって私が規則を見逃している、と他の教師に思われたくないだけです」
「ああ、それなら分かります。これであなたに迷惑をかけるのは俺も本意じゃありませんから」
ロックは椅子に座った。
だが、明らかに緊張しており、身体もかなり縮こまっていた。
アビゲイルはそれを簡単に見抜く。
「それにしても、本当に立派な髭ですね。エルフにしては実に見事です」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた空気が少し緩んだ。
そしてロックの顔には、一瞬だけ驚きが浮かんだ。
「ああ……まあ、驚くことでもないですよ。ノクスがそれをバラすだろうとは思ってました」
ロックは会話の雰囲気を保とうとした。
それに、自分の方が相手より一歩先を読んでいるように振る舞うのが好きでもあった。
だが、アビゲイルがその事実を知っていたことには、少しだけ苛立ちを覚えていた。
「ノクスを責めないでください。実際には、彼はその情報を確認してくれただけです」
「……どういう意味です?」
「あなたがこの部屋に入ってきた、七日前の時点ですでに気づいていましたから」
ロックは、久しぶりに居心地の悪さを感じ始めていた。
自分の考えていることを、何一つ漏らさず読み取る人間。
そんな相手に、また出会ってしまった。
「……どうやって?」
アビゲイルはその質問にはすぐ答えず、椅子から立ち上がった。
そして、ロックが入ってきた時に彼女が立っていた場所へと近づく。
「さて。私があなたについて一つ知ってしまった以上、私のことも一つ教えておくのが公平でしょう」
アビゲイルは先ほど引き出しにしまった写真を取り出し、机の上へ置いた。
今度はロックにも全体が見えた。
写真の中には、アビゲイルと並んで立つ女性が写っていた。
そして写真をよく見ると――撮影当時のアビゲイルも、同じように赤い髪をしていた。
「この子は、私の娘です」
ロックは思わず写真を見つめていた。
だが、なぜ彼女がこれを見せたのかは分からない。
「そして、あなたと同じエルフです。……正確には、ハーフエルフですが」
ロックは、その情報に驚きを隠せなかった。
さらに目を凝らして見る。
すると、ハーフエルフが耳の先を切り落とした際に残る、あの傷跡があることにも気づいた。
「あなたと同じように、この子も『不純なる交わり』と呼ばれるものによって生まれた子です。その意味は、覚えていますよね?」
ロックは少し気が楽になり、いくつかのメモを取り出して机の上へ置いた。
「もちろんです。人間とエルフの交わりを、それぞれの種族がどう捉えているのか……何年もかけて調べてきましたから」
そう言いながら、彼は自分の本に挟んでいたメモをめくっていく。
「最終的に分かったのは、俺だけがこういう目に遭ってきたわけじゃないってことでした。ただ、誰か一人を主犯として指摘することはできなかった」
「ふむ。そうなんですか? どうして?」
「どの種族にも、それを間違っていると考える人間がいて、それぞれに『不純なる交わり』についての個人的な考えがあるからです。例えば、人間とエルフが結婚するのは問題ないと考えていても、ホブリングとの結婚は駄目だと考える人もいる……みたいに」
話している間、ロックは完全にその話題へ集中していた。
周囲で何が起きているのか、一時的に意識から消えてしまうほどに。
そのため、彼は気づかなかった。
アビゲイルが、彼の研究について話を聞きながら、感心したような眼差しを向けていたことに。
「では、あなたならこの問題をどう解決しますか?」
ロックは本を見つめ、答えを考えた。
そこまで考えたことは、今までなかった。
「それは……残念ながら、まだ答えを出せそうにありませんね」
ロックは苦笑しながら答えた。
だが、自分が答えを持っていないことを、彼自身も明らかに気にしていた。
「そうですか。では、あなたの研究がどんな結論に至るのか、楽しみに待っていますね!」
そう言うと、アビゲイルは机の上に三つのエーテル・プリズムを置いた。
ロックは、それだけで彼女が何を言いたいのか理解した。
三つとも拾い上げ、自分の荷物の中へしまう。
「あなたが、この子たちとの出会いを無事に終えられることを願っています!」
「ありがとうございます、アビゲイル校長」
ロックはすでに部屋を出ようとしていた。
しかし、その直前にアビゲイルが声をかける。
「そういえば、私の考えもあなたの研究に加えておいてください」
「ああ、もちろん。どんな意見です?」
「もし選ぶのであれば……私は、『不純なる交わり』から生まれた者を欠陥品だと決めつける人間こそ、悪い人間だと思います」
ロックは、それで彼女の話が終わったと思った。
そして、その意見について何か答えようとした。
だが――
「それでも、それに同情しているふりをして、そうした問題を抱える人たちを利用し、自分の利益のために何かを得ようとする者たちは……私に言わせれば、この世界の中でも最低の屑です!」
その言葉はあまりにも強かった。
ロックには、その言葉の奥にある感情まで伝わってきた。
顔は冷静さを保とうとしている。
だが、腕と手がわずかに震えている。
それが、彼女の本当の感情をロックに伝えていた。
「ご意見、ありがとうございます。もし俺がこれについて本を書くことになったら、必ず目立つ場所に載せますよ。……それに、俺もその意見には心から同意します」
そう言って、ロックは部屋を出た。
そして――
「やあ!」
外に出たところで、バッグを手にしたノクスと鉢合わせた。
「おやおや、これはこれは。『隙だらけさん』じゃないか」
「ふん。それを言うなら、前の勝負は俺の勝ちだっただろ」
「あれは引き分けだ。ひ・き・わ・け!」
「そう思っていた方が幸せなら、それでいいさ」
ノクスは持っていたバッグをロックへ放り投げた。
「何だこれ? 歓迎のプレゼント?」
「違う。教師用の教材だ」
「ああ……。お前が俺への憎しみを示したいなら、せめて悪口だけにしてくれよ。こんなの、馬鹿呼ばわりされるより酷いぞ」
「いい加減、くだらないことを言うのはやめたらどうだ? そこに入っているのはヴァージルが使っていたものだ。大切に扱え」
「ああ……」
ロックはまるで子供のようにバッグを覗き込み、中に入っているものを眺めていた。
「この腕輪は何に使うんだ?」
「八つの寮のうち、どの寮がその生徒に最も適しているかを判断する」
「じゃあ、このインク壺は?」
「ただのインク壺だ」
「なるほど……。じゃあ、この消しゴムは?」
「ヴァージルが持っていたものが全部魔法道具だったわけじゃないんだよ、馬鹿」
「相変わらず、つまらない男だな」
「はいはい……。腕輪以外にも、これが必要になる」
ノクスは自分の荷物から水晶玉を取り出し、ロックへ渡した。
「ふーん……なかなかいい水晶だな。まさか、俺が考えてるやつか?」
「『通信水晶』のことを考えているなら、その通りだ」
「なるほど……。まあ、驚きはしなかったけど、これではっきりしたな。お前、秘密のプレゼント交換とかには向いてないだろ」
「秘密の……何?」
「なんでもない」
それらをロックに渡し終えると、ノクスは彼を案内し始めた。
ついでに簡単な校内案内をしながら、いくつか説明していく。
この七日間、ロックは家から一歩も出ていなかった。
何しろ、どうせノクスが何らかの方法で自分を監視しているだろうと分かっていたからだ。
ロック自身もここで学んだことがある。
それでも、ここ数年で多くの変化が起きていた。
その変化はあまりにも多く、ロックが「昔もこうだった」と認識できるものはほとんど残っていなかった。
長いこと歩き続けた末、ノクスはようやく転移魔法陣のある塔へと彼を連れてきた。
「そうだ。お前がこれから行く学校で、俺たちの評判を落としたり、恥をかかせたりしないようにな」
それを聞いたロックは、ノクスに向かって満面の笑みを浮かべた。
「おいおい。俺がそんなことしたこと、一度でもあったか?」
ノクスは答えなかった。
いや――その質問の後、辺りには沈黙だけが流れた。
「……まあいい。できるだけ早く戻ってきて、その三人を仲良くさせろ」
ノクスは背を向け、歩き始める。
転移魔法が発動し始める中、ロックはついに最初の目的へ向けて一歩を踏み出した。
――「天才児たちを入学させる」。
レヴェンバイド。
小さな村だ。
しかし、魔法学校があることで人の流れは大きく、外から訪れる者も多い。
転移した先の部屋には、多くの教師たちがいた。
科目の準備をしている者もいれば、本を整理している者もいる。
ロックが到着すると、彼らは一斉に驚いた。
何しろ、彼が着ている服には学校の紋章が刺繍されていたからだ。
部屋にいた教師たちは皆、ロックのもとへ集まり、温かく彼を迎え入れた。
しかし、ロックの頭の中に浮かんでいたのは――
「くそっ……次から次へと来やがる。もうかれこれ一時間近くこれやってるぞ。いつまで来るんだよ……?」
それからようやく、ロックはその場を抜け出すことができた。
校庭へ出る。
そこは壮大で、やたらと広かった。
歩いていると、次々と生徒たちが彼を見つめ始めた。
そして、そのたびに胸元へ手を当てる。
どうやら、ロックの服に刺繍された紋章を指しているらしい。
その中でも、一人の少年が特に目立っていた。
少し小柄で、赤い髪をした少年だ。
彼は口をぽかんと開けると、何の迷いもなくロックの後をこっそり追い始めた。
やがて校門を出ると、ロックは小さな鞄から、かなり大きな巻物を取り出した。
その様子は少し滑稽にも見えたが、その鞄が魔法の道具であることは一目瞭然だった。
巻物は端から端まで、およそ一メートルもある。
ロックはそれを広げ、空中へ放り投げた。
すると右手の親指が輝き始める。
そして、巻物の三か所に魔法で「印」を押した。
背後の学校の門には、まだ大勢の生徒たちが彼を見ていた。
誰もが、それまで一度も見たことのない魔法を目の当たりにして、憧れの眼差しを向けている。
ロックは彼らに手を振り、「自分たちの仕事へ戻れ」と合図した。
自分たちが少し好奇心を出しすぎていたことに気づいた生徒たちは、慌ててその場から散っていった。
ロックは再び巻物へ意識を戻す。
術式を終えると、巻物は光とともに消えた。
そして、その代わりに――
六十センチほどの大きなカラスが現れた。
「カァ! 魔法泥棒! 魔法泥棒!」
それを聞いたロックは苛立ち、反射的にカラスのくちばしを掴んで揺さぶった。
「俺も会えて嬉しいよ、ヒクロ」
「カァ……俺はお前ほど嬉しくないかもしれないな。それで、どうして俺を呼び出した?」
「大した用じゃない。この街の葡萄園まで行って、『テラ』っていう女を探してくれ。見つけたら、ヴィセニアの教師が約束の場所で待っていると伝えてくれ」
カラスは数秒間、無言でロックを見つめた。
そして次の瞬間、怒りに任せてロックへ飛びかかり、嘴で突き始めた。
「なんで一年召喚の契約をこんなことに使ったんだよ! カァァ! あと少しで相手を見つけて番になれそうだったのに! お前が俺のチャンスを潰したんだぞ! カァァ!」
ロックは人差し指で紐を回しながら、ヒクロの嘴から身を守るための障壁を作った。
「落ち着けよ、ヒクロ。残ってた召喚用の巻物が、よりによって一年契約のものしかなかったんだ。それに、俺は教師になったんだから、これからお前にはまた頼ることになる。だから怒るなって。あとで何か埋め合わせしてやるから」
ヒクロの目から、本物の涙が一筋流れ落ちた。
「分かったよ! じゃあ、お前のために超強力な惚れ薬を作ってもらえばいいんだな。そんなに泣くなって」
その言葉を聞いた瞬間、ヒクロの表情が一変した。
そして、その顔には満面の笑みが浮かんだ。
「カァ! やっぱりお前は最高の親友だな、ロック。カァ!」
「はいはい……。いいから、さっさと行ってくれ」
「了解。カァ!」
ヒクロはすぐさま翼を羽ばたかせ、その場から飛び去っていった。
「高級アイテムを手に入れてやるって言った途端、あっさり協力しやがった……。現金な奴だな。最高の親友とか言ってたくせに」
ロックが資料に記された待ち合わせ場所へ向かおうとした、その時だった。
学校の方角から声が聞こえた。
「失礼します。あなたがペットと話していたところを、つい耳にしてしまいまして。それと、彼がこの素晴らしく栄光ある、唯一無二の、この壮麗な街で最も素晴らしい葡萄園へ向かったことも聞きました。あの葡萄園は私の家族から私へ受け継がれたものでして、我が家はこの街を所有しており、なおかつこの地域でもっとも名のある家柄で――」
ロックの目は少年の口の動きを追っていた。
だが、耳は完全に興味を失っていた。
結局、何を言っているのかほとんど理解できない。
ただ、頭の中に浮かぶ自分の声だけが聞こえていた。
「なんだこいつ。やたらと絡んでくるな。それに何か自慢してるっぽいし……鬱陶しい。頼むから、そのベヌって奴までこいつみたいな気取った坊ちゃんじゃありませんように……」
ロックは気づいた。
少年は話すことに夢中になりすぎている。
ならば、こっそり抜け出しても気づかないだろう。
そう判断した。
そして、実際にそうした。
足音を立てないように歩いている間も、少年は何かを説明するように、あちこちを指差しながら延々と話し続けていた。
ロックは一切相手にせず、その場を気づかれないまま離れることに成功した。
「よし。あとは、例の『シール・ナン・スピア』とかいうカフェテリアへ行くだけだな……。それにしても変な名前だ。『天の種』って意味なのは分かるけど、もう少し格好よく並べ替えられなかったのか? 誰かを罵ってるみたいに聞こえるぞ」
歩きながら、ロックは村の景色をじっくり観察した。
とても「温かい」雰囲気の村だった。
そして、かなり美しい。
家の大半は寄せ集めるように建てられており、分厚い石壁には白い漆喰が塗られている。
小さなガラス窓がある家もあれば、木製の鎧戸を使っている家もあった。
屋根は急勾配で、灰色の藁葺き。
だが、恐らく裕福な家なのだろう。赤い素朴な瓦を使っている家もいくつかあった。
鍛冶屋が槌を振るう音は、どこを歩いても生々しく、絶え間なく響いている。
泥の中を鶏が放し飼いにされ、あちこちを走り回っている。
そして中心部へ近づくにつれて、ハープやリュート、バグパイプの楽しげな音色が次第にはっきりと聞こえてきた。
遠くからでも、村の中央に大きな石柱が立っているのが分かった。
そこへ到着すると、そこが村の中心であるだけでなく、商業の中心でもあることに気づいた。
石柱の周囲には、様々な種類の屋台や商人が並んでいる。
そして、そのすぐ近くがロックの待ち合わせ場所でもあった。
小さな村ではある。
だが、近くに魔法学校があることで、多くの外部の人間が訪れる。
その中には貴族も多い。
「この中の何人かは、きっとこのままここに住み着いて、一生を穏やかに、何の心配もなく過ごすんだろうな」
ロックは、二人の子供を叱っている父親を見た。
どうやら遊んでいる最中に怪我をしたらしい。
その光景を見て、彼の思考は一瞬だけ遠くへ流れていった。
「穏やかで、何の心配もない人生……か」
ロックは待ち合わせ場所へ向かい続けた。
目的地を見ているはずなのに、彼の視線は何年も遠くを見つめているようだった。
カフェテリアに到着してから、およそ十分。
ロックは、店員の女性たちが客にとても丁寧に接していることに気づいた。
そして、その多くが赤い髪をしている。
「そういえば……アビゲイルさんも、この辺りの出身だったりするのか?」
深く考え込んでいたロックだったが――
「カァァ! 来たぞ! 来た、来た! 到着した! カァ!」
ヒクロの叫び声によって、一気に現実へ引き戻された。
ロックは苛立ち、今度は布を取り出してヒクロの嘴を縛った。
「これで少しは学習しろ、この野郎!」
ヒクロを黙らせていると、一人の美しい女性がゆっくりと歩いて近づいてきた。
そして、その後ろにはもう一人、人影があった。
「お待たせして申し訳ありません。あなたがマスター・ロックですね。お会いできて光栄です!」
「じゃあ、あなたがテラですね。初めまして」
ロックは彼女の後ろにいる人物へ目を向けた。
「そして、後ろにいるのがベヌ……で合ってますよね?」
「その通りです! ちなみに、テラという名前は冒険者時代に使っていた名前です。私は若様を育てた家庭教師――マエラ・ヴォスと申します。どうぞお見知りおきを!」
ロックは顎に手を当てて考えた。
だが、すぐに事情を理解した。
「なるほど……。村の人間や学校が知っている名前を使うのは、まずかったんでしょうね。あなたが俺たちと接触して、村の元指導者たちの息子をこちらへ引き渡しているとなれば、問題になって処罰される可能性もある……ってところですか?」
「その通りです!」
「でも、ここでそんな話をして大丈夫なんですか?」
「問題ありません。このカフェテリアは、周囲の酒場ほど混雑することはありません。それに、仮に人が多かったとしても、今のように私の魔法障壁で会話を遮断できますから……。私が魔法を展開した時点で、気づいていたでしょう?」
「実を言うと、この馬鹿がこんなに騒いでるのに、誰も気にしてない時点で何かあるとは思ってました。でもよく見てみたら……かなり薄い障壁だった。多くの魔法使いなら見落とすでしょうね。かなり経験のある魔法使いでも」
「そのように評価していただけて嬉しく思います!」
「礼を言われるようなことじゃありませんよ」
――それにしても。
「魔法の隠蔽に関して言えば、この精度は今の俺と同じくらいだ。ノクスにはまだ何段か及ばないけど……。一体、昔は何者だったんだ? マエラ……」
魔法の話になった瞬間、ロックの表情と纏う雰囲気が完全に変わった。
まるで、魔法そのものを楽しんでいるかのようだった。
「それより、お二人ともお座りください。何でも好きなものを注文してください。私が支払いますから」
「ありがとうございます。しかし、それでは礼儀作法の規則に反してしまいます」
その「礼儀作法」という言葉が、ロックの耳に突き刺さった。
そして、地獄のようだった七日間の校則の勉強を一瞬だけ思い出す。
背筋に寒気が走った。
「そういうことなら……ベヌ君には座ってもらいましょう。まだ俺たちはちゃんと顔を合わせてませんから」
ロックがそう言うと、マエラは後ろを振り返り、ベヌへ肯定するように頷いた。
彼女の後ろから出てきた少年は――
他でもない。
先ほどロックが出会った、あの気取った坊ちゃんだった。
明るい笑顔を浮かべ、聡明で、善良で、優しい心を持った少年を期待していたロックの顔が、ゆっくりと変化していく。
そこにいたのは、あの絡んできた、気取り屋の少年だった。
まるで顔の周囲に悲しみの雲が浮かんでいるかのようだった。
それでも、表面上は笑顔を保とうとしている。
一方のベヌも、先ほどの出来事がかなり気に入らなかったらしい。
明らかに不満そうな顔をしながら、ロックの向かいへ腰を下ろした。
「くそっ……。こりゃ、先が思いやられるな……」
「ベヌ君、だよな? 聞いたところによると、君は俺たちが記録しているものとは少し違ったタイプの魔法を使うらしいじゃないか?」
ベヌは答える気がなさそうだった。
ただロックを無視し、沈黙を貫く。
「ベヌ、そんな態度を取ってはいけません。マスター・ロックにはきちんと答えなさい。彼は入学すればあなたの師になるのですよ。それに、最高の魔法学校として知られるヴィセニアへ行くことが、あなたの夢だったのでしょう?」
「まあ、昔はそうだったかもしれません。でも、今はもう違います。ほら……子供は成長するし、夢だって過ぎ去っていくものですから……」
ロックは表情に出さないよう必死に耐えていた。
だが、額の血管の一本くらいは、今にも破裂してもおかしくなかった。
しかし――
頭上にランタンが灯ったかのように、突然一つの考えが閃いた。
「いいよ、マエラ。俺には分かるから……」
その言葉に、ベヌが反応した。
隠そうとはしていたが、明らかに彼の注意を引いている。
「たぶん、ヴィセニアは君には荷が重すぎると思ってるんだろう。それに、そんな責任を背負う準備がまだできていないのかもしれない」
マエラはすぐにロックの意図を理解した。
そして、その話に乗る。
「申し訳ございません、マスター・ロック。わざわざ来ていただいたのに、無駄足になってしまいましたね。旅費については、私が責任を持ってお支払いします」
ベヌの顔から、冷や汗が流れ始めた。
その金が、恐らく自分の家の貯蓄から出ることを彼は知っていた。
ここまで自分を育ててくれたマエラに、そんな責任を押し付けることなどできない。
「いや、親切にしてもらってありがたいけど……先に言っておくと、エーテル・プリズムはかなり高価なんだ。たぶん、一個につき一万ゴールドくらいは必要になると思う」
ベヌは服の下まで汗でびっしょりになっていた。
しかし、それを表に出すわけにはいかない。
絶望している姿を見せることは、彼の家にとって不名誉なことだからだ。
それはつまり――
名誉あるアディーン家には、今それを支払うだけの余裕がない。
そう認めることになる。
そして、ベヌは一つの素晴らしい考えを思いついた。
提案を受け入れる。
それは、彼が最初から望んでいたことだった。
ただし――
自分が優位に立っているように見せる。
まるで同情から受け入れてやるかのように。
余計な手続きを省くために、仕方なく承諾したように。
「まあ、そんなに騒ぐ必要はありません。余計な手続きを避けるためにも、入学の申し出を受け入れましょう」
その返答に、ロックとマエラはほぼ同時に笑みを浮かべた。
「ベヌは、マエラさんに対してずいぶん優しいんだな。余計な手間を増やさないようにしてくれたんだから」
「ええ、本当に。幸運にも、私はとても心優しい若様に恵まれました」
そう言いながら、マエラはベヌの髪を撫でた。
その言葉と、頭を撫でられたこと。
その二つが合わさり、ベヌの顔は恥ずかしさで真っ赤になった。
ロックは入学書類を机の上へ置いた。
そして、授業の仕組みや時間割、学期途中の休暇など、基本的なことを説明していく。
説明している間、ロックは心の中でギルバートに感謝していた。
あの厳しい授業がなければ、ここで説明に詰まっていたかもしれない。
すべての説明を終え、書類への署名も済ませる。
ベヌは荷物を取りに自宅へ戻ることになった。
だが、ロックのところへ戻る前に、彼は村の丘の上にある二つの墓石へ向かった。
マエラも彼についていく。
「母さん、父さん。信じられないだろ? 俺、ヴィセニアに合格したんだ!」
少し離れたところから、マエラは微笑みながら彼を見つめていた。
しかし、その瞳に浮かんでいる感情は、笑顔とは違っていた。
「覚えてる? 母さん。いつも、そんなに期待しちゃ駄目だって言ってたよな。あそこに合格するのはすごく難しいって。俺、絶対に合格するって言っただろ? 俺、言ったよな!」
ベヌは笑顔を保ったまま、そう言った。
マエラも同じ表情を保とうとしていた。
だが、次第にその睫毛が涙で濡れていく。
「父さんは、俺が合格したら、クラスで一番になれないなら戻ってくるなって言ったよな。約束するよ。上位に入るだけじゃない。俺が一番になる!」
そして――
「だって……それが、俺たちに教えられてきたことだから……いつだって、自分の全力を尽くす……」
そこで、彼は一度言葉を止めた。
恥ずかしかったのだ。
けれど、相手は両親だ。
だから、構わなかった。
声を震わせ、すでに涙でいっぱいになった瞳で、彼は最後の言葉を口にする。
「いつもあなたたちを守るって約束したのに……それを守れなかったこと、ごめんなさい。でも、この約束だけは……最後まで守ります!」
すでに堪えきれなくなっていたマエラは、その光景を見て泣いていた。
彼がここまで何を経験してきたのか。
彼女はすべて知っている。
ずっと彼のそばにいて、ここまで育ててきたのだから。
一方、学校の前ではロックが待っていた。
だが、待たされていることを気にしている様子はない。
いつものように、自分の思考へ入り込んでいたからだ。
彼が考えていたのは、三人を集めた時、どうすれば最初から仲良くさせられるかということだった。
考えながら、彼は近くで遊んでいる子供たちを眺めていた。
三人組だった。
どうやら兄弟らしい。
楽しそうに走り回っていたが、そのうち一番年下の子が足を引っかけて転んだ。
当然、すぐに泣き始める。
だが、残りの二人はすぐにその子のもとへ駆け寄り、立ち上がるのを手伝った。
そして、また三人で遊び始めた。
「家族の絆……か」
ロックは何かを思いついたようだった。
しかし、それが具体的に何なのか、まだ完全にはまとまっていない。
そんな彼の思考を、遠くからやって来るベヌの姿が遮った。
背中にはリュックを背負っている。
マエラに別れを告げながら、こちらへ向かっていた。
「準備はできたか?」
「ああ。行こう」
「分かった。それじゃあ――」
その言葉を言い終える前に、ロックの頭上に再び大きなランタンが灯った。
先ほど考えていたことが、完全に一つへと繋がったのだ。
「お前の従兄弟、エルドリンのところへ向かおう!」
その言葉に、ベヌは驚き、少し怯えたような顔をした。
「従兄弟……? 俺の家族の?」
「ああ、そうでもあるし、そうでもない。ほら、お前たちは同じ、ひいひいひいひいひい祖父……くらいの先祖から分かれた血筋だからな。つまり、ものすごく遠い親戚ってことだ」
ベヌは明らかに安堵した。
どうやら、近しい親戚ではなく、かなり遠い親族だと分かって安心したらしい。
「それから、もう一人入学させるために向かう。名前はアデュークス。さっき話したエルドリンと、お前と同じ遠い血筋に連なる人物だ」
「へえ……そんな偶然があるんですね」
「ああ、そうだな」
「でも、考えてみれば納得できます。もしあなたたちが、そこまで親族関係の情報を調べられるのなら、僕たちが普通とは違う魔法を持っていると考えるのも簡単だったでしょう。きっと、血筋に由来するものなんでしょう?」
「おお、よく気づいたな。鋭いじゃないか!」
ベヌは自分が観察力のある人間であるように振る舞った。
だが――
実際には、ロックが適当に作った話を完全に信じ込んでいただけだった。
それを見て、ロックは内心でほっと息を吐く。
「これなら、少なくともこいつが他の二人とちゃんと接してくれそうだ。俺の面倒も減るだろう」
こうして二人は転移魔法陣へ向かった。
次なる生徒――ロックが入学させ、そして教えることになる少年のもとへ向かうために。
その道中、ロックはふと考えた。
「……エルドリンって、どんな奴なんだろうな?」




