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<#36 重い幕は今開けた>


『しゅっぱーつ!!

イエイ!』


『ほら、アホなこと言ってねぇで行くぞ』


オファルが少しだけ振り向いてそう言った

僕は空を見上げる

もう星が見えている

キラキラと輝く星

色々な形…

遠くってほとんど見えないものもある

僕が好きなのは、よくある普通の形

なんて言う形なんだろう

分からないけれど…好きな形

でも、丸っこいのも可愛くって好きだ


 ガッ


視界が揺れる

咄嗟に隣の壁に体重をかけて捕まる


『おわっ!っとっと…び、びっくり…っ』


『前向いてないから……つまずくんだよ…』


ふふっ、とラージャが笑いながらそう言った

足元を見た

地面のレンガが少し割れていた


『あっ、へへっ…おはずかしぃところを〜』


『大丈夫だよ、シアル様はそんな可愛さが武器だからねっ』


『可愛さが武器って…弱くなぁい…?』


『いや?シアル様の可愛さは世界一だからね』


『恥ずかしいなぁ…照れるっ』


『照れてる姿も……っ』


『愛おしい、ってかぁ?ハハッ!』


オファルがアルラルガの背を

バシバシと叩きながら笑った


『お前、シアル様大好きだもんなぁ?』


『もちろん、大好きな親友だよ』


『本当かぁ?そうじゃねぇだろ、ほらほら!

男を好きになるなんざ、おかしな奴だ』


オファルは歯を覗かせて笑った

意地の悪い笑い方


『俺が誰を好こうと関係ない

あの方が女だろうと男だろうと関係ないだろう?俺があの方を好くのは、ただ好きだからだ


それ以外に理由など必要はない』


『うわ…俺やっぱお前嫌いだわ…』


オファルはベーっと舌を覗かせ、両手をあげてから、眉を顰めた


『嫌いで結構…両想いだなっ!あははっ』


『ア、アルラルガ様、オファル様…

そんなイジワル、言ってはいけませんよ…?』


『おっと失礼…シュリア様のご機嫌を損ねてしまう』


『お、おう…すまねぇ…シュリア様…』


アルラルガは大人な笑みで

オファルは目を逸らしながら気まずそうに言った


(恋愛感情の有無ってすごぉーっ)


僕は思わず心の中でだが、言ってしまった

拍手しかけている手を急いで止める


すごい、僕がつまずいただけでこんなにも話題が広まった…!

つまずいて正解…だったのかも…!

いや、若干痛かったし…僕には良いこと何も無いじゃんっ!もうっ!


(あれ…シュリアが少し暗い顔してるや……)


『どうした?』


僕はシュリアの隣に移動して話しかけた

すると一瞬顔を上げたが、すぐに俯いた

そして首を振る


『なんでも…ないですよ』


『…そっか!あっ、シュリア、せっかくの旅だよ!せっかくだし…みんなと敬語無しで話してみなよ

世界、広がるよ?ふふっ


敬語の有無ってね、すごいんだよ!

上下かんけーとか無くなってさ…すっごく楽しいの、ねっ?』


『えっ、敬語無しで…?』


『うんっ!僕と話してる時みたいにさ』


『………頑張って…みます』


『もぉ…次はなんで敬語になっちゃうのぉ?

可愛い可愛いっ』


僕はシュリアの頭を撫でてから、

また同じ場所へと戻った


なんだろ、僕ってみんなの後ろ歩くの好きだよなぁ

不思議…

前歩きたいなんて思わないし…

まぁ別にいっか!

前歩けたところでなんも無いし、

みんなの前にいると…なんだか怖いんだよなぁ

みんなが知らないうちに…居なくなってしまっている気がして……


✧• ──────────── •✧


『……アル…シアル…、?おーい?あっ、目が合った……だいじょぶ?』


ラージャが僕の目の前で手を振っていた

こんなにも近くだったのに気づけなかった


『あっ…えっ…あ…ごめん…聞いてなかった

なぁに?』


『大丈夫かな…………んとね…ここで野宿しようって…』


周りを見渡すと真っ暗な森の中だった

近くで水の音が聞こえる

川が近くにあるのだろうか

見覚えのある森だったから、まだ王都の近くだと思う

違ったら恥ずかしいから口には…出さないでおこっと…


『野宿…わかった…布建(テント)、組み立てる?』


『うん』


『…あれ、?みんなは?ランだけ?今いるの』


『うん、みんな…川にいる…

シュリアちゃんは洗濯…シュリアちゃん以外の野郎共は水浴び…』


『野郎共って…そんなむさ苦しい感じやなくなぁい?あははっ』


『むさ苦しいったら…ありゃしないよ、あいつら…喧嘩ばっかだし…ほら、もう喧嘩してるよ』


川の方からバチャバチャと水の音

そしてオファルの怒鳴り声が聞こえる


『あちゃぁ…』


僕は骨組みを建てながら遠い目をした

ラージャの方を振り向いたら…

布のおばけが…そこにはいた…


『ひぅっ!オバケッ』


『た、助け…て……たすけ…シアル様…

前…見えな…みえなぃ……こわぃ…』


『…あ、え、ラン!?』


『うん…怖いよぉ……布…燃やして…良い…?』


『ダメダメダメダメダメダメ』


僕は急いでラージャから布を剥ぎ取った

そして「もう大丈夫だよぉ」とラージャの頬をつつく


『ランは弟みたいだなぁ…』


『弟…………お兄ちゃん…』


『ふふっ、お兄ちゃ…ザザッ……………ザッ……


◈┈◇┈◈┈◇┈◈┈◇┈◈┈◇┈◈┈◇┈◈


  〚おに…ちゃ…だい、す…き……〛



〚灯向っ!ぼくね、ぼくねっ〛


〚灯向っ、クッキー食べよっ!▛▒▚、食べたいっ〛


〚▛▒▚ちゃんのとこ行こっ!ぼく遊びたーいっ〛


〚▛▒▚、▞▛▒ちゃんも灯向も…みんな大好きっ〛



      〚大好きだよ、灯向……〛


◈┈◇┈◈┈◇┈◈┈◇┈◈┈◇┈◈┈◇┈◈


『ぅあ……っ……ぁ…?』


『シアル様…?』


『え……い、今…さ、っき…誰かよん、だ……?』


『えっ、ううん…あっ、今は…俺がシアル様って呼んだ…』


『そうじゃ……け、ぼ、僕の名前…僕の…僕の……

僕の……?誰…名前……ちが……え…ぁ…ああ…あ…』


『君の名前はシアルだよ……?何言って…』


頭が痛い

急になんだ…怖い…

あれ…なんだかこの前同じことを…誰かに……


お兄ちゃん…『お兄ちゃん』…?

弟…いや…僕には妹しかいない…

ヒナタ…ヒナタ…誰…だ…?

▛▒▚も…▞▛▒も……誰…名前…?子供…?

誰…だれ……わから、ない…

落ち着け

大丈夫だ

大丈夫だよ、シアル

お前はシアル…シアル・オルター……

聞き覚えのない名前でぐちゃぐちゃになってちゃ…

アル達を守れないじゃんっ

ほら、大丈夫、深呼吸…大丈夫……大丈夫………


『……はぁ…ごめん…あはは……変なのが頭過ぎってさ…少し頭痛いや……

これ…組み立て終わったら…水浴びして先、俺寝かせて……?』


『あ、う、うん……お大事に……』


✧• ──────────── •✧


『おはよ、シアル様…朝だよ…ほら、アルラルガのモーニングコールだよー…』


朝、優しい声で目覚めた

目を擦りながら開く

明るくて、緑色の光が目に染みる

俺はこれの光が好きで…よく森にいたな


『アル……?ん…おれ…眠い…………』


『お、れ…………?一人称変わって…………

あっ、こらっ、ダメだよ!シアル様っ!もう行くよ!準備して!』


『うん…アルー…起こしてぇ……』


僕……ぼく……おれ……シアル…

シアルはアルラルガに手を伸ばした

そして起き上がり、布建を飛び出した

手を閉じたり開いたりして…満面の笑みになった

水の音を頼りに、走って川に向かった

草で足を切ろうが、手を切ろうがお構いなしに走った

痛いだろうに……そんなことは無いと言うように、

無我夢中で走っていた


『あはっ……ははっ…あははっ!!』


笑いながら走って、そのまま川に出た

それでも止まらずに走って、水の中に入る

浅い川だ

足首ほどまでしかない川


 バシャ……!!パシャッ!パシャッ!

  ポタ…パチャ……パチャ……


『あはは……はは…ふふっ…』


シアルは水面に映る、揺れた自分の顔を

嬉しそうに、トロンとした笑みで見つめて

手でそっと崩した


『お、俺だァ………あはっ…幸せ………』


自分の口角の上がった頬に両手を添えて

つぅー……っとなぞってから

バシャ!っと思い切り水を天高く散らした

振り落ちる川の水が気持ちいい


僕は気付いた

…今、コイツは僕じゃない…僕じゃないダレカが

この身体の中に居て…幸せを楽しんでいる…と


シアルは「はぁ…」と甘いため息を漏らした

そして、ポタポタと水を垂らしながら布建に戻った


『あ!シアル様戻ってきた!ちょ…なんでそんなびっちゃびちゃで…その髪乾かすのに時間かかるのに……っ

ほら着替え!』


アルラルガが急いで着替えを取り出して

シアルを着替えさせる

そしてシアルの肩まである髪を梳かす

その間にラージャ達が布建を片してくれていた


『ありがとう、アル

俺ね、今、すっげぇ……幸せだ』


『…………そうか、良かったね…水遊び、好きだったんだ?ふふっ…』


『あぁ、俺な、ずっとこうやって…お前らと遊びたくってさ……ウズウズしてて…あはっ…最高…』


シアルは自分の顔を覆うように手を当てて、

歓喜に震える声でそう言った

アルラルガは少し目を逸らしていた


『そう、なら早く準備してくれ…あとは君だけだ』


アルラルガが目だけでみんなの方を見る

そしてシアルに指を指して「あとは君」と言った


『はいはーい♡』


シアルはまた嬉しそうに笑って走り出す

荷物は地面に置いたまま

それを見つけたアルラルガは手に持って追いかけた

その目付きは少し鋭くて…あまり長くは見ていられなかったっけ……


『まずは魔王城の場所……把握してる…?』


ラージャが手を挙げて質問した

みんなは顔を合わせてから頷く

「北の方だろ?」とオファルが自信のある声で言ったが、ラージャはポカンとした顔だった


『…………いや…北東……』


『同じだろ!』


『違うもん……』


『あはははっ!まぁまぁ、どっちでもいいじゃんか、なぁ?俺、楽しんで行きてぇなぁ』


シアルが割り込む

静かになる

笑っているのはシアルだけ

みんな、ほんの少しの違和感を覚えたのだろうか

……そうであってくれると…嬉しいな、僕も…


『……そうかな…少しは緊張感…?必要だと思うけど、俺…』


第一声はラージャ

ラージャはいつも怖いもの無しな性格だ

そのおかげか、空気は保たれたままだ


『俺先頭ー!勇者、なってみたかったんだ!気分だけでも良いだろぉ?』


シアルは先頭に走る

オファルを抜かし、アルラルガを抜かし、ラージャを抜かしていく

もちろん…姿も自分もどこにあるか分からない

『僕』をもシアルは抜かしていった

『僕』は立ち止まってその背中を見つめた


アレは一体誰なんだ…

あまりにも馴染んでいる…?僕の身体に…?


『僕』はアルラルガを見る

何か考えているようだった


〝アル……〟


声が出ない

…いや、出せない?


アルラルガは『僕』に気付かずに通り過ぎた

アルラルガは一番後ろを歩いていた


…その日はダレカに主導権を握られたまま

一日が終わった

その間僕はお腹も空かなければ

眠くもならない

疲れもしない

不思議な1日だった


みんなが休んでいる間

『僕』は木にもたれて座っていた

目を閉じてみる

そのままアレのことを考えていた

眠くはならないが、眠ったのだろうか

音が遠くなっていった


 ガシッ!!ギギギギ……


『がっ……あ"っ…!』


苦しかった

それで僕は目を見開いた

息ができない

首が思い切り掴まれている

暴れるも何も起こらない

強い力だった


僕はその腕を掴んだ

息もできないまま意識が飛びそうになる


『ぁ"あッ……い"ッ……か"はッ……』


ふと力が緩んだ瞬間に

僕に覆いかぶさっている奴を蹴飛ばして

僕は横転して逃げる

そして立ち上がって走り出す

無我夢中で息が切れようと関係ない

逃げなきゃ……っ


死にたくない……!!


『逃げんじゃねぇよ……このクソ野郎が!!』


走る背後からする怒鳴り声

怖い怖い怖い

……聞き覚えのある声

でも…誰だか分からない


『はっ……ぁっ…はぁっ…かっ…あ"っ……』


息が上手くできない

走っても走っても暗闇だ

ここは何処だ……

走っても走っても届かない

出口は何処だ……


 ドンッ


『あっ……!』


背中が蹴られる

思ったよりも簡単に体勢が崩れる


『お前は最低だ…!人から人生を奪っておいて…っ

俺の気持ちを考えたこと…あんのか?』


少し苦笑混じりの声で問うた

顔がグッと近付けられた

はっきりと見えた顔

……シアルだ…


『クソ……っ、早く出ていけよ…!!!

俺に返せ!!返せ…!返せ…………返して…

返してよぉ……』


顔に冷たいものが落ちてくる

ポタポタと何度も

鼻をすする音…

泣いている…?

返してって…何を……


『お前さえ…お前さえ来なければ…

俺、は…幸せでっ…ウグッ………俺がっ……シアルで…アルラルガたちともっ…ウウッ…遊べてぇっ…


お前のせいで…俺はひとりぼっちじゃねぇかぁぁ…っ!』


小さな子供のように大粒の涙を流しながら

僕に馬乗りのまま声を上げて泣いた

その間僕は何をすればいいのか分からずにいた

でも、状況整理をしようと頑張った


(…この人もシアル…?僕が来なければ………?

どうして急に僕は死んだみたいになって…幽霊みたいになってんの……?普通におかしいよね…えぇー……分からない分からない…)


シアルは立ち上がった

僕も少し後退りしながら立ち上がる

立ち上がった後も、2、3歩は下がってしまった

けれど、聞いてみる


『君は…誰……?』

#36を読んでくださりありがとうございますっ

今日はちょっとだけ謎新コーナー作ってみました!

⇓


◤ONEマイちょいっと裏情報〜!!✧︎*。◢

灯向の誕生日は、8月3日!

真夏生まれだけど、夏は苦手…

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