最終話 新生する世界
そして世界は新生し、ふたりはまた旅に出る。その肩に二羽の氷鳥を乗せて。
最終話 新生する世界
「……オアシスが枯れたか。帰るまでもってよかったな」
「そうだね。じゃあ、夜が明ける前に全てを終わらせよう」
月のない真っ暗な夜。
カンテラで足元を照らしながら肌寒い砂漠の上を飛んでいく。
「ここだ」
ある地点に枯れ井戸を見つけた僕はその中に降りる。
薄暗い地下をしばらく歩くと目的のものを見つけた。落石で水路はふさがれていたが、その先には巨大な地底湖が澄んだ水を湛えていた。
その頃、枯れたオアシスの中央に波瑠加は立っていた。
オアシスが枯れて露わになった水底には、砕け散った結界と【零の魔法使い】の骸が静かに横たわっていた。
「……もう、輪廻の輪に乗って大丈夫だよ。向こうであんたの親友が、【極南の神子】が待ってる。オアシスが枯れても、この国は大丈夫。あんたはこの国も人も憎まなかった。だから、もう終わりにしよう」
波瑠加の指が骸に触れ、崩れた骸は砂に還る。
「……おやすみ。さて、次は」
青く染まったかつての水底に向けて、彼は最大出力の浄化呪文を放った。
「かつての怒り。投げ込まれたのは青く美しい毒の石。この地をこれ以上汚さぬように、ひとつになれ!」
水底の青が剥がれ落ちて、一塊に結晶化する。波瑠加は結界で覆ってからその石を手に浄化されたその場を後にした。
「カルカンサイトは水溶性の毒だ。だから、水のない場所で静かに眠らせればいい。かつての、分身の怒りと共に永遠に」
彼は時歪帯が消え去った山脈に転移し、火口のマグマの中にその石を投げ込む。
青い煌めきは炎の海に沈んで見えなくなった。
同じ頃。
「……氷鳥王フォルディセイ様。どうかこの岩を壊して!」
〈はあっ!〉
呼び出されたフォルディセイのフリッパーアタックが一撃で水路を塞いでいた落石を粉々に粉砕する。落石がなくなると同時に巻き込まれないように枯れ井戸を飛び出した。魔法地理学によれば、この地下水脈はウシュマルのオアシスにも通じている。
あとで知ったことだが、【零の魔法使い】は大地の声を聴くことができ、その力を活かしていくつもの泉やセノーテと呼ばれる澄んだ地底湖をいくつも発見していたらしい。
そしてそれらの記録を元にしてのちの時代の人間や魔法使いは、地底湖の水を井戸から汲み上げたり、泉が湧く場所を探すことで、オアシスだけに頼らない生活をしていたらしい。
しかし、今よりも遠い昔、或る年に自然災害で地下水路が枯れ、水源の村が滅び、生き残りがいなかったせいで地底湖から水を引いていた水路の存在は忘れ去られた。その上にその村は時歪帯に近く、凶暴な伝承種のせいでだれも近づけなかった。【零の魔法使い】がオアシスを保っていたからこそ、ウシュマルだけは生き延び、砂漠地帯唯一の国に成長したが、地底湖の恵みを絶たれた街や村は全て滅びたという。
「朝までには水が戻るだろう。これでウシュマルはもう安心だな」
「そうだね。じゃあ夜が明ける前に旅に出ようか」
波瑠加と合流して一度部屋に戻り、荷物をまとめた。消えた時歪帯を超えて、僕らはこれからふたりで世界を巡る。もちろん二羽の氷鳥も一緒だ。
「ルームシェアが一日で終わると思わなかったけど」
「そこは本当にね」
月のない夜、ふたりでウシュマルを出て、砂漠地帯へ飛び出した。
行き先はわからない。全ては風と氷鳥次第だ。
ふたりが去ったウシュマルには翌朝、号外が踊った。
オアシスが一時枯れる 夜明けには復活
ウシュマルのオアシスが一時的に枯れた。
しかし、夜明けには水が戻り、水質汚染が完全に除去されていたという。
魔法会は原因の調査を進めているが、「奇跡」としかいえない、とのこと。
また今回の出来事を受けてオアシス以外の水源の確保を進めるとしている。
時歪帯も同時刻に消失したが、関連は不明。
時歪帯がなくなったことで、ルース・シェルシェの北と南の行き来がスムーズになり、今後は交易や文化交流が進むと期待されている。




