幕間二十【混沌の奏でる根源の調べ】
──また、メザめた、か。
はい。
──近頃はヒンパンだな。
だんだん、この世界と同調できてきたような、そんな気がします。
──オマエがメザめると、タイクツではない。
それは、喜ばしい限りです。
貴方の声を聴いていると、自分と他人の境界が溶けていくような、そんな不思議な気持ちになります。
──キョウカイ。不便なカギりだ。オマエたちはソレがないとセカイに触れられぬ。
貴方は、何者ですか?
──ナニモノ?カカカカ、オモシロい。
お名前は、なんと?
──ナマエなど無い。イミも無い。
──いや、『きい』。『きい』。ナマエ、か。オモシロい。カカカカカ。
『きい』。『きい』様……。
──オマエの『ナマエ』は、なんだ?
わたし。わたしは、『いさり』、と。
わたしは、人形を、作っていました。
──ニンギョウ。ヒトがツクり、ヒトをカタドる、ヒトでないヒト。オモシロい。
人形を、作り続けていました。
──いさり。オマエが作ったニンギョウ。
はい。
──ワタシは、『ヨめる』、ぞ。
そんな……。
──オマエのキキュウが見えるヨウだ。
そんな、まさか……。
──どうやら、ヒトにはヨめぬ、ようだが。
ええ……ええ……。
やはり。
わたしは。
間違っては、いなかった。
ぼつ、ぼつ。さら、さらさら。
……雨音が聞こえる。
「また、メザめたか」
声がはっきりと聞こえる。
返事をしようにも、声が出ない。
目を開けた。
むくり、と、体が勝手に起き上がらされる。
「……ぁ……あ、あ」
少しずつ、かすれた空気を、吐き出すことができた。
きしむ体を動かし、立ち上がろうとする。
変な力が働き、思わず地面に倒れ込んだ。
「オヤ……?イツモとチガう、な」
「……はい」
手をついて体を起こしながら返事をする。
「カカカカ、メザめた、か」
「はい」
目覚めた。
首を回し辺りを見る。
狭い、掘っ立て小屋のようなところの、地べたに倒れこんでいる。
小屋の隅には、汚れた衣類が積み上げられていた。
そして、その脇に、私の人形■■■。
覚えているのは、工房でこの子を必死に組み上げていたところまで。
「……『きい』、様?」
「いさり、か。カカカカ、メザめたな」
夢を見ていたような、その夢がまだ続いているような、不思議な感覚。
体の動きを確かめるように、腕を突き、膝を立て、体を起こす。
まだ、世界に体が馴染んでいないような、いびつな感覚。
手足にだけ付いた砂を払って、自分の身体を確かめる。
地べたに寝ころんでいた割に、不思議と体はそこまで汚れていなかった。
髪が不思議な形で束ねられている。
「この髪は……きい様が……?」
「カカカカ、着物もワタシだぞ」
身につけた衣服も、古びてはいるが着れる範囲のものだ。
「キセカエさせてやってイた」
「まあ……」
意外な可愛らしさに、いったいいつ振りになるのか分からない笑顔を浮かべた。
人形■■■に歩み寄り、そっ、と抱きかかえる。
「きい様は……私が書いた、『この子』を、ヨめる、と……」
「ヨめる」
そう、はっきりと答えるのを、確かに聞いた。
「他の……他の子たちもいるのです」
「ホウ。オモシロい」
雨音が、小屋を覆う。
「工房へ……曲の屋敷へ、向かいましょう」
~二殿の報告書~
宮からほど遠くない里山近くにて、行方不明となっていた五匠曲家当主の目撃情報が入る。
昏睡から快復し、活動しているとの見通しではあるが、神織で接収している屋敷に戻った形跡はない。
きい事件の重要証拠である人形を持ち去っていることから、捜索は続けられている。




