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幕間十七【看板むすめと、巫女様のきらきら衣装】

今日も元気なまるやのむすめ

あたまの上にはおだんごふたつ

ぴかぴかひかる串さした

かんばんむすめのまちちゃんさ

門前町に特設舞台を構えての、近年稀に見る盛大なお祭から数日。

まだ日も登らぬうちから、ぎらぎらした目を爛々と輝かせながら、まるやのまちは布団からがばと跳ね起きた。

あの日感じたどきどきが、あの祭の最終日から覚めやらぬまま、今朝まで続いている。


十日を越える祭の期間、ひたすらに団子と肉まんを焼いては売って、焼いては売って。

しまい込まれてぴかぴかだったまるや秘蔵の鉄板も、肉の跡が付くほどには酷使された。

仕込みに仕込んで、二階の住居まで積まれた団子の粉も使い切り、最後の日には店を半日で閉めることとなった。

まちは、急にできた暇に、わくわくしながら舞台の見物に出かけた。

「わああ……」

まちは、あんぐりと口を開けたまま瞬きすることも忘れていた。

つやつやの舞台で舞う、高位の巫女様たち。

一宮様から三宮様までが勢ぞろい。こんなこと、数年に一度の祭でもなかなかないのに。

三宮のさい様のころころしたかわいらしさにむずむずしたり、二宮はり様のこの世のものとも思えないピンとした舞にはらはらしたり。

いつもは眠そうなくれん様も、その日ばかりはしゃんとして、不思議な魅力にあふれている。

そして何と言っても、最後に登場した一宮のあさめ様。

いつも優しい微笑みを絶やさない巫女様の、張り詰めるような剣の舞。

美しくて、すこしだけ、怖いほどの気迫。

ふわふわの袖、きらきらの帯、揺れるたびに光をはなつ髪かざり。

まちは、すっかり巫女様たちの美しい衣装のとりことなったことに、この時は気付きもしなかった。


まだ家族も目覚めぬ早朝から、そわそわと外の掃き掃除を終えて開店の準備を整える。

卓上を拭き上げながら、袖を翻してくるりと回ってみる。

窓辺から差し込む朝日が、拭き上げた卓からキラリと返る。

きらきら。

くるくる。

……そうだ!!

まちは、ひとつぽんと手を打つと、昼までの仕込みに入った。

祭の盛況もひと段落した今日はそこまでの人手はいらぬだろう。

日が昇りきるのを待ちかねて、のれんをかかげると、店は寝ぼけまなこの番頭さんに任せて町へ飛び出した。


ぼちぼちと開店の支度を進める店々の先を、拍子を取りながら軽やかに駆ける。

目指す先の店は、女将さんが店前に水を打ちかけ開店準備の最中だ。

「おはようございます!!」

そんなところに腹から声を出して挨拶する。

「あんれ、まるやさん、今日も元気ですねぇ。え、うちにご用事?」

「はい!今日はまるやのお仕事で!」

「あれまぁ、じゃあご接待しないとねぇ。どうぞお入り」

立派な構えの戸を、女将さんに付いて潜る。

その真正面。

一段上がったところに掛けられている立派な打掛の、織り込まれた金糸の輝きが、まちの瞳に飛び込んでくる。

これ!これよ!!

女将さんがお茶を入れてくれるのを待って、おおきな商談の段取りを、腹の中で組み立てた。


ほくほく顔で店を出たまちは、休む間もなく次の店へ。

そうして町内の店を回りに回り、帰ったころには日暮れも近かった。

暇そうに火の番をしている番頭さんによれば、ぼつぼつと客入りはあったようだが、祭の後ということもあり、大層暇だったそう。

やはりこれは……私の腕の見せ所だ!と腕まくりをして、今日のところは店じまいに取り掛かった。


そして翌日。

のれんを掲げるのを待ち構えて、ガラガラと音を立てて荷車が店先にやってきた。

待っていました。

ぺろりと舌で口を舐めあげ、ひとつずつ検品して、手近な卓に並べていく。

織り込まれた金糸や銀糸。見る角度で玉虫色に色が変わる見事な色合い。

ふわふわ、きらきら、豪華けんらんな反物の山がみるみる積み上げられていく。

次の荷車もまた赤・橙・紺・黄の染め上げられた見事な反物を下ろして去っていく。

「『まるや』さん、まいどありー!」

威勢のいい声と共に、荷を引いた若い衆がまた反物の山をどっさり運んでくる。

店先の騒ぎに気付いた女将が階段を踏み鳴らして駆け下りてきた。

「何の騒ぎだい、いったい!」

そして積み上げられた反物の山を見て目を見開いた。

「まちっ!これはいったい、どういうことなんだい!!」

雷のような声が、まだ誰もいない店中に響き渡る。

まちは勢い良く立ち上がると、胸を張り手を胸元に当てながら顎を少し上げて得意げに話す。

「おかあさん、きいてよ! これでね、巫女様みたいな衣装をつくって、あたしたちが着るの! そうすれば、お店は、もっともっと、はやること、うけあいだよ!」

「こ……この、大バカむすめがーっ!!」

話を最後まで聞くまでもなく、女将は大声を上げて反物を一つ一つ手に取り見つめていく。

「うちみたいな、ちいさな甘味処が、こんな、城でも建てるみたいな値段の布、どうやって払うんだい! この反物ひとつで、お団子が、何百本、売れるとおもってるんだい!」

「ええー! でもでも、先行投資ってやつだよ!」

「 なんだい、それは! へりくつを言うんじゃないよ!ああ、ああ……これなんか噂に聞いた、あかねさんちの秘蔵の南織り……あんたこんなもんまで……」

「『まるや』のツケで!って言ったら二つ返事で出してくれたよ!」

「あんたは!何も分かってないわね!!」

焼き場の奥から、おずおずと顔を出した番頭さんが、恐る恐る声をかける。

「お、奥様、まぁまぁ、その辺で……まちも少しは反省して……」

「番頭さんは、だまっとおなり!!まったく、この子は誰に似たんだか……!」

番頭さんはひえっと肩を上げて、また焼き場に身を潜めた。

「全部、そっくり返しておいで!!」


こうして、まちの「きらきら巫女さん計画」はあえなくつぶれることとなった。

山のような反物は、一反からのこらず、呉服屋さんへと返品。

まちは、女将さんから、こっぴどく、こんこんと、三日三晩、お説教をくらう。

そして、その後三カ月間、お給料なしで、朝から晩まで死ぬ気で働かされることになるのであった。

「はあ…。三階建てのお店への道は、けわしいわい…」

お店のすみで、しょんぼりとお団子をまるめながら、まちは、ちいさく、ためいきをついた。

~二殿の報告書~

祭事の際に溜まりに溜まった業務が押し寄せてくる。

昼に外にも出れず、朱印を押し続けた。

昼過ぎに顔を出してくれた、たけみ様を追い返してしまった。

後日様子をうかがいに行く。

祭事の後ということもあり、門前町は落ち着いた様子であるという。


近々、北方に遠征に出ていたすい様の部隊が帰還するようだ。

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