幕間四【太平なる世はこともなし?】
今日も元気なまるやのむすめ
あたまの上にはおだんごふたつ
ぴかぴかひかる串さした
かんばんむすめのまちちゃんさ
ここはお宮の門前町!
太平なる世はこともなし!
さあ、今日も張り切って営業開始!
神織の宮の門前町。その一角に佇む甘味処「まるや」の娘、まちは店の前を掃き清めると、手にしたほうきを店の入口のわきに、でんっと置いた。
番頭さんがその様子を眺めながら店の中からのれんを出してくる。
いつもと変わらぬ朝。青く澄み渡る空に、穏やかな風。
今日もいい一日となりますように。
今日最初のお客様は、よく宮の門の前に立ってる武官さん。
たまにお店に来てくれる。今日はお休みなのかな?
「聞いてよまちちゃーん」
武官のお姉さんは、乗り出すように話しかける。
「どうしたんですかー?」
お茶を入れながら聞き返す。
「さいきんすい様にお会いできてなくて……」
およよよと両手を目に当て泣きまねをする。
「すい様、すごい強いってうわさの武官様ですよね?」
そのうわさはこの店にも轟いている。
なんでも武官同士の手合わせで一度も負けたことがないそうな。
「そうなの、このところ何かのお勤めなのか、宮にもなかなか帰ってないんです」
聞きながら、焼けたお団子に、特製の蜜をたっぷりかける。
お姉さんの前にその団子を差し出しながら答えた。
「武官様がお忙しいとは、物騒なことでも起きてるんですか?」
お店に関わることなら一大事。
しかし、特にそんな様子もなく、お姉さんはお団子に手を伸ばす。
「世はこんなに平和なのに……」
「お茶のお替り入れますね~」
空になった湯飲みを手に取って、お店の入り口からも目は外さない。
お姉さんはお団子を頬張りながら、一人で勝手に続けている。
「鳥陽のたけみ様とお出かけされてから、だもんなあ。たけみ様もなんだか焦ってらっしゃるようだし、あの二人、もしやなにかあったか……」
「新しいお茶ですよー」
新しい湯のみに熱々のお茶を入れ、お姉さんの前へ、と
「こうしちゃおられん!情報通のすずささまのところへいってくる!!」
がばと立ち上がると、お代を置いて颯爽と出て行ってしまう。
「あ、お茶…」
「そのお茶はおごるわ、まちちゃん!またお給料日に来るからね!!またね!」
振り返りながら言うと、もう姿を消していた。
ずずずず、とお茶をすする。
平和、ありがたいことだねぇ。
「すずささま!しつれいします!!」
どっかんとブチ開けられる戸に、思わずびくっとするすずさ。
「な、なにごとですか」
思わず口をついて出た。振り向くとまだ年若き武官が部屋の入り口に立っている。
「雨月のすい様のことですよ~!何かご存じですか……!」
遠慮なく入ってくる彼女の態度に、わずかに身が引ける。
「突然なんですか、失礼じゃないですか」
気を取り直し、眼鏡の位置を片手で直しながら、毅然として、問い詰める。
「すずさ様なら、当然何かご存じですよね!ね!」
この武官は、一切物おじせずに詰めてくる。
「い、いや、まぁ、何やらどこぞの村へ毎日足を運んでいるとか…」
勢いに押されて、聞いたような話を伝えてしまう。
「たけみさまとは!?たけみ様とは何かあったんですか!?」
「なんでも五家の絡んだ件でご一緒にその村へ行かれたとしか知りませんよ」
ぶっきらぼうな口調になるが、相手はそのあたりは気にならないらしい。
「ご一泊なされたんですよね…あああ、やっぱりそのときなにかが…!!」
どうにも話がかみ合わない。
「もう、こちらは仕事の最中なんです、はやく出て行ってください」
追い出すように言うと、さらに身を乗り出して念押しされた。
「またなにか、進展があったら教えてくださいね……!ね!!」
「ああもう、分かりましたから」
結局そんな返事をさせられる。
ようやく静まる室内。楽し気に肩を揺らしている見習い巫女をじろりとにらむが、威厳はない。
しかし、あのすい様とたけみ様が……たけみ様はまだお若かったはずだが。
……と、あの娘の憶測です。しかし村の件は気になりますね。少し探りを入れてみましょうか……。
すずさは資料を手に抱え、一宮の執務室を訪れた。
「あさめ様、頼まれていた北部の巡幸についての資料、こちらにご用意しております」
あさめは視線も向けずに答える。
「ありがとう、さすが早いですね」
すずさは、すぐには立ち去らず、あさめに声をかけた。
「いえ。少し、小耳に挟んだのですが」
「なんでしょう?」
あさめはこちらを向いて、その先を促した。
「武官のすい様とたけみ様が、あの村へお出かけになられた件、五家が絡んでいるとか…」
おそらく一宮であるあさめ様ならば何かご存じだろう。
あさめは少し考えるように手元を見つめると、改めて顔を上げて言った。
「そうですね……私たちにも関わりが出てくるかもしれないからお伝えしておきましょうか」
「私たちにも、ですか」
意外な返答だった。五家のうち二家が関わる出来事に巫女である我々が関係するとは。
「ええ。くれんが会ったという「不死の巫女」その人の確認と、神織への勧誘に行かれたと聞いています。」
「例の、不死の巫女、ですか……また、御大層な……」
相変わらず、真相の知れない眉唾なものだ。
「ええ、真偽は定かではないわ。ですが、神織に来られるとなれば、巫女としてお迎えせざるをえないでしょうね」
不死の巫女、「巫女」というからには確かにそうなるのだろう。
「なるほど、それですい様は毎日……ありがとうございます」
礼を言って立ち去ろうとしたとき、部屋の奥から声がした。
「なになにー、コトワ、こっちにくるの?」
一宮のくれんである。
「くれん。聞いていたのですか。すい様の働きいかんによっては、そうなりそうです」
「ふーん」
興味があるのかないのか、相変わらずこの人の考えは読めない。
「なんかぴかぴかしててすごかったよ」
一切何も伝わらないその言葉に、思わずかけた眼鏡がずれる。
「くれんさま…それはいったいどういう……」
礼をして部屋を辞すると、赤い柱の並ぶ廊下を進みながら、昼下がりの空を見上げた。
不死の巫女の勧誘。
あの武官の言うような浮ついた話ではなさそうだ。
太平なる世はこともなし。
どこかで鳥が鳴く声が聞こえる。
~二殿の報告書~
本日、武官”りん”による訪問あり。
関連して先日の五家の動きに関する情報を獲得。
「不死の巫女」の勧誘。
上層部では想定以上に重く受け取られていた。
重要度を上げる必要がある。




