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【師と弟子と 三】

瞼を貫く閃光と耳をつんざく爆音、そして信じがたい衝撃。

全力で防御を張った上で吹き飛ばされる。

呼吸もできず上も下も分からぬまま防御だけは切らさぬようされるがままに吹っ飛ばされる。

10は超える多重防御陣も8割は瞬時に蒸発した。

熱が、衝撃が、こちらに突き抜けぬように、ひたすらに防御を重ね続ける。

背に衝撃を受け、自分が斜面にたたきつけられたことを知る。

変質し白熱した空気が周囲全体を覆うさまを、眩んだ目で防御の内から呆然と眺める。

衝撃が収まっても、張った防御をしばらく解くことができなかった。

熱せられた大地が、空気が、あたりを潤わすかのように景色を揺らめかせる。

赤熱した大地から白煙が立ち上る。

肺が、焼ける。

炎熱防御魔術でも熱せられた空気を完全に遮断することはできない。

斜面に打ち付けられたまま、顎を引き、爆発の中心に目をやる。

目の前には、衝撃を物語る広大な窪みが出来上がっている。

大地が溶けて焦げ臭いにおいが辺りを蔓延している。

中心地は跡形もなく、周囲の木々もなぎ倒されている。

地に倒れ込み天を見上げた。

白煙が天を衝くように立ち上り、巻き上げられた塵が、稲光を呼んでいる。


せな。

九元。

力なく手を伸ばす。

目の前にあるが、手を伸ばした指先からすり抜けていくような感覚。

今、確かに眼前に九元の片鱗が現れたのだ。

伸ばした手を、ぐっ、と握りしめる。

何も掴まぬその指先。爪が食い込む痛みだけが実感として残る。

しばらくの間、そうして動くことができなかった。


今朝動き出したときには、このような事態は想像もしていなかった。

早すぎる増援を見たときから、異変の予兆はあったか。


────────


上り始めた朝日が眼前に立ち上る霧に山の影を落とす。

山頂から南の街道を見やると、川の向こう。微かに上がる土煙が見えた。

増援か?早すぎる。

いや、カミオリにはセナがいる。

……と考えれば、霧が見つかるのは道理か。

まだ断定するの早いか……成果を挙げねば作戦の意味がない。


霧に包まれた内部の様子はメリーヌ自身にも分からない。

懐に忍ばせた合図用の花火を触る。

こういう合図はシンプルにするに限る。

川向こうに姿を現した軍勢は、ひと固まりになって霧に飛び込んでくる。

統制された軍隊であることは一目でわかる。

霧で分断できれば脅威にはなるまい。

しかし……。


「せんせいっ!!」


……。

……やはり、生きていた、か。

ここに来るとは。

当たってほしくない予想ではあったが。

一人で来たという事は考えづらいだろう。

あの部隊の中にいたか。

……カミオリのミコ様、か。

「ならば、私の『敵』、ということ、だ」

動かぬ、か。無理もない。

「勝ち目のない敵に遭遇したのに即座に退かぬところ、お前の悪い所だ」

タントートーはこの世界でのライフラインだ。

早すぎるが合図を打っておくか。壊滅は防がねば。

あえてセナには背を向け、手にした花火に火をつける。


ひょろろろろ

ぼん、ぼん


「退かぬところ。悪い所だと言っただろう」

まだ動けぬか。甘い。

「せんせい!!お話しが……!!」

「『神織の巫女さま』は、戦場でも悠長なことだな。ああ。積もる話はあるだろう……だが」

戦場で語り合えることなどない!その甘さ、師として正さねばなるまい。


杖を指し示すことで、光の剣を襲わせる。

セナは一足飛びに飛びのき、初撃を交わすと、そのまま地を蹴り狙いをそらしてくる。

ブーストは使えるか。だが。

手数はこちらが圧倒的に有利だ。

2本の剣をセナに避けさせ、その先へ3本の剣を差し向ける。

その直後、セナが魔具を振るうとともに、見慣れぬ青紫に輝く光に光の剣がはじかれた。

セナも光の剣での相殺を狙うかと思ったが……。

「……ほう、面白い。私の術をアレンジしたか……?」

あの光は純粋魔力の圧縮、魔弾に近いか?

「いいぞ、全力で来い!!」


光の剣で空間を制御しながら、魔弾による削りを加える。

おそらくセナは初めてさらされるであろう、戦場での高位魔術師の基本戦術。

防御魔術は常時展開はできても、常時削られ続ける防御を保つことは別物だ。

光の剣によって斜面下へ追い込む。

安易に上を取られすぎだ。もはやこの劣勢は覆らぬぞ。

光の剣をうまくさばきながら、林へ逃げ込むそぶりを見せるセナ。

遮蔽物を利用するのは定石だ。が。

やれやれ、そうはうまくいかないのが常だ。

収束した魔砲により、木々を打ち倒す。

直接撃ち落とすのも簡単だが。

む?

外したか。


……しかし、アレンジした術による捌き方以上に……。

想定以上によく避ける。

「こうまで避けるとはな。セナ……九元のチカラか?予知?いや確率の操作か?」

私とて百発百中とはいかぬ、が、思った以上に狙い通りにいかぬ。

外れる率がいじられているような感覚。

セナが足を止め防御に徹した、その直後。


「……我が身は砕け、銀河と識る」


「む……詠唱か」

防御を砕くべく光の剣で圧をかける、が詠唱は止まらない。


「我が血は巡り、星辰を掴む……」


「これは……!!『九元』の力を使う気か……!」

間違いない、この言葉の連なり、並の魔術ではない。

グワジン師の九元魔術が嫌でも思い出される。

予測される最大の結果は、「規格外」だ。

存在ごと消されかねない恐怖を初めて感じる。

可能な限りの防御を張っても確実ではない。

セナは何を生み出そうとしている??

メリーヌを慕うセナの屈託のない笑みが脳裏に浮かぶ。

私は「全力で来い」と言った。それに全力をもって応えようとしている。

慢心は、ない。


「──『コロナ』!!!」


────────


周囲の熱が収まりだしたころ、立ち上がり改めて辺りを見渡した。

巨大な窪みはところどころガラス化した大地がきらめきを放っている。

並の炎熱魔術ではない。

セナは、「コロナ」と叫んでいたか。

ぼつん、と帽子のつばに何かが落ちる。

次第にぽつり、ぽつりと、ぬるい雨が降りだした。

巻き上げられた土砂を含んだ黒い雨。

……セナは?

あの爆心地に無防備でいたのだ、無事ではすむまい。

蒸発したか……?

いや……。

窪みの外側、倒れているものが居る。

黒い雨に打たれるまま、ピクリとも動かない。

未だ蒸気を上げる巨大なくぼみを避けて歩み寄る。

セナだ。

まだ下ろしたてに見える奇妙な衣装が、地面の土と降り注ぐ黒い雨に汚れてしまっている。

しゃがみこみ首筋にそっと手を当て脈をとる。

生きている。これも九元の力なのか…?

さて、どうしたものか。

この爆発、関所からも見えているだろう。

残っていた霧も吹き飛んだ。

せなを、連れて行くか……?


「せなさんから、離れなさい」


その声に振り向くと、長柄の刀を構えた神織の武人が、こちらに刃を向けている。

「……ほう」

一分の隙も見せぬ堂々とした構え。その辺の雑兵ではなさそうだ。

「状況は分かりませんが……倒れているせなさんを、私は連れて帰らなくてはならない」

「……それで?」

相手の目を見据えたまま、あえて挑発的に問い直す。

「あなたがマジュツシならば、せなさんの関係者なのでしょう。ここで退いていただけませんか?」

武人は臆することもなく刀をこちらに向けたままそう言った。

口調は丁寧だがその目は、研ぎたての剣のように剣呑だ。

「……それはさせん、と言ったら?」

メリーヌは杖を地に突き、周囲に光の剣を無数に浮かび上がらせる。


武人が地に付けた足に力を込め、踏み込んだのに合わせ、光の剣を一斉に差し向ける。

しかし、その剣は一つは空を切り、二つは叩き落される。

刀の振りに合わせ弧を描くように次々と斬りこみながら突っ込んでくる。

恐るべき神速の立ち回り。

襲わせた光の剣は一本ずつ片っ端から叩き落とされた。

眼前まで迫る武人を目前に、光の剣の動きを止めた。

そのメリーヌの首元には、ぴた、と当てられている刀の刃。

「見逃してやる、と言っているんです」

その静かな目は確かに怒気を含んでいる。


メリーヌは両腕を上げ、すべての光の剣を消失させた。

「ここはお言葉に甘えて見逃していただこう。わが弟子が目覚めたら、感謝していたと伝えてくれたまえ。」

「……弟子?」

「おそらく九元に近づきすぎた愛弟子だ。よろしく頼む」

そう言い残し、ふわりと浮かび上がりその場を後にした。


黒い雨が降り注ぐ中、後には倒れたままのセナと、力なく立ち尽くす神織の武人だけが残された。

~二殿の報告書~

仙境中の街道には各所に神織が関所を設けている。

関所の通行には通行税の支払いが求められる。

遠方の村々では「宮講」と呼ばれる共同出資での宮参りが行われる。

そのため宮には年中参拝客が絶えない。

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