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幕間十五【伝説の決闘と、看板むすめの推理】

今日も元気なまるやのむすめ

あたまの上にはおだんごふたつ

ぴかぴかひかる串さした

かんばんむすめのまちちゃんさ

あちこちで釘を打つ音、かんなを掛ける音が響く。

方々から聞こえてくる威勢のいい声。

祭事に向けた特設舞台が大急ぎで組まれている。

そんな神織(かみおり)の宮の門前の広場を、空になった風呂敷を翻しながら通り抜ける。

来たるお祭に向け、否応なしに期待が高まり、心なしか歩む足が軽快になる。


「たっだいまー!配達、いってきました~!」

のれんをくぐりながら元気に声をかける。

祭もまだなのに、店内は関係者でにぎわっているようだった。

風呂敷を脇に置くと、すぐに前掛けをして番頭さんとお手伝いさんに合流する。

焼きあがったつやつやてかてかのお団子を見ると頬が緩む。

すぐさまお団子を運び、空いたお皿を下げ、お茶を汲んでお届けする。

そんな合間に今日も聞き耳を立てて噂話の情報収集。

西宮(にしのみや)様、お祭で舞われるらしいよ!こっちで見れるとはねぇ!」

「もうお宮に来てるんだろう?なかなかお会いできないからね、たまには顔出してくれないかねぇ」

ふふふふ。

先日起きた、『宮様お茶会事件』を思い出して、一人にやけている。

まさか日暮れも近いあんな時間に、一宮(いちのみや)様から三宮(さんのみや)様までお揃いで来られるとは……!

和やかな空気だったとはいえ、二宮(にのみや)様同士は……仲が悪いのかな?

緊張しつつも、みんながお団子でにこにことしてくれたのは良い思い出だ。


「聞いたか、今話題の……」

こちらでヒソヒソお話する宮の役人様たち。

これは聞き逃すわけにはいかない。

隣の卓をきゅっきゅと拭き上げる振りをしながら意識は耳に集中する。

「ああ、あの、雨月(うづき)すい様が、九宮(くぐう)様とやりあったってやつだろう?」

「やりあった、なんて生やさしいもんじゃねえ! 九宮様の腕が、ぽーん、と飛んだって話だぞ!」

「ひええ! まことか!? それで、九宮様は……」

「それが、けろりとしてたって言うじゃねえか。さすがは、不死の巫女様だ……」

「で、結局すい様が勝ったってんだろ?」

「いや、俺は九宮様が勝ったって聞いたけどな」

「なんだか、結局、一宮様が、雷を落として止めたとか……」

ひえええ!!

すい様が、九宮様の腕を!?

ついこないだ九宮様が来たときは、ピンピンしてたのに……。


「おーい、まちちゃん、いるかい?」

のれんの向こうから声がかかる。

「はいはい!こちらですよ!」

そう声を上げながら表に出ると、何やら大荷物の、宿屋ときやの若旦那、こうさん。

「よかった。これ、町会で買った、祭事のお札、まるやさんの分だよ」

「あらまぁ!このお祭でお配りされるって噂の!もう出てたんですね!」

まちは両手でありがたく、その札を頂戴すると、額の前に掲げて見せた。

「ははは!……そ、それと一緒に売ってた宮の木札の根付。よかったら、これも、どうぞ!」

「あら、いいんですか!わっ、かわいい!ありがとうございます!」

まちは花の模様に掘られた木札の根付を受け取ると、礼もそこそこに袂にしまい込んだ。

「まだそれだけ配るんですね!頑張ってくださいね!」

笑顔で送り出すと、こうはもじもじしながらも、振り返り振り返り去って行った。


お札を張り出す場所をどうしようかと考えていると、後ろから元気な声が響いてきた。

「おじゃましまーす!」

反射的に振り返りながら笑顔で挨拶。

「はい、いらっしゃいませー!って、りふぁちゃーん!」

駆け寄ってきたのは小鬼のりふぁ。

二人は片手を合わせて挨拶する。

りふぁは、厨房に面した席に遠慮なく掛けると身を乗り出しながら元気に注文する。

「まち!お団子!いちばん安いの!!」

「あいよぉ!」

「まちまち!きいてきいて」

注文と一緒に、待ちきれない、という風に話しかけてくる。

「この間ね、ウチとせなが、すい師匠に稽古つけてもらったんだけど、やりすぎちゃって、大怪我しちゃったんだ!」

「ええっ!? 大丈夫なの!?」

「うん、もうへっちゃら! でもね、その後が、すごかったんだよ!」

りふぁは、声をひそめる。

「コトワ様がね、ウチらのお礼参りだって言って、すい様と、ホンモノの試合、したんだって!」

「うんうんうん、その噂、あたしも聞いた!」

「すい様、コトワ様の腕、ちょんぎっちゃったんだって! しかも、髭切(ひげきり)も、うばって!」

「ひえー! やっぱり、本当なんだ!」

ふたりは、顔を見合わせて、きゃあきゃあと、声をあげる。

そんなこんなの間に番頭さんがつやっつやに焼き上げてくれたお団子を受け取って、りふぁに差し出す。

「はいよ、お団子おまちぃ!」

「これこれ!」

ニッコニコでお団子を頬張るその顔を見てるとこちらの頬も緩んでしまう。

その横顔を見つめながら、ぽろり、とこぼす。

「もしかして、九宮様は……」

「んん?」

お団子を頬張りながら、りふぁがこちらを向き直る。

「あ、いや、ね。もしかして九宮様は、りふぁちゃんをケガさせちゃったすい様が、思いつめないように、って。それで、すい様の本気を引き出してくれたんじゃないかなぁ、なんて!」

言ってて恥ずかしくなって顔を手で仰ぐ。

「りふぁちゃんの顔を見てたら思っただけ!」

「そっかぁ……コトワ様、そんなことまで考えて……。帰ったら聞いてみる!!」

「やだぁ!やめてよ恥ずかしい!!」

やっぱりきゃあきゃあと騒ぎ合うのだった。


お祭に向けて、町はどこも落ち着かない雰囲気だ。

きっと、仙境中のあちこちからいっぱい人が来るんだろうな。

うちもお祭に向けて、いっぱい仕込んでおかなくちゃ!!

まちは、暮れる日に照らされる宮の重なり合う屋根を眺めると、そっとのれんを外した。

~二殿の報告書~

祭事当日のはり様の特別看護に関する引き継ぎ。

これまでの打ち合わせ内容と当日の動きについて。


祭事に合わせて北部における、きな臭い噂が立ち始める。

武官から直接の情報ではないので定かではない。

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