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【林の邂逅】

門前町から北。

街道からはずれた林の中。

風が木々を揺らし、湿った空気が肌を覆う。

すぐそばに、あの賑やかな門前町が広がっているとは思えぬ静けさに包まれている。

木漏れ日の中、せなは大きく深呼吸をした。


コトワの屋敷での生活では、意外と一人になる時間が少なかった。

屋敷で暮らすにあたって、りふぁと共にコトワの身の回りの世話と、家の仕事を手伝っている。

炊事や洗濯、掃除から日用品の買い出しまで、できる限りは動くようにしている。

実際のところ、動いていなければ何をして良いのか分からない、ということもあった。

あちらの生活のように教えを受けることもなく、かつてのように社に勤めることもない。

コトワは「好きにしろ」といっているが、手持ち無沙汰なのが実情だ。

せんせいの消息については確かめたいが、これといった手がかりも無い。

りふぁとの稽古は、実は、せなにとってもありがたいものだった。


今朝、塩が切れたので買いに出ようとしたところ、りふぁが宮まで取りに行ってくれることとなった。

その後、コトワも使いに呼ばれ、宮に上がっていった。

突然時間が空いてしまったため、久しぶりに一人で魔術の訓練に励もうと、こうして町の外まで出てきた。

かつては毎日重ねていた訓練だが、こちらに帰ってきてからはほとんどできていなかった。

あまり人の目につくところで魔術を使い、変な注目を集めるのも気恥ずかしい。りふぁ抜きで武官様方の訓練所に行くのも気後れしてしまう。

せんせいの塔が、訓練向きすぎたんですよね……。

ここには訓練相手の自動人形もないが、ちょうど良い切り株があったため、訓練相手に見立てることにした。


光の剣。

私が同時に出せるのは6本まで。これを増やしていくのが当面の目標だった。

理想的には魔弾同様にこの剣での攻撃を厚くできれば、魔弾と合わせてほとんど隙がなくなる。

せんせいの戦い方に一歩近づくことができる。

腰に履いた魔具を鞘から抜き放つ。

片手剣にしては柄が長い、特別な形状の魔具。

右手に持ち、左手を刃に添えて構え、意識を研ぎ澄ます。

辺りの魔力が、周囲に渦を巻き、集中するのが「見える」。

魔弾と同じ魔力操作の基本。

集めた魔力を、光の集合体へと変質させる。

そして鋭い剣のイメージ。1、2、3……6本。

せなの周囲に6本の光の剣が音もなく浮かび、ぐるりと円を描くように回っている。

そして……7本目。

新たな剣を出そうとすると、それまで出ていた剣の光が急速に拡散し、形状を保たなくなる。途端に全ての剣が音もなく霧散する。

「はぁ、はぁ。やっぱり……」

剣の生成に集中するあまり、呼吸が浅くなっている。


気を取り直して、再び集中。

再び6本の剣を生み出す。

生み出すだけでも精一杯、だが。

魔具を振り、切り株に向かって6本の剣を次々と放つ。

時間差をつけて1本ずつ斬りつける。

ここまでは、できている。

生成も、操作も、これ以上の数になると形をなさなくなってしまう。

おそらく「数」じゃないんだろうな……多分せんせいは剣の数なんて数えてないと思う。

じゃあなんでこの数本程度で生成ができなくなってしまうのか。

魔力自体と光魔術への理解度が桁違いなのか。

せんせいは光の剣の出し方については教えてくれたが、それ以上のことまではまだ教わっていない。

学校を正式に卒業したら、具体的に教えてくれると思っていたが、それも叶わぬまま、こうして仙境への帰還を果たしてしまった。

なんだか、何もかも中途半端だな……。


その時、ガサガサと茂みをかき分けて何者かが近づく音が聞こえてきた。

ハッと、音のする方を振り向く。

すると、一人の女性が、街道を外れ林の中へ入り、こちらに向かってきていた。

スラリとした長身に、束ねられずにダラリと垂れ流された長い髪。

その髪の間から、目を閉じ表情の浮かんでいない顔が覗く。

そして、その手には大事そうに、精巧な人形が抱えられている。

その無機質な瞳が、こちらを確かに見据えている。

そうした異様な姿よりも、何よりも奇妙な現象が「見える」。

人形を中心とした魔力の揺らぎ。

魔術……?仙境に……!?

茂みの中で立ち止まった女性は、目を閉じたまま、こちらを向き立ち止まっている。

「な、何か、ご用ですか?」

せなは恐る恐る尋ねてみた。

返事はない、と思った。

しかし、その時、「声」が響いた。

「カカカカカカ。オモシロいモノを見た。マジュツ、というのだろう?」

女性の口は動いていない。

この、「声」は……人形から……?

「シっている、ぞ。このセカイで見ることになるとは、な」

やはり、魔術師……!

この人もあちらの世界から!?

「あなたは……」

せなは魔具を握る手に力を込めながら問う。

「何者ですか……?」


が、相手はその問いには答えなかった。

「しかし、フシギなコトをしている、な。」

相手の真意が掴めない。下手に動くわけにもいかず、その「声」を聞いた。

「オマエには、『見える』のだろう?ならば、ゲンショウに変えずとも、そのまま『動かせ』ばヨイ」

何を、言っているんだ……?

せなは何も答えることができず、ただその手の中の人形を見つめていた。

「カカカカ、オモシロいモノだ」

そう言い残し、女性はくるりと背を向けると、再びガサガサと音を立て、林の奥へと去っていった。

せなは構えた武器を下ろせぬまま、その後ろ姿が消えていくのを見送った。


何が何だか分からない。

あの女性は何者なのか、おそらく魔術師。

あの人形は一体何なのか、あの「声」はあの人形からのものだったのか。

魔術世界で見た自動人形とはまた違う、あの無機質な瞳の輝き。


──「見える」のだろう?

私には、確かに魔力が「見える」。

それは、神をこの身に降ろしたあの日から、私の身についた特殊な力。

あちらの世界でも滅多にない、希少な力だという。


──ならば、ゲンショウに変えずとも、そのまま「動かせ」ばヨイ

現象に、変えず?

魔力を、魔力のまま、動かす。

光の剣を、光という現象に変えず、そのまま、動かす。


魔力が見える私であれば。

それにより魔力操作が得意な私であれば。

…………。

「光の剣」という「現象」に変えず、そのまま、「魔力の剣」として動かす?

そんなことが……。


切り株に向き直る。

魔具を構え、意識を集中する。

眼前に魔力を収束。

集まる魔力が、剣の形を作り上げていくイメージする。

魔弾とは違う。

もっと、もっと密に、重く……!

目の前で青白く、紫みを帯びた光が収束していく。

広がらず、薄く、鋭い刃、断ち切る重い刀身……!

その光はやがて棒状に、そして、徐々に形を生み出していく。

そしてついに、眼前に静かに浮かぶ、青紫に輝く剣を生み出した。

せんせい直伝の光魔術の収束した剣とは別種の、魔力のカタマリ。

「……魔力の、剣」

見開いた目に、その輝きが反射する。

と、ともに生み出された剣は、音もなく霧散してしまった。

思わず気が緩んだのか。

「でも……できた……!」


再び集中する。

おそらく6本ならこれまでのイメージで、できるはず。

複数の魔力の塊。

いや、魔弾の弾幕と同じだ、面でのイメージ。

それぞれ均等に魔力を集中させて……。

もっと、広く、それでいて、密に。

剣を展開。

魔力を直に扱う、ぬるりとした気持ちの悪さが脳を覆う。

私の自然体、回転をイメージ。

収束、集中、形成。

体の周囲をゆっくりと回転する紫の光の剣たち。

数は、数えない。

イメージから形作れる限界を作り上げているはずだ。

「ええええい!!」

気合いと共に魔具を振りかざし、切り株に向け放出する。

面で身体の周りを覆っていた剣が、線を描いて切り株に向かうイメージ。

数々の剣が次々と切り株を斬りつけていく。

1・2・3・4………10・11・12!!!

12本の剣を生み出していたことにそこで気づく。

「12……!?」

思わず声に出した。

自分でも信じられない。

先程まで、7本目の光の剣が生み出せなかったというのに。

「光」という現象を介さないというだけで、剣の生成の負担が明らかに減っている。

とにかく集中と収束、そして成形を意識するだけで良い。

魔力が見えなければ、目の前に確かに存在するカタマリとして認識できなければ、ここまでの具体的なイメージと剣の生成は難しいだろう。

おそらく、魔力を「見る」ことができる自分だからこそできたのだ。


ズタズタに切り裂かれた切り株に目をやった。

果たして、せんせいは、これを魔術と認めてくれるだろうか……。

あの女性は何者だったのか、そして魔力を帯びたあの人形は。

謎は残されたままだ。

しかし、自分にできること、それが広がったのを確かに実感する。

もう少し、「魔力の剣」の練習をしよう。

この分なら、今の12本ならすぐに安定して使えるようになれそうだ。

誰もいない林の中で、せなは静かに神経を研ぎ澄ませている。

〜二殿の報告書〜

祭事の準備に追われている状況でも、文官からの調査の依頼も入る。

身が持たない。

定期的な確認は自分たちで済ませてもらえないものだろうか。

大体、そもそも……割愛。


細かい誤差が残り続けている。具体的な調査が必要か。

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