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【それぞれの再起:折れた刀(前編)】

神織(かみおり)の武官、雨月(うづき)すいは、自室の寝台の上に横になり、天井を見つめている。

父の、雨月家の威光で、年の割に合わず、宮中に与えられた一室である

こうして、訓練もせず休暇を取るのはいつ振りだろうか。

もうずいぶんとこうしたゆっくりとした時間を取っていなかった気がする。

今日は、父の元へ行かねば。

刀を……折鋼(おれがね)十一代、あの刀を喪ったことを、報告せねばならない。

寝返りを打ち、部屋の隅に立てかけてある、もはや柄だけとなったその刀を見つめる。

身体が、心が、重い。

見習い武官の一人が、手つかずの朝餉の膳を下げに来た。

身体だけ起こし、礼をすると、再び横になる。

両手で瞼を抑える。

唇がわななく。

さい……あの子にも、呆れられているだろうか。

強い言葉を言ってしまった。

『神織にて最強』などと持て囃されてはいても、所詮、妹の神器の『加護』あってのこと。

与えられた部屋、与えられた刀、与えられた、力。

……三宮(さんのみや)、雨月さい。


いやでもあの日を思い出す。

(かがみ)()


あの日、屋敷は賑やかだった。

普段見ない顔も集まり、それぞれに声をかけられた。

着慣れぬ豪奢な着物を着せられ、父や母、付き人数人に連れられて入った宮の門。

周りにも、親や村長に連れられて来たであろう、おどおどした同じ年のような子たちが大勢いる。

宮の下層の神殿に集められ、始まる祈祷と舞。

一番前で見せられたその光景は、これからの期待や不安で、それどころではなかった覚えがある。

何が行われるのか分からぬまま、周りの大人たちに促され、相対した、鑑。

神器、天津(あまつ)天鑑(あめのかがみ)

顔よりも大きいその鑑の前に立つ。

神殿の明かりが照り返し、まぶしかった。

そして、両手を、おそるおそる、伸ばす。

その指先に感じた、冷たい、冷たい感触。

鑑は、何も示さなかった。

振り向いたときの父の顔が、忘れられない。

おそらく、失望、そして落胆、したのだろう。

周りからは将来は、偉い巫女さまか、お役人かと言われて育ってきた。

その、巫女になる道が、完全に閉ざされた瞬間だった。


その翌年、同じように着飾った妹が、宮へ向かうのを見送った。

返ってきたときの、晴れやかな、顔。

周りの者たちが口々に伝える、祝いの言葉。

父に両手で抱き上げらえる、妹。


それから、父は私の武官入りを決めた。

武官の宿舎へ移るときに父から渡されたのは、雨月家に代々伝わる、五匠(ごしょう)折鋼家の打つ名刀。

折鋼十一代。

家を出る私への餞別だった。


それからはただひたすらにがむしゃらだった。

一心に刀を振るった。

刀と一体に。

小柄な体での刀の振り方、足の運び方を身に着けた。

刀を振るう力を使った、独自の歩法を編み出した。

そして、妹、さいが天津を冠する神器、天津(あまつ)真名貴祝言(まなのいわいごと)、への適性が認められ、三宮となった。

さいが宮入りするとき、上官に頼み込んで武官として最前で迎えた。

さいはこちらに気づくと、緊張を隠せないながらも、笑顔を向けた。


ある日、宮中でさいと話す機会があった。

なぜそのような時間ができたのかは覚えていない。

「お姉さま、私の神器は、『思い』が『力』になるんですって!」

純真に話す彼女の顔。

「私が祈れば、『強いお姉さま』が、もっと『強いお姉さま』になれますね!」

笑顔。

私は、この時、なんと返したのだろうか。

神器による「加護」。

こうして、私は、神織では相手のいない「最強」となった。


「最強」……。

なにが、「最強」なものか……。

ここ最近の出来事は、決定的に私の中の「何か」を変えてしまった。

すいは、両手を瞼からはなすと、また、ぼんやりと天井を見つめた。

窓から差し込んでいた朝日も、既に上ってしまっている。

腕を投げ出し、再び思いにふける。

「強さ」とは。「力」とは何なのか。

山中の庵。刀を抜く間もなく殺された。

あの世の鬼たち。投降せず囲まれて殺された。

二股の化け物。コトワが居らず潰されて死んだ。

「きい」、そして「神」……。

折鋼十一代……。


「着替えねば、な……」

そうわざわざ口に出し、重たい体を寝台から引きはがした。

いつもの武官服ではなく、あまり着慣れぬ平服に袖を通す。

父上に会うのに、平服でよいのか?

いや、今日は神織の武官としてではなく、雨月の娘として行くのだ。

時間をかけて、帯を留める。

髪は……まあよいか。

折れた刀の柄を両腕で抱え込み、部屋を出る。

門へ向かう。

すると、廊下の柱の影から、さいが顔をのぞかせた。

「お姉さま……お出かけ、ですか?」

さいは、すいの姿を見てそう言った。

「ああ。お父様のところへ、行って来る」

腕の中の刀を見せるようにして答える。

「そう、ですか……ご朝食をとられなかったとお聞きしたのですが……」

「ふふ、少し寝坊して、な。その分、後で団子でも食べるとするさ」

「そうでしたか……お姉さま……」

さいは何か言いかけたが、飲み込んだようだ。

「いってらっしゃいませ」

笑顔で見送ってくれた。


門を出ると、門の前に立つ女性の武官から変な顔を向けられた。

この格好が珍しいのだろう。

片手を上げて簡単に礼をする。

門前町の通りを抜けて、雨月家の屋敷へ向かう。

今日は、なんだか通りの幅がいつもより広く見える。

武官服を脱ぎ、気が緩んでいるのだろうか。

小幅で歩く分、屋敷までの道も遠く感じる。

店店から香ってくる、菓子、食事の匂い。

通りの裏でまだ市が立っているのか、人々の呼び声、ざわめき。

天頂近く上った日が路面を照らし、まぶしい。

履きなれぬ履物が伝える路面の砂利。

慣れた道であるはずが、知らない世界を歩いているようだ。


そうして、ようやく雨月の屋敷にたどり着いた。

~二殿の報告書~

北の村の復旧に向けた手配が整った。

こちらは専ら社の再建を担当。

南方の宮大工を手配したが、規模は以前より小さいものとなるだろう。


このところ身辺に探りを入れられている気配在り。

頻繁に進捗や調子を尋ねられる。

警戒。

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