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幕間八【九宮と一宮】

神織(かみおり)の宮のはずれ、一宮(いちのみや)の巫女、あさめは、一人の少女が呑気に歩いている、その背中を見つけた。

九宮(くぐう)コトワ。

彼女は宮のはずれにある蔵を見つけると、無遠慮に開け放った。

後を追い倉へ近づく。

コトワは寝台に横たえられた女の身体とそして寝台の脇で添うように座らされた人形を見つめている。

入口から中へ向かい声をかける。

「むやみに倉を荒らすのはおやめください」

コトワは声に気づきこちらに振り返る。

「荒らすなどと、物騒な。少し探し物をしていただけじゃ」

答えるコトワには悪びれた様子もない。

「ただでさえ九宮様は目立つのですから……。少しはお慎みを」

コトワは、わずかに肩をすくめる。

「しかし、気づいておるのか?そこにマジュツの片鱗が落ちておるぞ」

突然の言葉に、あさめはすぐには判りかねる。

「何のことですか……?」

「その人形よ。胸元の石を見たか?完全なる球体に近い。完全なる円はマジュツにも通じる。」

その言葉に、数歩進む。しかしそれ以上は近づかなかった。

「横で寝ておるのは製作者じゃろう。悪いものを呼ばなければ良いがな」

「言っている意味が分かりません」

眉を寄せ、目を細める。

コトワは、あさめから視線を外す。

「わたくしはかつて向こう側から来た男に会い、そやつからマジュツを教わったのじゃ」

「どういうことですか?向こう側とは?」

あさめは立て続けに問うが、コトワの答えはハッキリとしない。

「わたくしにも分からん、ただ、向こう側、としか知らん」

「けむに巻くのはおやめください」

「言葉では説明しきれぬこともある」

「そうですか」

こういう人なのだ。対話をあきらめてもいい、が……。

あさめは別の話題を切り出した。トゲのようにずっと引っかかっていた疑問だ。

「ところで先日の、私の神器(じんぎ)が『あぶなっかしい』との意味もお聞きできておりません」

「そうじゃったか?まあそのままの意味よ。おぬしの信じる調和、果たしてそれは世界の調和か?」

「どういうことでしょうか」

またしてもけむに巻こうとしている。

「そのままの意味よ。一体お主はその神器、天津(あまつ)金尖刀(かなとぎのかたな)を何だと思っておる」

あさめは、腰から下げた短刀に手を当てる。

「『調和』を体現する奇跡を起こすものです。場を清め、気を収め、人を治める」

そう、乱れを正し、流れを促す。祈りによってそれをなすための重要な神器。

「それがそもそも誤りじゃ。神織としてはそうしておく方が都合がよいのだろうが」

あさめの眉間に一段と濃いしわが刻まれる。

「いったい、何を言いたいのですか」

コトワが体ごとあさめの方を向く。

「それは、世界を変える力じゃ。おぬしの望むように、な」

「私が、私の望むように世界を書き換えている、と?」

「いかにも。おぬしの思う通りに事が運ぶ、身に覚えがあるじゃろう」

「……。」

あさめは何も答えなかった。

それを肯定と受け取ったのか、コトワは続けて言う。

「ほれみよ……。この神織において、お主が最も神技(しんぎ)に近い」

神技。あさめはすいから行われた報告を思い出す。

「神器の使い方を誤るなよ」

コトワはそういい捨てると、あさめの脇を通り過ぎ、蔵から出て行った。

あさめと、魂の抜けた人形師の身体、そしてその脇の人形が取り残される。

あさめの目に、人形の胸元にはめ込まれた石が一瞬輝いたように見えた。

~二殿の報告書~

九宮が私の神器について知っている旨をあさめ様へ報告した。

しかし、なにやら別のことを悩んでおられるようだった。

九宮が来てから頭を悩ます件が多いようである。

実務上の影響は出ていないので様子を見る。

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